2007-11-22
■[生命科学] ES細胞・iPS細胞まとめ
iPS細胞を知らなかった大学生が、ES細胞・iPS細胞についてまとめてみた。
目次
ES細胞とは
ES細胞:胚性幹細胞(Embryonic Stem cells)とは?
生命科学の用語はマスコミの注目を浴びるせいか、現場での理解とは違った理解をされることが多くあります。
ES細胞という名前は非常に有名ですが、「万能細胞」と呼ばれるくらいで、これが一体どんなものなのかあまり正確には知られていないような気がします。
そんなわけでES細胞について、これがどんなものなのか、なにができるのか、を説明してみたいと思います。
ES細胞:胚性幹細胞とはその名の通り「胚の・幹細胞」のことです。言葉を追って説明していきます。
胚
受精卵ははじめは一つの細胞ですが、細胞分裂(卵割といいます)を繰り返し、成長して胎児になります。その途中の段階ではただの細胞のカタマリに過ぎないのですが、この頃を「胚」と呼びます。生き物の形をしていない、発生段階の細胞のカタマリ、と思っていただければOKです。
幹細胞
生体組織の細胞にはその役割によって「幹細胞」・「体細胞」といった種類があります*1。
幹細胞は幹という言葉がついており、よく幹細胞と体細胞は木の幹と枝に喩えられます。幹細胞が体の中心部分で体細胞が体の末端部分…ではないですよ(笑)
胚とは少し離れますが、体を構成するほとんどの細胞は分裂する能力を備えていません。これを体細胞といいます。では新しい皮膚や血液はどうやって作っているのでしょうか。新しい細胞の製造はもっぱらそれ専門の組織の細胞が行い、これを幹細胞といいます。
つまり、幹細胞とは、特定の機能を有し、分裂する能力を備えた細胞ということができます。
話を胚に戻すと、この幹細胞が発生段階において非常に重要になります。なぜならば、胚はこれから分裂を繰り返して様々な組織を作る細胞を生み出していきます。つまり胚の細胞はすべて幹細胞なのです。
生体組織にも幹細胞は存在しますが、血液は骨髄にある造血幹細胞、皮膚は表皮幹細胞、卵や精子は生殖幹細胞というように作ることのできる細胞の種類が決まっています。
すべての組織を作ることのできる細胞は胚の時期の幹細胞、つまりES細胞のみということになります。
作り方
胚の時期の細胞はすべての組織を作れるES細胞である、と書きましたが、これは少し間違いです。ES細胞を胚から手に入れることは確かなのですが、胚発生期の細胞がES細胞というわけではありません。
ES細胞は、胚のある段階から、ある一部分を切り取って、培養して得られたものを言います。
人の手によってのみ、成立する細胞です。
- 受精卵を手に入れます。←この時点でグレーゾーン
- 受精卵を育てます。受精卵は1個の細胞ですが、分裂(卵割)を繰り返し1→2→4→8→16→…と規則的に増殖していきます。
- 胚が胚盤胞まで育った時点で、内部にある内部細胞塊(Inner cell mass:ICM)を取り出し、シャーレで培養する。←胚から目的の細胞だけを切り出す
- しばらく培養すればできあがり。
このように、ES細胞は発生段階にある胚から、将来個体に成長する細胞(ICM)を切り取って作成するため、倫理的な問題が発生するのです。
「万能」は間違い
ES細胞は万能、とよく言われますが、この表現は正確とは言えません。
医療で組織再生に使う場合には「万能」といってもほとんど差し支えないのですが、生物学的には少し違っています。
この場合の「万能」とは「あらゆる組織に分化させることができる」という意味になるのですが、分化できない細胞もあります。それは胎児が生まれてくるまでの間に必要な胎盤組織です。
そのため、「成体組織に存在するあらゆる細胞に分化することができる」というのが正しい表現になります。これを「多能性」といいます。*2
ここから下は勉強したことがないので…すいません。
ES細胞の倫理的問題
ES細胞の作り方で説明したように、ES細胞を樹立するには受精卵が必要になります。受精卵は精子と卵が結合したものです。
これは1個の細胞でしかありませんが、いずれ成長しヒトになる細胞です。
「ヒトがヒトになるのはいつか」が倫理的に重要なポイントになります。
各国の対応
ヒトES細胞の研究に対する対応は国によって異なり、アメリカでは公的研究費を用いてヒトES細胞を作製することは認められていません。日本では条件付きで研究費が認められています。参考→京大の山中伸弥教授かっこよす - おこじょの日記
各国の動きをまとめたページがありました。→ヒト胚性幹細胞を巡る各国の動き(ES細胞とは)
iPS細胞とは
iPS細胞:誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)とは?
ES細胞では受精卵(胚盤胞)を用いるために上記のような倫理的問題が発生していますが、”ES細胞のようなもの”を受精卵を使わずに樹立すれば倫理問題を回避できるのでは?
ということで受精卵からではなく皮膚組織から、様々な組織に分化しうる(多能性を持つ)幹細胞が作られました。
この2点だと思います。
1.は上に書いたように倫理問題を回避することができます。
2.ですが、再生医療によって自分の組織を再生するような場合、ES細胞からなにもせずに組織を再生すると、自分とは異なる遺伝子を持った組織が完成します。この場合、患者にとっては赤の他人から臓器を移植した場合と同じです。これが問題になるのが免疫系による拒絶反応です。
これを回避するためにはES細胞に、「自分の細胞からとった細胞核」を移植しなければなりません。よくテレビで細胞に注射針のようなものをさして細胞をイジっていますが、あれです。
ここでは説明しませんが、核移植技術には問題もあります。
ところがiPS細胞から組織を再生した場合、もともと自分の細胞から作った組織なので遺伝子もまったく同じです。そのため核移植技術が不要で、拒絶反応も起きません。
作り方
論文を読んでいないので詳しくはわかりませんが(読んでわかるかどうかも疑わしいw)
よくわからないのですがポイントになりそうなのは
導入する遺伝子はマウス由来- ↑マウスでうまくいったときと同じ働きを持つヒトの遺伝子 だそうです。ですよねー(´`)
- 遺伝子の導入につかったのはレトロウイルス
- 再生医療でレトロウイルスを使うとガン化の可能性がある
- 何が起こっているのか、なんだかよくわからない
あたりでしょうか。
追記◆そのあたりはこちらに詳しくかかれています。→成人の皮膚細胞から万能性をもつ細胞を作ることに成功した。 Orbium -そらのたま-
いろいろと周りが動き出してきたようですね。注目です。
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