山中氏ノーベル賞:目元緩ませ「感謝」繰り返し
毎日新聞 2012年10月08日 21時36分(最終更新 10月09日 00時45分)
病気の原因解明や治療など医療全般に応用が期待される研究が、世界最高の栄誉に輝いた。ノーベル医学生理学賞の授与が決まった京都大教授の山中伸弥さん(50)は整形外科医から進路を変え、病気に苦しむ患者を助けたいとの一心で基礎研究に没頭した。「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」の開発を発表して6年余りのスピード受賞に感謝の言葉を繰り返した山中さん。経済が低迷する日本に届いた朗報に、同僚や恩師らからは歓喜の声が上がった。
◇「今後さらに努力」苦しむ人、おもんぱかり
「国や大学をはじめ、いつも励ましてくれた友人、家族に心から感謝したい」。勤務先の京都大(京都市左京区)で記者会見に臨んだ山中さん。緊張した表情で言葉をかみ締めながら感謝の言葉を繰り返し、時折、眼鏡の奥の目元を緩ませた。
受賞発表から約1時間後の午後7時半ごろ、山中さんは京都大本部棟にタクシーで到着。同8時前、水色のネクタイと淡いグレーのスーツ姿で記者会見場の大会議室に現れ、待ち構えた200人を超す報道陣から無数のフラッシュを浴びた。
会見が始まる直前、着席した山中さんの携帯電話に野田佳彦首相から連絡があり、こわばった面持ちで「ますます励みますのでよろしくお願いします」と返答。会見で感想を求められると「総理大臣と直接話すのは初めて」と照れくさそうな表情を浮かべ、会場を沸かせた。
その会見で、山中さんは「感謝」の言葉を多用した。「名目上は山中伸弥だが、日の丸のご支援がなければ受賞はできなかった」。無名の研究者として歩み出した十数年前から、国や大学の支援を受けられたことに加え、分野の異なる研究者や家族に支えられたことに謝意を表した。そのうえで「80歳を超えた母に受賞を報告できてよかった」と語り、こみ上げてくる感情を抑えるように口を真一文字に結んだ。
ただ、受賞については「まさか、取れるとは思っていなかった」。ノーベル財団からの吉報が届いたときは「ガタガタという洗濯機を直そうと座り込んでいたときに、携帯が鳴って、それが英語だった」と話し、会場の笑いを誘った。こうしたユーモアに話が及ぶと「本当は僕はもっと面白い人間だと思うが、これだけの人間を前にすると……」。さらに「大阪生まれの大阪育ちですから」と付け加えて、ちゃめっ気ものぞかせた。