2012-10-10 代替療法に対してRCTによるEBMがモットーの伊藤壽記教授
10/9付Risfaxより、
統合医療検討会 論点整理で議論紛糾、「ホメオパシーは許さない」
厚生労働省の「統合医療」のあり方に関する検討会は5日、統合医療の定義付けや、具体的な行為を示した厚労省の整理案をめぐって、議論が紛糾した。なかでも、日本学術会議などが猛反対してきた、病気と同様の症状を起こす物質を水で薄めて患者に投与する「ホメオパシー」が入ったことについては、反対派の医師らが「許せない」と語気を強める場面もあった。
厚労省が提示した整理案では、統合医療の定義は「近代西洋医学」と、相補・代替医療や伝統医療などとの「組み合わせ」と解説。そのうえで、組み合わせる療法を(1)食や経口摂取に関するもの(2)身体への物理的刺激を伴うもの(3)手技的行為を伴うもの――など8項目に分類した。食や経口摂取に関しては、具体例に「食事療法、断食療法、サプリメント、ホメオパシーなど」を挙げた。
この案に対し、元日本学術会議会長の金澤一郎委員は「食事療法、温熱療法、温泉療法、一部の漢方医学などはすでに西洋医学で行っている。鍼灸などは国家資格があり、サプリメントもトクホ(特定保健用食品)のように国が一部認めているものがある。そういうものとホメオパシーを一緒にするのは何事か」と憤慨。「医療という言葉を使うのは非常に危険。政府が何を言ったって関係ない」と不満をぶちまけた。
これに対し、統合医療推進派の伊藤壽記委員(大阪大学大学院医学系研究科教授)は「医師主導でよいものと悪いものを区別していく以上、統合医療は医療として考えていかなければならない」と反論。ホメオパシーについては、「日本学術会議でどういう程度議論があったかは知らないが、国際学会もあるし、WHOも安全指針を出している。(効果が)わからないものを消すのではなく、ホメオパシーも含めて関係者の意見を聞く広い視野が必要だ」と主張した。
厚生労働省の「統合医療」のあり方に関する検討会てなものやってたんだ。さすがに鳩山元首相の遺産つうか、民主党マニュフェストの一部でもあります。今年の3/26から10/5の間に4回の委員会が開かれているのが確認できます。記事は第4回の会議の様子を伝えているのですが、
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厚労省が提示した整理案では、統合医療の定義は「近代西洋医学」と、相補・代替医療や伝統医療などとの「組み合わせ」と解説。そのうえで、組み合わせる療法を(1)食や経口摂取に関するもの(2)身体への物理的刺激を伴うもの(3)手技的行為を伴うもの――など8項目に分類した。食や経口摂取に関しては、具体例に「食事療法、断食療法、サプリメント、ホメオパシーなど」を挙げた。
これはたぶんですが、実質的に会議の内容を決める事務局が提出した資料4「統合医療において近代西洋医学と組み合わせる療法」だと考えられます。これを引用しておくと、
「磁器療法」ってなんだ?と思いますが、「身体への物理的刺激を伴うもの」に入っていますから伊万里焼の皿とか九谷焼の壷でも抱きかかえる治療法でしょうか。それともピップエレキバン系の事でしょうか。調べる気もありませんから、興味のある人は自分でググって下さい。まあ事務局提出の表に入ると言う事は、ここに書かれている治療は統合医療の保険適用の有力候補じゃなく決定に近いとも受け取れます。
良く見なくともホメパチも入っているのですが、元日本学術会議会長の金澤一郎委員が激怒したとの話が記事の一つのポイントのようです。そりゃ金澤氏が学術会議の会長時代に金澤氏の名前でホメパチ否定の会長談話を出しているわけですから、喧嘩を売られているようなものです。黙ってハイハイと受け取るわけにはいかないでしょう。
でもって今日のハイライトですが、
これに対し、統合医療推進派の伊藤壽記委員(大阪大学大学院医学系研究科教授)は「医師主導でよいものと悪いものを区別していく以上、統合医療は医療として考えていかなければならない」と反論。ホメオパシーについては、「日本学術会議でどういう程度議論があったかは知らないが、国際学会もあるし、WHOも安全指針を出している。(効果が)わからないものを消すのではなく、ホメオパシーも含めて関係者の意見を聞く広い視野が必要だ」と主張した。
日本学術会議に喧嘩を売ってまで厚労省がホメパチを入れたいとしているのですから、深く考えなくともホメパチ擁護推進の委員がチャントおられるわけです。こうやって反論があれば、金澤氏の異論も「ただの意見」になり、良くて両論併記、たいていは異論もあったぐらいで報告書にホメパチも含まれるの答申が粛々と打ち出されるわけです。この手の委員会の常套手段の一つです。
さて、この伊藤壽記委員ですが記事では「大阪大学大学院医学系研究科教授」となっていますが正確には、
ここの教授です。「生体機能補完医学」とは難しそうな名前ですが、簡単に言えば統合医学の研究講座です。もう少し調べてみると、この講座はアミノアップ化学の寄附講座である事が確認できます。2005年に出来た講座で、開設当初は1億5000万円で3年の予定であったようですが、今も続いていると言う事は延長されているようです。仮に年間5000万円ペースなら5億円の寄付になります。それにしてもそれだけ儲かっているアミノアップ化学が羨ましい。今はもっと寄附額を値切っているかもしれませんけど。
アミノアップ化学は北海道飼料研究所として1977年に出来たようですが、現在はいわゆる健康食品の製造販売会社のようで、なかでも担子菌培養抽出物「AHCC」とかゲニステイン高含有大豆由来抽出物「GCP」(これらが何かは聞かないで下さい、調べる気力が湧きませんでした)とかが主力商品のようです。とくにGCPは日本統合医療推奨会の代替医療の種類に挙げられています。もっともここには各種テンコモリ掲載されていますから、one of them 程度です。
さて生体機能補完医学が作られた時のアミノアップ化学の2005年のニュースレターがあります。その中に伊藤教授の開講に当たっての抱負が書かれているところがあります。このニュースレターが実に面倒な事にコピペはもちろんのこと、印刷さえ出来ないので純手打ちで一部だけ起しましてみます。
以上の事を背景として、最近、補完代替医療(Complementary and Alternative Medecine:CAM)という新たな領域が現れ、脚光を浴びております。しかしながら、CAMの大半はEBMによる検討が行なわれておらず、そのためにはRCT(Randomized Contorolled Trial:無作為化比較試験)による臨床試験によりその評価を行わなければなりません。私はこれまでに消化器外科医、移植外科医として、消火器癌、炎症性腸疾患(IBD:Inflammatry Bowel disease)、末期重症糖尿病等の疾患を中心に、手術療法、補助化学療法、免疫遺伝子療法、移植療法(膵・膵島)、再生医療の領域で、EBMを目指して臨床・研究を進めてまいりました。特に、最近では患者のさらなるQOLの向上といった観点より、現行の治療効果を高めるための包括的な治療体系の構築を目指して、その方法を検索しております。私はこうした経験に基づいて、免疫賦活剤、免疫調整剤や天然物に由来する生理活性物質を含有する栄養機能食品やサプリメントなどによるCAMの各種疾患・病態の意義につき、臨床試験によるEBMに基づいた検討を行い、CAMが医療の中に占める役割を検証していきたいと考えています。
この後はしばらく中略にさせていただいて、〆の言葉です。
以上より、本講座の使命として、臨床試験を通じて科学的根拠に基いたCAMの客観的評価を行い、単なる補完、代替の医療ではなく、集学的治療の中で現状の医療と有機的に融合する道を探索したいと考えます。
ここでもう一度Risfax記事にある伊藤教授の言葉を引用します。
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(効果が)わからないものを消すのではなく、ホメオパシーも含めて関係者の意見を聞く広い視野が必要だ
そこまで主張されるのなら、伊藤教授におかれましては、
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科学的根拠に基づいたホメパチの客観的評価をお示し頂きたい
それを行うのが伊藤教授の専門講座のお仕事そのもののと存じます。また関係者の科学的根拠に基いた意見を聞くにも通じます。10年前からEBMをRCTによる臨床試験でCAMに求めると、これだけ繰り返し明言されている事ですし・・・もっとも伊藤教授のモットー根拠は2005年の記事に過ぎず、「歳月は人を変える」「言っている事とやっている事が違う」部分については検証できていませんので悪しからず。
そんな人がこういう検討会の委員になっていいんですか?
専門家こそ委員になるべきというのは、私もそうだと考えいたんですが、原発事故以来、どうもそれはダメだということにこの国ではなったようなのに、この委員会は例外ということなんでしょうか。広く国民の意見を聞くというような公開の会でさえ電力会社の社員だったら意見を言うことさえいけないというのに、国の検討会の委員になれるってどういうこと?
そういえば、何でもかんでも放射能なり、原発に結びつける人が多いのは苦笑させる時があります。でもって、放射能とか原発に結び付けている意見が高尚であり、そうでないのは程度が低いと論じておられました。絡んだら定番のヒステリーが返ってくるでしょうから、サラサラとスルーしておきました。
むしろ,大島座長(「そもそも統合医療に科学的な手法による知見で整理できるものですか。」)や,佐々木調整官((個々の代替医療について)「ここで有効かどうかを決めるくらいの知見があるとはなかなか言えないと思います。」)らが,EBM導入に反対している(少なくとも,「この会議は個別の療法について有効性を検討する場でない」と主張し,EBM的な考えから議論をすることを避けている)ように見えます。
この議事録からすると,私としては,伊藤教授自身は,従来の自身の見解(代替療法についてもEBMに基づいて有効性を判断すべき)を変更している可能性は低いと思います。件の発言についても,前半部分は伊藤教授自身の意見だとは思いますが,後半のホメオパシーに関する部分については,伊藤教授の意見というより,大島座長や佐々木調整官が主導してまとめた最大公約数的意見を「言わされた」(あるいは,まとめを述べたつもりが自身の意見と誤解された)可能性があるのではないでしょうか。
伊藤教授の持論である西洋医療と東洋医療(代替医療)の統合・融合を進めるかわりに,ホメオパシーについて反論しない,くらいの駆け引きというか暗黙の合意というか互いに相手を利用してやれというか,そういったものはあったのかもしれないとは思いますが。