安全率は入っていません
安全率の有無について何度も同じやりとりが繰り返され、そのたびに会場から怒りの声が上がった。ようやく丸山氏は廃棄物処理にともなう被曝量として示した年間1ミリシーベルトについて、「安全率というのはここには入ってません」と認めた。だが、その理由については説明できずじまいだった。
会場からこんな質問も出た。
「最終的に年間1ミリシーベルトを目指すと言われていますが、私のところでは家の中でも毎時0.25とか0.3マイクロシーベルトくらいある。普通に家で暮らしていても年間1ミリを超えてしまうんです(毎時0.3マイクロシーベルトで1年間被曝すると約2.6ミリシーベルト)。ところが我が家の近くで焼却施設の建設計画がありまして、さらに被曝が増えてしまう。こういう場合は、我が家の近くでは燃やさないという理解でいいか?」
原子力災害対策本部の布田氏の回答はこうだ。
「国際的にできる限り(被曝量は)低くとの考え方が示されている。除染活動などを通じてできる限り低くするという努力は政府として引き続き取り組んでいきたい」
会場から「答えになってないよ」「答えて」と不満の声が次々と上がった。末田氏が追及する。
「合理的に達成できる限り低くという考え方はいいんですよ。それだったら(通常の被曝量である年間1ミリシーベルトに)プラスアルファするときは、それだけで一杯にしない基準を設けるべきだし、すでにかなり高いところであればプラスアルファしないようにしてほしいという要求はあって当たり前でしょ」
布田氏はかろうじて「できる限り低くするようしていきたい」と答えた。
「そういう通知を各省に出してないですよね。だからこういうところも施設はどんどん造られるわけですよね」
「すでに年間1ミリシーベルトを超えているところには施設を作らないと約束してください」
だが、この要望に対しては明言を避けた。
争点となっている原子力安全委員会の示した条項は、「処理などにともない周辺住民の受ける線量が1ミリシーベルト/年を超えないようにする」と、廃棄物処理にともなう周辺住民の被曝が通常の総被曝量の年間1ミリシーベルトに収まるようにせよ、とも読めるような書きぶりとなっている。これは福島における学校の年間曝露量が20ミリシーベルト以下ならよいとする方針が国民的な批判にさらされた後で文部科学省が出した「学校において、当面、年間1ミリシーベルト以下を目指す」との方針とよく似ている。いずれも通常の年間被曝量に加えてさらに年間1ミリシーベルトの被曝を許す内容だ。
方針を示した段階で誤解を招かないような説明をつけないばかりか、上記のようにその内容について尋ねた時ですら、条項を棒読みするだけで自ら説明しようとしない。そして細かく確認するとしぶしぶ被曝量を通常に上乗せしていることを認めた経緯から、あえてミスリードを誘うように書いているのは間違いない。つまり国民をあざむこうとしていたのである。
すでに多くの地域で年間1ミリシーベルトよりも多くの被曝を強いられている。そんな状況で、一般人の総被曝量として年間1ミリシーベルトに抑えるという大原則がなし崩し的に、目標としてすら否定されてしまっている。しかもそれ以上の被曝を許すとした理由の説明すらろくにできない。そんなお粗末な行政の対応ぶりがこのやりとりに凝縮されている。交渉はずっとこんな調子で政府のいう「安全」のウソが次々明らかになっていく。