眼 底 の 病 態

§ 眼底の臨床病理 T.眼底所見 fundus examination 見出し一覧

眼底 eye ground fundus oculi とは,「眼球の中」あるいは「眼球の奥」で,直視できる組織,
網膜 retina視神経乳頭 optic disc /papilla脈絡膜 choroid の総称である.

@眼球断面

§ 眼 底 ocular fundus

眼底検査 fundus examination

視神経は発生上大脳白質の一部すなわち中枢神経としての性質を持ち,網膜は人体の中で血管を直接観察できるほぼ唯一の器官である.従って眼底検査とは眼科疾患だけでなく,種々の全身疾患に伴って眼底に現われる病変のチェックをも意味する.このような観点が眼底検査の大きな意義と思われる.

通常の眼底検査の手技には,検者が直接観察するものとして直像検眼鏡または倒像検眼鏡,あるいは細隙灯顕微鏡を利用する方法がある.眼科医が言うところの眼底検査は,周辺部はもちろん硝子体毛様体を含む眼球内部全体を指していることが多い.「眼底所見」というと,暗黙ですべてを含める訳である.

眼底と検眼鏡眼底カメラ

有色人種(左図)では網膜色素上皮はやや褐色がかり,脈絡膜模様は判然としないが,黄斑の認識は容易である.近視あるいは加齢により脈絡膜模様が目立つようになる.豹紋状 tigroid という.白子 albino では全体に赤みが強い上に脈絡膜の血管模様が直視できる.黄斑部の色調は明瞭でない(右図).

A正常眼底 Balbino
Cぱのらま

眼底検査は検眼鏡 ophthalmoscope で眼底を観察し,眼底カメラ fundus camera でこれを写真に撮る.眼底カメラは客観性・記録性のゆえに通常の診療記録や集団検診などの場に広く普及しているが,写真は解像力に限界があるほか,写されている範囲以外は判らない点が致命的である.これをカバーするために,貼り合わせ写真(パノラマ画像化)の技がある.
当シリーズでもいくつかの広角写真を用意した.視点を広くして眼底を見る練習になれば幸である.

網膜の神経要素は透明であることから,実際の検眼鏡ないし眼底カメラで直接見えるのは,視神経乳頭・網膜血管・網膜色素上皮ということになる.照明光を当てて帰ってくる光であるから,『反射』と言う表現を使う(網膜反射,血管反射, ..).

表面には網膜血管を含む半透明の膜(神経要素)があり,網膜色素上皮の奥に脈絡膜がある.奥には脈絡膜が床下となっている.眼底の色は照明光と網膜色素上皮脈絡膜の色素(と脈絡膜の血流,..たぶん)に左右される.

多くの病変は刻々変化するものであるから,時間経過を加味して所見を把握することが求められる.

§ 部位の表現

  1. dimension

    眼球は,角膜頂点が前極 anterior pole ,後方強膜の中心が 後極 posterior pole ,前後方向が axis となる.眼球の腹で円周最大部が赤道 equator ,極を通る外周が子午線(経線 meridian )である.これらを眼底部位の大まかな位置表現に対応させると,視神経乳頭黄斑を含む一帯が後極部,その外側で渦静脈のある部分が赤道部,さらに周辺部(あるいは鋸状縁部)と続く.赤道部までを中間周辺部 mid periphery,その先を最周辺部 most periphery ということがある.

D面 E

眼底写真の画角(水平約45 ~ 50°)が,だいたい後極部の範囲をカバーする.

  1. location

    @構造上の眼底中心は視神経乳頭である.
    これにより病変の方向は,乳頭から耳側・鼻側・上方・下方と言い,または時計廻りの時刻を用いる.乳頭から鼻側水平方向(つまり内側)は,右眼ならば3時方向であり,左眼では9時方向となる.

    病変の大きさや乳頭縁からの距離は乳頭の直径と比較する.乳頭径(DDdisc diameter)である.乳頭径は個人差が大きいが,ていねいに評価しようとする時には横径と縦径とを平均する.目分量とはいえ絶対値とするには, 1 DD 1.5 mm 5 °,ほどである (300 µm は,視角にしておよそ°に相当する.計算の根拠は こちら).

    F G

    上右図では乳頭径は横径をとっている.本より大まかな表現であるから差し支えないが,特に緑内障での陥凹を評価しようとするときのC/D比では少々不都合である.乳頭境界 disc margin については下記参照.
    中心窩あるいは網膜血管との位置関係で表わすこともある.

    A機能的な眼底中心は黄斑(中心窩)である.すなわち,視野としてとらえられるものである.

    H

§ 眼底の各要素

Idisk

(1) 視神経乳頭  optic disc

  1. 視神経乳頭は視神経線維が集合し,網膜動静脈が出入りする.

    径は 1.5 mm(〜縦径 1.7 mm ),周りはやや茶褐色の色素輪が囲み,網膜色素上皮・脈絡膜の断端と見做す.乳頭境界 disc margin である.明るいオレンジ色で神経線維の占める部分が辺縁 neural rim で,鼻側が厚く耳側(黄斑側)が薄い. 中央のへこみが陥凹 cup/excavation である.陥凹部では,内境界膜はやや厚くなっている(central meniscus of Kuhnt ).その下が篩板ということになる.篩板へ向かう神経線維と網膜端との間にはグリア組織が介在し( Kuhnt ),さらに篩板までの神経線維を束ねている( Jacoby ).網膜内境界膜はMüller細胞由来であるが,乳頭面では他のグリア細胞由来となる( Elschnig 's membrane ).
    なお,網膜・脈絡膜がないわけであるから,視覚を生じることはない(盲点).

  2. 乳頭内部は,およそ四部に分ける.

    J 図K

    最表層は@神経線維層で約100万本の神経線維が集合する.硝子体に面し内境界膜がある.これは神経線維まわりのグリア細胞(主にアストロサイト astroglia 星状膠細胞栄養を担う)の基底膜である.アストロサイトの突起(グリア隔壁)が神経線維をとりかこみ約500〜1000本ほどの束(神経線維束)を形成する.ここがA前篩状板部である.強膜から連続するコラーゲンの薄板( laminar beam )が多重層になっている部分がB篩状板である.薄板には多数の孔( laminar pore )があり,神経線維束を通す.C後篩状板部から神経線維は有髄となり,眼外と解釈する. 篩状板後方のグリアは,髄鞘を形成している乏突起(希突起)神経膠細胞oligodendroglia である.乳頭色の一部は髄鞘の色と考えられる.

    乳頭の毛細血管網は表層@が網膜中心動脈であるが,篩状板部は短後毛様動脈で栄養される.模式的にはおおよそ,A前篩状板部は脈絡膜血管から,B篩状板部は Zinn-Haller動脈輪経由と軟膜動脈の反回枝,C後篩状板部は軟膜動脈の反回枝とわずかな網膜中心動脈の枝による.これらにより,螢光眼底造影において乳頭部への造影色素は網膜中心動脈よりも早く出現し,後期で過螢光を示すのは脈絡膜の断端,すなわち乳頭縁のみとなる.このことは血液関門の機能を示唆し,組織学的にもほとんどの血管内皮に tight junction が認められる.脈絡膜血管の証しである有窓血管は少ない.なお,共に網膜中心静脈へ環流する.

    神経線維と網膜中心動静脈が強膜篩状野を通過し眼外となる.
    乳頭面には眼内圧が,強膜は視神経鞘脳硬膜と連続し,脳脊髄圧がかかっている.つまり眼圧は篩状板を介して脳圧と拮抗する.眼内と眼外を隔てるのは『篩状板』ということである. K毛様網膜

  3. 網膜血管は乳頭部を中心としてまず上下に分かれ網膜に分布する.動脈は基本的に網膜中心動脈の枝ということになっているが,時に脈絡膜から顔を出している動脈がある.毛様網膜動脈 cilioretinal artery である.しかしながら網膜毛様静脈 retinociliary vein の存在は否定的   のようである.

  4. 視神経乳頭 optic papilla という表現は,組織学的な断面形状のイメージがある.これに対し,眼底所見の中の一か所としての平面的なイメージでは optic disc 視神経円板という.実際には恐らく英語圏では使い分けるものの,漢字では通常,視神経乳頭が一般的である.
    眼底でのモノサシであるdisc diameterDD )は眼科用語では乳頭径という

(papillary diameter とは言わない.PD と言うと別の意味の略語となる.)

  1. 視神経の続き

    正常
  2. 乳頭のチェックポイントは,形状・色調・境界・陥凹・高低・血管走行などである.

     0 .形態は個人差が大きく,一概には正常範囲 within normal limitsWNL)を決めにくい.多くの写真で確認して欲しい.
    近年では乳頭面積が注目されている.白人<ヒスパニック<アジア人<黒人,とのことである.

    @.乳頭境界とは,@脈絡膜の端と,A篩状板部の外周,ということで脈絡膜といえば,脈絡毛細血管板あるいは網膜色素上皮層の終端,とも読み替えることができる.模式図的には@Aではあるのだが,両者が一致しないことはまれではない.
     a.脈絡膜あるいは網膜色素上皮の終端部は不規則な色素沈着が起きている.病的な意味は,ふつう無い.
     b.通常は@がAまで届かずに,強膜が見えている.コーヌス である.
     c.時にAを越えて,つまり乳頭内に色素上皮層の断端を認めることがある.二重輪 である.
     d.乳頭径をいうときは,境界を決定しなければならない.緑内障の乳頭評価の立場では 乳頭外縁 という表現を用いている.これは検眼鏡的に観察される乳頭周囲の白色の強膜リング( Elschnig の強膜リング )の内側,ということになっている.言い換えれば,篩状板部の外周辺縁部(rim)の外周,ということだろうが難しいね(そもそも強膜輪が見える乳頭が少ないのだよ.右下図なんかどうだ?長径は50度傾いてるし,陥凹はコーヌスに重なってるし,二重輪の様でもあるし ...). 例
     e.主に加齢変化として,脈絡毛細血管が萎縮・後退する.
     f.緑内障性視神経萎縮では,随伴所見として乳頭外輪が萎縮・変色(この場合は色素沈着状)する.

    A.色調とは,おもに辺縁部の状態である.網膜表層すなわち神経線維層と前篩状板部の毛細血管により橙色が,篩状板により黄色が生じる.

    B.高低とは,辺縁部の網膜表面の隆起状態と陥凹底の深さである.しかし,陥凹を「表面の高さよりも下の部分」と見做すのが一般的であろうが,「色素上皮のレベルより深い部分」と定義する研究者もいる.近年ではコンピュータ処理が容易になったため表面からの深さを指定して陥凹の形状解析が行なわれ,緑内障の臨床経過に有力な情報となっている.

    これらにより病変は

    @.網膜表層が混濁すると境界不鮮明blurred margin となる.視神経線維軸索流のうっ滞が主で循環障害による浮腫が加わったものである.通常,腫脹・隆起swelling を伴う.
     機能障害がないとを冠するのであるが,どうしてどうして難しい.

    A.色調は主に毛細血管の病態が反映される.混濁・腫脹があるとき強い毛細血管拡張を伴えば発赤浮腫,毛細血管拡張が少ないときは蒼白浮腫となる.拡張する毛細血管は,いわゆるRECs領域である.原因が想定されるとき蒼白を虚血ということがある(例:虚血浮腫).
     毛細血管あるいは血流の減少では褪色 pale disc化 する.すなわち萎縮 atrophy である.視神経線維(視束)の萎縮が先行するとグリア増殖を伴い,神経線維の透明度がなくなり黄色味となる.様萎縮が例である.

    B.陥凹 cupping の形状は,生理的には水平方向の陥凹径の方が大きいが,緑内障では垂直方向の陥凹径が大きくなる.陥凹径を表したのがC/D比である.陥凹底には篩状板が見える.ということで即ち深さを忘れては不可ない.
     陥凹が大きくなれば辺縁がやせるのは言うまでもない.辺縁は視神経線維で出来ていることから,神経線維の萎縮を疑う( 緑内障.

    C.血管走行は陥凹の形状変化と共に,重要なチェックポイントである( 緑内障.
     しばしば静脈拍動が観察される.また眼球の圧迫で,誘発することができる( うっ血乳頭.
     乳頭部循環では,静脈系はすべて網膜中心静脈へ流入する.ここに循環障害が生じると脈絡膜へ合流する側副路ができる.optociliary vein である.

  3. 1 【 螢光眼底造影検査 では

    1 【 乳頭部の症例写真 では

  1. 例 外毛様網膜動脈,すなわち網膜を栄養する脈絡膜血管は(眼数にして)およそ10%ほど観察される.では,脈絡膜,すなわち渦静脈へ排出する網膜静脈はどうだろう.これこそ乳頭部の形成異常のカテゴリー,ということで非常に希,ということになっている.
    網膜静脈はどこへ行く ♪♬♪?

図31 図30 図32

(2) 網膜血管  retinal vessels

  1. 細く明るい色調が動脈(A;artery),太く暗い血管が静脈(V;vein)である.乳頭上で動脈は約 100 µm ,静脈は約 200 µm の径がある.
    乳頭部を出た網膜中心動脈は内弾性板を欠き,筋層も減少して細動脈になる.網膜脳層の栄養を受け持つ.

    M
  2. 模式的には,網膜血管は各象限・四方向に分岐する形態をとる.網膜動脈は乳頭でまず上下に分かれ,神経線維層内を走行し二分岐を繰り返して周辺へ分布する.毛細血管は内網状層と外網状層に毛細血管網を形成する.静脈も同様に本ずつ合流し,神経線維層内を走行して上下から視神経乳頭内に集合する.一般的に網膜面での径は,動脈:静脈=ほどである.
    黄斑をはさむ上下の耳側血管を,血管アーケード vascular arcade という.黄斑耳側水平方向は上下アーケード血管の接点となり,これが(耳側)血管の縫線部 temporal rapheである.しかし神経線維の走行とは別の配置となっており(神経線維の縫線と網膜血管のそれとは一致しない),さらに周辺では上下いずれかが優勢に分布する.不思議なことである.

    乳頭+黄斑+血管アーケード近辺=後極,ということになる.また,鼻側血管もアーケードということがあるが,実際は直進走行となる.

    血管パターンには個体差があるため,生体認証・個人認識( biometrics )が出来る.

  3. 網膜血管壁はほぼ透明で血液がそのまま見えている(血柱という).
    血管が透明であることを実感することはほとんどないが,まれに確認できるかもしれない.写真 では動脈はもとより静脈を透かして脈絡膜の豹紋が見えている!(拡大してみてください)

  4. 網膜血管の特性

    @終動脈であることから網膜面において動脈(A)と静脈(V)は必ず 交互に配列 されており,分岐後は動静脈交叉部が生じること,交叉部では動静脈の外膜が共通であること,毛細血管床は動静脈を持ったユニットの集合となっており隣り合うユニット同士は機能的に独立した潅流単位であること,などが特徴的な網膜血管病変を示す理由となっている.

    終動脈動脈と動脈の間に吻合を作らない.

    交叉部眼科用語集では『交差部』であるが,私は敢えて「叉」を用いる.「叉」のほうが血管が重なった感じがするので ...
    図は,交叉部で動脈に影響される静脈流を示す.なお,
    静脈が下を通るのは80%ほどとのことである.

    N

    A.臨床症状をもたらす基本構造は,終動脈と網膜(毛細)血管の立体的配置である.

    O P

    網膜毛細血管網は基本的には三層構造を示す.すなわち,右図Aは神経線維層(定型ではいわゆる,放射状乳頭周囲毛細血管を含む)の浅層毛細血管網,Bは内網状層(と内顆粒層の境界部)レベルの中層毛細血管網,Cは内顆粒層(と外網状層の境界部)レベルの深部毛細血管網を示している.
    これらにより,潅流単位という解釈,動静脈交叉部や縫線部の存在,などが説明できる.

    B.動静脈の交互配置は 中心窩周囲の血管配列 にも当てはまる.さらに交互配置の規則性が黄斑耳側2.5乳頭径ほど維持されている.ここが縫線部血管で毛細血管の連絡構造はあるものの,機能的には上耳側領域下耳側領域で血流の連絡はない.これにより分水嶺 watershed と呼ばれる.

    C.動脈−静脈の分岐走行パターンは血管病変の解釈に欠かせないが,例外は存在する.写真左では上耳側動脈にからんだ小静脈(新生血管ではありません)が,写真右では三分岐動脈が ...

    D.潅流(灌流)か,環流か,還流か

    これらにより病変は

    @.血管自体の変化として,動脈では細くなり静脈では太くなる.即ち,
    動脈変化は直線走行口径不同狭細血管壁の混濁(反射亢進),静脈変化は拡張蛇行である.交叉現象はこれらが強調されたものと解釈される.通常の交叉現象は加齢のほか,高血圧糖尿病による所見であるが,時に病的意味のない先天異常のこともある.
    各種の病態によって毛細血管のダメージが加わる.毛細血管の変形は,血管瘤拡張と内皮細胞増殖すなわち新生血管形成が基本形である.

    ・血管拡張網膜静脈閉塞でのバイパス形成,など.
    ・毛細血管瘤血管周皮細胞の消失 血管内皮細胞の増殖による.糖尿病網膜症の基本パターンである.血管内皮細胞増殖といえば新生血管そのものであることで,毛細血管瘤とは血管新生の病態に含めてよい.
    ・血管新生  こちら

    A.血管の病理(網膜循環障害)は,血管の変形のほか虚血,出血浮腫に集約される.即ち,
    閉塞病変 透過性亢進  である.

    ★血管閉塞(occlusion)
    閉塞は血管内皮傷害を基として血栓が形成されて起きる.元の管腔はグリア(Müller)細胞によって埋められ,白線化する.虚血網膜の問題は新生血管が発芽することである.通常,内皮細胞の増殖機転は静脈側で起きる.

    疾患的に見ると閉塞は血栓塞栓による.動脈閉塞は両者で発症し,静脈閉塞は血栓による.
    閉塞の原因
    @動脈硬化・・・
    乳頭部の動脈(まれに網膜動脈で)は,硬化性変化により内腔狭窄をおこす.実際に眼動脈が閉塞するような状況は,心(心房細動や弁膜症による血栓)内頸動脈(血栓やアテローム物質)が責任部位となることが多い.
    静脈閉塞は,交叉部(網膜面)や併走部(乳頭内)で静脈内血栓が生じることによるが,動脈硬化による影響が元である.
    A高血圧症・・・
    自動調節の限界を超えるような血圧の変化では,血管攣縮と血管内皮の損傷がおこる.
    血管攣縮が即ち虚血であり,内皮損傷がすなわち透過性亢進である.これらの変化は,網膜血管<脈絡膜となる.
    B糖尿病 ・・・
    血管閉塞をおこす代表疾患である.
    C炎症  ・・・
    感染性血管炎と非感染性血管炎がある.
    感染は,菌(梅毒,結核など),ウイルス(ヘルペス,サイトメガロなど),真菌による.
    非感染とは,膠原病などによるぶどう膜炎の病型の一つ.
    Dそのた
     

    ★透過性亢進(hyperpermeability)
    正常な眼底血管は透過性が抑えられていることで組織圧が維持されている.血管透過性亢進の結果が浮腫である.浮腫とは「組織間隙に溜まる体液」ということであるが, 網膜は間質成分が少なく浮腫に対する予備能力が乏しい.その上,浮腫が生じた際に効率よく浮腫液の回収が出来るようにはなっていないらしい. これにより,少量の水分貯留でも所見が出やすく,特に黄斑浮腫を生じ易いと考えられる.さらに,成分が濃縮され沈着あるいは食細胞に取り込まれた所見が硬性白斑になる.

    網膜血管に透過性亢進があれば網膜浮腫や網膜内のとなり,神経線維束間腔や外網状層を中心に貯留する.特に黄斑部では胞様浮腫あるいは網膜離の形をとる.脈絡膜血管(実際は網膜色素上皮)の透過性亢進では,網膜下(視細胞層と網膜色素上皮層の間=網膜)に漏出液が貯留する(これも浮腫と言う).

    網膜浮腫 感覚網膜がふやけている(通常は網膜血管の透過性亢進
    (続発性)網膜離がある(通常は色素上皮の透過性亢進

    透過性(permeability)を規定しているのは,血液関門のバリア機能である.透過性亢進とはバリア機能の破綻を意味している.すなわち,漏出である.これはフルオレセインナトリウムにより評価できる.眼底写真でみるのが螢光眼底造影検査ということになる.

    Qばりあ

    臨床では滲出漏出を厳密には区別することはない.低比重(漏出)でも時間経過で濃縮されれば高比重(滲出)になってくる(敢えて言うと,高比重液が漏出する,というような所見がある).

  5. 脈絡膜血管の循環障害
    ほとんどが網膜色素上皮外血液網膜関門の機能障害として遭遇する.

(3) 網 膜 retina

R
  1. 網膜表層はかすかに白っぽく掃いたようなスジがついてみえる.スジは神経節細胞の軸索突起,すなわち視神経線維である.
    中心窩から視神経乳頭への最短ルートが,乳頭黄斑線維束である.黄斑耳側では神経線維が上下に分かれて,弓状に黄斑を迂回して視神経乳頭へ向かう.この上下に分かれる水平経線が(耳側) 縫線 temporal raphe である.上下方向に向き合うのは黄斑から2.5乳頭径ほどで,それより更に外側では平走,というか直線走行となる.

  2. 網膜の枠組み構造

    S

    網膜は発生上構造上の特性があり,病理変化を解釈する基となっている.
    発生とその延長では,透明な神経要素(感覚網膜)と,色素を持つ網膜色素上皮とから成る.一方,
    網膜循環の立場では,脳層(内層)と神経上皮層(外層)という分け方ができる.

    @.水平構造
    水平方向の構造は,@内境界膜と神経線維層,A中境界膜,B外境界膜,C網膜色素上皮とBruch膜,によって仕切られた層構築となっている.

    A.垂直構造
    垂直方向の構造は,感覚信号伝達のための神経接続とMüller細胞のことである.信号プロセシングを行う神経は三階構造を示している.内外の境界膜をつなぐMüller細胞は網膜を縦貫している.

    B.血管の二重分布
    @網膜血管網膜内層の栄養.毛細血管は内顆粒層の深部にまで存在する.
    A脈絡膜網膜外層の栄養
     内外層を分けるのが中境界膜ということになる.

    C.神経上皮といえば光受容細胞を指す.眼科では網膜色素上皮細胞と網膜視細胞を合わせて神経上皮層といっている.すなわち,網膜10層では網膜色素上皮層,視細胞層,外顆粒層,外網状層の一部,となる.

    D.脳層といえば神経回路を指す.外網状層神経線維層と考えるほうがわかり易いかもしれない.内境界膜は眼球壁内面(虹彩の裏から視神経乳頭まで)をすべてカバーする基底膜である.ということで,脳層がない中心窩にも「内境界膜」は有る.

    0 模式図

  3. 網膜病変 retinal lesion

    眼底の病変は,網膜色素上皮以外の網膜は透明であるから必ず色調の変化として観察される.色調の基本的な変化は,白または混濁,黄,赤,黒であり,さらに位置関係(色素上皮より奥か手前か,など)で修飾される.
    また,眼底表面反射と黄斑輪状反射は平坦性を示す指標となり,神経線維層の萎縮欠損を評価,あるいは浮腫の存在を疑う手がかりとして重要である(黄斑部の項).

    1.  神経線維層欠損定形的には緑内障での神経線維層の萎縮・欠損所見となるが,高血圧網膜症(軟性白斑)の跡としても観察されたりする.しかし,なぜか糖尿病網膜症での軟性白斑は,白斑消失後の神経線維層萎縮が分かりにくい.

    2.  赤色病変通常は出血 hemorrhage/bleeding と考えてよい.

      出血のかたちは, 21出血型
      @神経線維層より前:貯留部位は,後部硝子体膜と内境界膜との間,および内境界膜と神経線維層との間である.内境界膜の上か下かの鑑別が必要になることがあるが,空間がないと薄い面状に広がり,網膜血管は血液で隠される.網膜面で赤血球が沈降し舟型 boat-shaped あるいは水平線 niveau を呈する.凝固しにくいためとのことである.
      A網膜浅層出血:神経線維層により,火炎状 flame-shaped あるいは線状 streak-like と呼ぶ「すじ状」を呈する.
      B網膜深層出血:主に外網状層内により,点状 dot あるいはしみ状 blot を呈する.点状 punctate の所見は毛細血管瘤との鑑別が必要である.
      C網膜下出血:視細胞層と網膜色素上皮層の間,あるいは,暗赤色や褐色の膜をかぶせたような外観の色素上皮下の血腫を示す.
      時間経過で出血巣の外観は変化する.大量では赤血球が壊れヘモグロビンが失われると黄褐色となり,数か月の経過で吸収される.少量では変色は判然としないまま薄まり,吸収される.

      出血」として指している対象は,一応は溜まった血液 blood である.
      病態の理解のために重要なのは出血源で,固有血管からの出血であるのか,新生血管からであるかで大きく違う.網膜固有血管からの出血は種々の病態で起こる.脈絡膜血管からの出血は難易度が高い.網膜新生血管は通常,合併症としての意味合いが多く,脈絡膜新生血管は疾患本態であることが多い.
      上のように「眼底出血」の診断に重要であるのはパターン認識であり,深くは脈絡膜出血,多いのは網膜出血,浅くは硝子体出血までを含む.小は点から大は血腫まで赤い成分は赤血球であり,出血 bleeding と言っても持続性・進行中の状態をさすのではない.あくまでも,溜まった赤いモノを見ているにすぎない.出血という病態表現で重要なことは,今まさに血が噴き出しているというようなものではないということである.実際,出血中に遭遇する確率は限りなく小さい(ゼロではないが,内視鏡で目撃するような消化管出血の比ではない).かくして,出血が止まったということと血(赤色)が消えたということも別の事となる.
      眼底の血管病変に対する検査として,螢光眼底造影検査は臨床で重要な位置をしめている.こと「眼底出血」に関し,造影検査は出血部から血液と共に造影剤が出てくる状態をみるというような検査法ではない.
      では,血中の造影剤に対し画像上,出血斑(血管外の赤血球)はどのように写るのであろうか.

      ☞☞ 【 出血

      他の赤色所見
      出血以外では,血管の変形(特に毛細血管瘤は点状出血と紛らわしい),裂孔もしくは円孔が考えられる.毛細血管瘤はたいがい糖尿病だし,裂孔は網膜離の原因としての網膜裂孔あるいは円孔,加齢あるいは外傷による黄斑円孔がある.
      中心窩が赤い病態に cherry red spot がある.周囲網膜の白濁のためである.

    3.  黄白色病変:重要な白色病変は白斑で,軟性白斑硬性白斑がある.

      軟性白斑 soft exudate (あるいは綿花様白斑 cotton-wool spot(s))は,局在性表在性の網膜虚血を反映している.虚血によって網膜神経線維(神経節細胞の軸索突起)が横断され,停滞した軸索流が膨化白濁として観察されたものである.これらの場合,exudateと言っても滲出物ではない.
      数か月の経過で消失し,跡に局所網膜や神経線維層の萎縮を残す,急性の病変である.

      軟性白斑1 軟性白斑2 軟性白斑3

      軟性白斑は,網膜表層に所見の場がある.混濁は,網膜血管の上にかぶさってみえることがある.
      ある程度時間が経過すると,神経線維層に萎縮が認められることがある.高血圧網膜症でよく起きるような気がする.

      *軟性白斑を呈する疾患:
         【糖尿病網膜症,高血圧性網膜症,網膜静脈閉塞,膠原病(SLE)などの閉塞変化.眼虚血症候群,高安病,

      虚血があれば白濁・壊死をきたす,と理解してよい.しかし白濁するにはある程度の網膜厚が必要である.ということで,軟性白斑は後極部に観察される.周辺網膜は薄いので,混濁は見えないのである.また軟性白斑が消えても,血行が回復したわけではない.螢光眼底造影を行えばこの部分は造影されず,暗く写ることで血行障害が証明されることになる.造影写真で透過性亢進による淡い過螢光を「軟性白斑」と言っては不可ない.
      網膜中心動脈閉塞は,網膜全体が軟性白斑でおおわれたものと言えなくもない(が,ちと違う.虚血混濁するのは 脳層).中心窩には神経線維層を含む網膜脳層が無いため,眼底の赤い色が残る( cherry red spot !! ).

      硬性白斑 hard exudate は,網膜血管の透過性亢進により血漿の漏出(浮腫)が起こり,その吸収過程で濃縮された脂質ないし類脂質などが沈着したものである.従って,慢性に経過した網膜浮腫の存在を示している.外網状層近辺の貯留であり,小さいものは点状・顆粒状に見える.大量のときにはしばしば網膜下で白斑が融合し,蝋()様白斑 waxy exudate と言う.
      特に黄斑浮腫で吸収期にみえてくる白斑は,外網状層線維の配列(Henle線維)に従って放射状に並ぶ.星芒状白斑( star figure 星芒斑)である.

      硬性白斑1 硬性白斑2 硬性白斑3 硬性白斑4

      硬性白斑は網膜深層に所見の場がある.その外観は,白点が集合したものである.滲出液が濃縮し,あるいは貪食細胞に取り込まれて浮腫液の存在が見えてくる.したがって,透過性亢進を示す病的血管を中心に浮腫を生じ,浮腫の縁に環礁状に硬性白斑が配列することが多い.その外観から「輪状網膜症」という.黄斑に見られる「星芒状白斑」も,配列形態が特徴的で名がついた.浮腫が強く大きいもの(滲出が長期間)で融合して「べったり」とした所見が,「様白斑」である.この場合,網膜下腔への貯留となる.

      *硬性白斑を呈する疾患:
         【糖尿病網膜症,高血圧性網膜症,腎性網膜症,Coats病などの滲出変化.

      螢光眼底造影を行えば,硬性白斑の近傍で螢光の漏出部が証明される.しかし,沈着物=硬性白斑そのものに造影剤が付着し発光することはない.

      .そのほか,
      グリアや線維膜または新生血管を含む増殖組織,滲出した炎症細胞による混濁(ぶどう膜炎),網膜色素変性や高度近視の萎縮変性巣も重要である.網膜有髄神経 myelinated nerve fibers は軟性白斑様にみえることがある.
      ドルーゼン drusen は外観によって硬性ドルーゼン軟性ドルーゼンを区別する.ドルーゼンは網膜色素上皮とBruch膜間に沈着した網膜色素上皮由来のhyalin様物質である.

    4.  黒色病変:黒色あるいは褐色病変は通常,網膜色素上皮や脈絡膜の色素変化を示す.
      多くは先天性でみられる変化(肥大 hyperplasia )や続発性の反応所見(色素沈着 pigmentation )である.精密検査を行い,原発病変について検討することになる.

      色素上皮肥大@ 色素上皮肥大A:画像なし 何かな 網膜色素変性

      眼底の正常色調が損なわれるような病変では,色素が散乱する.よって,脱色素 depigmentation と色素沈着hyper-)pigmentation は共存・隣接して観察されることになる.
      これらは原発性にせよ続発性にせよ,網膜色素上皮病変ならびに脈絡膜病変で観察される.網脈絡膜萎縮とか網脈絡膜変性という.

    5.   網膜外層(神経上皮層)は細胞間隙と同等にみなされ,浮腫や深層出血が生じる場である.浮腫が生じる部位をcystoid space と言ったりする.結果,硬性白斑が沈着する部位(外網状層〜外顆粒層)となる.

(4) 特殊部位

  1.  黄斑部 macular region
    1.  黄斑 macula lutea は形態的・機能的に特異的な部位である.乳頭中心から3乳頭径( 4 mm;約15 °離れ,0.8 mm;約3 °下がる)耳側にあり,視細胞のほか双極細胞や神経節細胞に含まれるキサントフィル色素に依る暗褐色〜暗黄色を示す.中央がくぼみになっており検眼鏡的に(または,眼底写真の上で)ほぼ1乳頭径の輪状反射を認める.中心窩である.
      耳側血管アーケードを含む黄斑一帯が後極部であり,血管アーケード内を特に黄斑部と呼ぶ.

    2.  中心窩 fovea は網膜色素上皮と視細胞のみの構造となっている(神経上皮層).即ち,網膜色素上皮層・視細胞層・外境界膜・外顆粒層・外網状層の一部と内境界膜で構成される.しかも細胞体(外顆粒層)が斜め(従って,放射状の配列)になっており,光が視細胞外節に直接当たる.これらにより,高度な視力を確保していると考えられる. 外網状層よりも近位の神経要素はさらにその周囲に放射状に配列し,双極細胞体が現れるのは中心小窩から 175 µm ,神経節細胞が現れるのは 200 µm あたりからである(これにより中心小窩は径 350 µm の範囲となる).
      網膜の厚みが増す結果,中心窩はすり鉢状の凹みとなり,約1乳頭径の輪状反射 ring reflex が生じる.この中央(正常固視点)が中心小窩 foveola で,ここに小窩反射 foveolar reflex をつくる.これらの反射は加齢とともに不明瞭となる.

      図23_輪状反射 図24_OCT
      図25 図26
      黄斑
    3.  視細胞(錐体)Müller細胞グリア細胞のみの部分が中心小窩である.外顆粒層は基本的には錐体細胞核であるが,わずかなMüller細胞の核を交える.放射状の外網状層線維は,ほぼ水平に走行している. Henle線維層 である.
      脳層,すなわち外網状層の一部・内顆粒層・内網状層・神経節細胞層・神経線維層は無い.
      網膜内(外網状層,錐体軸索)にキサントフィル(天然色素)を含むこと,色素上皮にメラニン(個人差・人種差あり)リポフスチン(加齢変化)を含むことで暗く見える.特に中心窩の色素上皮細胞は大振りに出来ている.
      螢光造影写真上で中心窩が暗く( dark macula という)写るのも,これらの色素が「フィルタ」となり螢光輝度を暗くしていると考えられる.

    4.  網膜血管は存在しない.

      通常,黄斑内部・中心窩 fovea の径 500 µm の範囲は,傍中心窩領域の網膜毛細血管と脈絡膜毛細血管からの浸潤拡散によって栄養される.

      (網膜脳層を欠く FAZ:Foveal Avascular Zone

      網膜厚は,中心小窩部分で最も薄く 200 〜240 µm ほどである.中心窩周囲で 260 〜 300 µm ほどである.

      Müller細胞の突起である内境界膜は中心窩周囲で 0.4 µm400 nm )ほど,中心小窩では 20 〜50 nm ほどの厚みである.

    5.  臨床的に「黄斑部」という範囲を限定することは,ややあいまいである.

      解剖学的には図のような区分で解釈されているが,眼底で表現しようとすると,「黄斑」は1乳頭径ほどの範囲(だいたい輪状反射内),「黄斑部」は血管アーケード(図では外周円)内,といったところであろうか.

      300 µm は,角度にしておよそ 1°に相当する( 計算の根拠 ).そうすると,1乳頭径(1.5 mm ) 5 °,図の外周円は直径6 mm 程の範囲直径 20 °ということになる (Amsler grid charts の範囲くらいかな).

    6.  例外

       まれに,中心窩が大きく回旋していたりする.カメラのトリックではない.耳側縫線はどうなってるのだろう.
      中央図輪状反射が無く暗色調が不完全な黄斑を認めることがある.中心窩と思われるところに動脈分枝と見られる血管が重なっている(形成異常,この場合は黄斑低形成 hypoplasia による).なお,毛様網膜動脈が認められる.
       まれに,黄斑が水平より上がっていることがある.撮影時に回旋がかかっている訳ではない.Mariotte盲点はどこに検出されるのだろう.

    27 回旋 28黄斑低形成 29 回旋
    1. 黄斑病変 macular lesion

      黄斑網膜は神経要素毛細血管硝子体の構築上,特殊な部位である.機能的には視力を確保するための構造であろうが,一旦発症した病理とすると視力には不利に作用すると言わざるを得ない.
      重要な黄斑部病変は,黄斑浮腫,硝子体-網膜境界病変,Bruch-脈絡毛細血管板病変である.

      a.眼底の血管病変では,容易に黄斑浮腫を来たす.
      黄斑浮腫の形態には大きく三種類がある.@硬性白斑,A胞変性,B網膜離,である.

      @硬性白斑:軽度な浮腫では放射状の神経要素(外網状層)に沿って硬性白斑が配列する.星芒状白斑である.
      高度になると網膜下に沈着性の大きな白斑となる.様白斑である.この場合,網膜はび漫性にもしくは黄斑から離れて透過性亢進の強い病変があり,浮腫が黄斑にまで波及する状況である( 白斑 に戻る).
      A直接,中心窩に網膜浮腫を来たすと網膜内(Henle線維層)に貯留空間を作り,胞となる.この場合,中心窩周囲の毛細血管が特異的に拡張透過性亢進を来たす病態である( 螢光眼底造影での解釈シェーマ ).

      図33 図34 図35OCT

      B進行が急速な場合,網膜下に貯留し滲出性網膜離となる.この場合,通常は脈絡膜がわに病変があるが,状況によっては網膜血管の透過性亢進でも離を来たし得る.

      bBruch-脈絡毛細血管板病変

      @色素上皮離,A脈絡膜新生血管,Bドルーゼン,C種々のジストロフィ,など

      c.視細胞-網膜色素上皮病変

      @種々のジストロフィ,など

      d.網膜病変

      @近視性あるいは加齢変化としての網膜変性もしくは網膜分離,など

      e.硝子体-網膜境界病変

      @黄斑前膜,A硝子体牽引症候群,B黄斑円孔,など

      f.いわゆる黄斑出血

      原因は,まず脈絡膜新生血管を疑う.例外はあるが・・・

      g.毛細血管閉塞

      中心窩周囲は末梢型の毛細血管パターンである.潅流圧が不足すると,毛細血管は閉塞し無血管野が拡大する.

図36
  1.  周辺部網膜 peripheral region
    1. 周辺網膜では神経要素が消え Müller細胞が姿を変え,鋸状縁を作り 毛様体扁平部無色素上皮 へ続く.鋸状強上縁をはさんで Müller細胞の基底膜と硝子体線維の一体化した部分が, 硝子体基底 vitreous base である.

    2. 臨床的事項

      図37

      鋸状縁付近は恐らく9層に分化しきれず,構造が不完全な部分が出来やすい.そのひとつが胞様変性(右図)であるが,通常normal variation と見做され病的なものではない.
      そのほか,硝子体膜との癒着をつくるもの,網膜内層が萎縮する病態,網膜色素上皮〜脈絡毛細血管板・脈絡膜萎縮となる状態,などがある.

  2. ジストロフィ遺伝的に決定された内因(原発性 primary )で,ゆるやかに萎縮・退化・変性がおこる.進行性,両眼性,左右対称性を示す.

    変性加齢,炎症,循環障害などの外因で,萎縮・変性がおこる.本来は機能障害を含めるが,眼底で小さい変性巣では確認がとれないのはよくあること.加速された加齢変性とも解釈できる.

    写真で確認主要な眼底変化

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§ 眼底の加齢変化 aging

加齢変化は,視機能を損なわないレベルの生理的所見である.
いわゆる,正常範囲を規定することは重要ではあるが,眼底所見は数値化がならず,所見の把握が主観に左右されるのは日常茶飯である.
これを踏まえて!

(1) 網膜表面反射・血管反射

検眼鏡所見・眼底カメラ所見とも,表面反射がにぶくなり,特に輪状反射が消える.中心小窩反射も不明瞭となる.
網膜血管も,血管自体の退行変性と網膜表層反射の減弱が加算され,みずみずしさが無くなる.

(2) 脈絡膜所見

網膜色素上皮・脈絡膜のメラニンが減り,赤味を帯びる(照明光や透光体にも因るが).
脈絡膜血管が徐々に強調され,紋様となる(豹紋状 tigroid 眼底).

(3) 視神経乳頭周囲

乳頭周囲は萎縮・色素脱出し,輪状にうすい色調を示すことがある.

(4) 黄斑部

網膜色素上皮とBruch膜間に沈着した網膜色素上皮由来の代謝産物が蓄積し,hyalin様物質が黄白色の塊を作る.
ドルーゼン drusen(元はドイツ語,英語圏でもそのまま使用される)である.

●右図・上は,@豹紋状眼底,A輪状反射の消失,B網膜表面反射の消失,など.
●右図・中は,視神経乳頭周囲の脈絡膜萎縮を示す.(なお,黄斑部病変は加齢黄斑変性である.
●右図・下は,黄斑の軟性ドルーゼン.

図40
図41
図42

§ 血管新生 neovascularization

血管新生(毛細血管増殖)は例えば創傷治癒過程では必須の反応であるが,眼内では基本的に悪性の反応である.模式的には,低酸素状態で基底膜の損傷と血管新生促進因子の分泌がおきる.虚血が急激に起こればグリア細胞も死滅するが,慢性に経過する場合にはグリア細胞が VEGF を分泌し,血管新生が促がされる.増殖した血管内皮細胞は,遊走管腔形成へ至る.
増殖網膜症(a)や脈絡膜新生血管(b)では血管内皮増殖・線維芽細胞増殖が中心となり,線維血管膜 fibrovascular membrane を形成する.これらの血管の増殖反応は,網膜では硝子体方向へ,あるいは脈絡膜から網膜下へ向かう方向のベクトルが同じという共通点がある.ときに,網膜血管に脈絡膜血管が接続したりする(加齢黄斑変性).
通常,虚血網膜が発する増殖因子の標的は,視神経乳頭,血管アーケード,毛様体,虹彩,隅角部である.

図43 図44

§ 硝子体との相互関係 vitreoretinal interface

図45

後部硝子体は,網膜との接着が強い部分がある.
@視神経乳頭周囲,
A黄斑周囲,
B網膜血管周囲,
C赤道部,
である.@ABは,Müller細胞基底膜と硝子体線維とが接合していることに因る.

♣ 後部硝子体皮質前ポケット
後極部血管アーケードに囲まれた約3乳頭径ほどの領域には,液化腔が存在する.黄斑網膜の表面には薄い硝子体皮質が後部硝子体膜(ポケット後壁)となっている.
黄斑前膜や黄斑円孔の形成は,ポケット後壁が病変の場となると考えられている.後部硝子体離では,高率にポケット後壁が網膜面に残るらしい.


46ぽけっと 図47 OCT図

網膜新生血管はポケット後壁を足場として,視神経乳頭アーケード血管から硝子体中へ発育する.その定型が,増殖糖尿病網膜症ということになる.

♣ 反応の場としての関与
a.硝子体細胞マクロファージ系細胞で,網膜面近くで活性化する.
b.サイトカイン,などVEGFVPF,TGF-β,などの発現.

§ 網膜色素上皮の問題  retinal pigment epithelial cells

図48
  1. 機能

    ・視細胞間と色素上皮間の接着,水輸送
    ・血液網膜関門と栄養の授受
    ・レチノール(vit A)その他の視細胞代謝(外節の貪食,など
    色素 ………メラニン顆粒(遮光
       ………リポフスチン顆粒(代謝産物,すなわち加齢
    ・サイトカインの分泌 ………VEGF,FGF,TGF-β,PDGF,インターロイキン,インターフェロン
      VEGF:血管内皮増殖因子
      TGF-β,プラスミノーゲンアクチベータインヒビタ-1(PAI-1)など:血管新生抑制因子

  2. 色素上皮細胞の増殖と遊走

    ・神経網膜が変性や炎症で萎縮荒廃すると,色素上皮細胞が増殖して色素沈着をつくる.
    ・脈絡膜新生血管が生じると,色素上皮細胞が増殖して囲い込むような形をとる(血管新生を抑制するらしい).

    ・裂孔原性網膜離のとき,色素上皮細胞が硝子体中へ散布されることがある.
     硝子体中へ遊走した網膜色素上皮細胞は線維芽細胞状に変化(化生)する.あわせて,
     増殖因子に反応した感覚網膜内のグリア細胞も線維芽細胞化することで進行する病態が,増殖硝子体網膜症である.

  3. リポフスチンとメラニン

    ●メラニン
    チロシンというアミノ酸からできる.加齢とともに減少.
    光の吸収や散乱防止作用がある一方で,光曝露により活性酸素を発生し網膜色素上皮を障害するという.

    ●リポフスチン
    加齢(物を見る⇒光を浴びる,という宿命により,生直後から進行するとのこと.)と共に増える残渣・沈着物で,メラニンの代謝産物や貪食された視細胞外節が消化されずに最終的に残ったもの.
    自発螢光という特性があり,網膜色素上皮細胞の病態の情報になる.
    リポフスチン自体も光曝露により活性酸素を発生し,細胞傷害に作用する.

  4. 視細胞色素

    ●キサントフィル
    黄色のカロチン類(カロチノイド)で,ルテインやゼアキサンチンと同義.
    緑黄色野菜,トウモロコシ,多種のフルーツおよび花の中に存在.卵黄の色も決定する.
    短波長に対するフィルタ効果,抗酸化作用(ラジカルの消去)など.喫煙・加齢により減少.

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2012