多胎を予防するため移植する胚は1個に制限する動きが主流となっています。1個の胚移植で高い妊娠率を得ることができるSEET(シート)療法が力を発揮します。反復不成功の場合や高齢での治療に際しては2個の胚を移植する選択肢もあります。この場合には、二段階胚移植が力を発揮します。SEET(シート)療法は当院 が開発した独自の治療方法です。二段階胚移植は当院と滋賀医科大学野田洋一名誉教授で協同開発した治療法です。
このグラフはシート法の成績を他の移植方法と比較したものです。初回採卵で全胚凍結を行い、その後初めての移植での妊娠率を示しています。BTは胚盤胞1個を普通の方法で移植した成績、STは胚盤胞を移植する3日前に、移植用のカテーテルを用い子宮内に普通の培養液を注入した場合の成績、SEETは胚盤胞を移植する3日前に、胚を培養した後の培養液(conditioned mediumと言います)を注入した場合、すなわちシート法の成績です。シート法では着床率が92%、臨床妊娠率が80%と高くなりました。この成績は当院にてアメリカ生殖医療学会に論文発表し、高い評価を頂きました。
不妊症治療の中でも最も新しい治療法である胚盤胞移植と2段階胚移植についてお話します。
従来の体外受精や顕微授精の妊娠率を飛躍的に高める方法です。従来の体外受精では、体外で卵子と精子を受精させ、受精卵が分裂して4細胞となったところで子宮の中に戻します。自然の妊娠では、まだ卵管のなかにあるはずの4細胞期の受精卵を子宮の中に戻しますので、妊娠率に限界があります。
そこで、受精卵を200~400細胞の胚盤胞と呼ばれるようになるまで培養液の中で育てから子宮の中に戻す方法が考案されました。これが胚盤胞移植です。 胚盤胞移植によって通常の体外受精では妊娠できなかった方でも妊娠できるようになりつつあります。
自然の妊娠では、受精卵は卵管の中で受精し、分裂増殖しながら移動し、胚盤胞となる頃に子宮の中に到着します。
近年、卵管の中を移動中の受精卵が母体に信号を送っていることがわかって来ました。
この信号を受け取って子宮は受精卵を迎える準備を始めます。一方、胚盤胞移植では、受精卵は培養液の中で育つので母体に信号を送ることができません。従って、着床の準備が遅れ、胚盤胞移植を行っても妊娠率に限界があります。
そこで、考案されたのが2段階胚移植です。この方法では、まず従来の体外受精と同様に4細胞期の受精卵1個ないし2個を子宮の中に戻します。この受精卵が信号を送り子宮は着床の準備を始めます。残りの受精卵は体外でさらに培養し、胚盤胞となったところで、着床の準備が整った子宮の中へ移植するのです。
この2段階胚移植法の妊娠率は、従来の方法のおよそ2倍です(当院比)。また、従来の体外受精では妊娠できなかった方でも妊娠が可能となりつつあり、画期的な治療法として注目されています。