煙突出口でも高線量
高線量だった最後の場所は汚泥焼却炉の煙突である。焼却炉の排ガスを放出する煙突出口は地上から15mと通常よりかなり低い。これは羽田空港が近いため、これ以上高いものを造れないのだという。視察時のようすを柳ヶ瀬氏が語る。
「煙突の上にのぼって煙突に手を伸ばして測定器をかざしても何もなかった。都の職員に『排ガスが危険』といわれ、帰ろうかなと思っていたら反応しはじめてどんどん上がっていった」
当日の映像を確認すると、柳ヶ瀬氏の言うとおり、階段を登って煙突付近の一番高い場所に行っても、最初はガンマ線を計測するシンチレーション式の放射線測定器にとくに変化はない。測定値は毎時0.1マイクロシーベルトである。ところが、少しするとそれがみるみる上がっていく。毎時0.63マイクロシーベルトから次の瞬間には毎時1マイクロシーベルトを超える。さらに毎時1.56マイクロシーベルトを示し、それ以後も1.59、1.61、1.63、1.65、2.44……と上がり続け、最大で毎時2.58マイクロシーベルトを記録した。
柳ヶ瀬氏が「これは高い値ですか」と聞くと、都職員は無言だった。
この日、柳ヶ瀬氏は都側に調査を要請。ところが、同日午後に都が実施した調査では、だいたいの場所では同じような測定値が出たが、煙突だけは毎時0.038マイクロシーベルトだった。6月8日の測定でも毎時0.03マイクロシーベルトと柳ヶ瀬氏の測定に比べ格段に低い。
前出の東京都下水道局施設管理課長の水上氏にこの時の出来事について見解を求めた。
「なぜ放射線量が上がったのかはわからない。私どもの値が正しいとしかいえない。再測定もしておりますが、多少の数字の差はありますけど、問題ない数字と思っております」
──放射性物質が放出されていたのではないか。
「それは考えにくい。運転データをみても通常の運転をしておりますので。燃焼温度や投入量など平常通りだった」
──(運転データで)放射性物質が出ているかわかるのか。
「それは類推できません。焼却炉は規定通り動いていたという証左だけです」
測定器の故障じゃないかとも言うのだが、いっしょに両者で測っていて片方だけ上がったのならそういうこともあるかもしれないが、別の機会に自分だけで測っておいて他人の測定値にケチをつけるのはおかしいだろう。東京都の言い分は、根拠はないが自分たちの測定が正しいと主張しているにすぎない。煙突付近での出来事について柳ヶ瀬氏は次のように言う。
「あのへんは高い線量をだすものなのかなと思いました。風向きなどで違うのでしょう。都は排ガス処理設備で放射性物質の99.9%は取れてますと言うのですが、残る0.1%はどこにいくのか。煙は出ているでしょうし、放射性物質も出ているのではないのでしょうか。きちんと調査してもらうしかない」
東部スラッジプラントの周辺を調査した神戸大学大学院教授の山内知也氏は、下水汚泥処理施設からの放射性物質による“二次汚染”の経路として、(1)保管場所からの飛散、(2)焼却灰の搬送時の飛散、(3)焼却炉からの飛散──の3つを挙げる。柳ヶ瀬氏による南部スラッジプラントの視察では、東京都は認めてはいないものの、これらのいずれについても裏付ける内容となっている。ただし(3)については、都側の測定では出ていないことや、その後に実施された東京都の排ガス測定では「未検出」だったことも踏まえ今回は評価しない。
だが、少なくとも(1)と(2)への裏付けから、現状ではいっさい放射性物質を含んだ粉じんが外部にもれないと主張するには無理があるし、どの程度の量かを別にすれば、外部への漏えいを示唆していると判断せざるを得ない。福島原発事故にともなう放射能汚染問題は、かつて経験したことのない未曾有の災害である以上、でき得るかぎりの対策が求められる。「安全」側に立って考えるなら飛散防止対策を見直す必要があるのではないか。