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No.3251
2012年9月25日(火)放送
ソーシャルゲーム 急成長のかげで

街にあふれる看板。
携帯向けゲームの広告です。
先週、行われた国内最大のゲームショー。
ネット上で知り合った仲間と一緒に遊ぶソーシャルゲームが業界の主役に躍り出ています。
市場規模は2800億円。
今や映画の興行収入を超えるまでに急成長を遂げています。

「一日の半分くらいやっている。
すごいやってます。」

「夢中になって、目が離せない。」

ところが今、利用者に深刻な問題が起きています。
ゲームに熱中し過ぎて、生活に支障を来すケースが相次いで報告されているのです。
背景には、利益のみを追求する一部のゲーム会社の行き過ぎともいえる戦略があることが分かってきました。

「利益上がりますから、もっともっと、のめり込んでもらいたい。」

大手ゲーム会社も今、対応を迫られています。

大手ゲーム会社 副社長
「社会的な関心に対し、認識が遅れた。」

急成長を続けるソーシャルゲームを巡って、何が起きているのか。
その実態に迫ります。

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なぜのめりこむ ソーシャルゲーム

会社員の河野信幸さんです。
1年前から通勤の合間にゲームをするようになりました。
今、夢中になっているのはカードを集めて、仲間と一緒に敵を倒すゲームです。
ゲームの中には、河野さんとインターネットでつながっている仲間がいます。
珍しいカードを手に入れると、称賛のメッセージが送られ注目を浴びることができます。

河野さん
「いいカードを持っていると、みんなに『いいね』とか言われるようになってからうれしくなりました。」

称賛され続けるためには、ガチャと呼ばれる電子くじを引いて珍しいカードを当てなければなりません。
これまで何十枚も手に入れてきました。

河野さん
「今からやります。」

目当てのカードをいち早く引き当てるため、1回3,000円以上かけてガチャを次々に引いていきます。

河野さん
「来ないですね。」

「続けるんですか?」

河野さん
「続けます。」

河野さん
「ああ、ダメだ、来ないですね。」

「いくら使ったんですか?」

河野さん
「今で、いくらだ?
分かんない。」

貯金を取り崩してまでこのゲームのカードを集めてきた河野さん。
ゲームを断ち切ることはできないといいます。

河野さん
「やっぱり、130万円も使っているんで、素直に『もうこれ飽きたんでやめる』ってちょっと出来なくて、お金が大量にかかっているので、そういった部分でやめられない。」
 

全国から消費者トラブルの情報が集まる国民生活センターです。
ここに今、ソーシャルゲームを巡る苦情やトラブルが相次いで寄せられています。

国の規制の方針が示された、今年(2012年)5月以降もひとつきに300件を超えています。
中でも目立つのは、子どもに関する相談です。

 

「子供が止めるのも聞かずに、ゲームをやり続ける。」

「中学生が親のクレジットカードを勝手に使い150万円の請求が来た。」

この男性は、孫がゲームで遊ぶ金欲しさに財布から金を盗むようになったと訴えています。

「私の財布とか何回かお金がなくなった。
まさかあの子どもがお金、信じられませんよね。」


 

ソーシャルゲームに夢中になり日常生活に深刻な影響が出たケースもあります。
神奈川県内に住む18歳の少年です。
ゲームにのめり込み、今年2月高校を退学しました。
少年が夢中になったのは、敵を倒していくゲームでした。
ネット上には、ほかの利用者がいて、彼らと競い合いながらゲームを進めていきます。
敵を倒せば倒すほど、さまざまなアイテムを得ることができ、ほかの利用者に差をつけることができます。
少年は、このゲームで常にランキングの上位にいました。

「リアルの世界で努力して結果が出なくても、ゲームの世界では、努力すれば努力するほど結果が出るから、そっちの方が努力の結果が見えるからこそ、すごい気持ちいいというか。」

 

強力なアイテムを手に入れるために次々に金を使ったといいます。

「最初のころは2,000円とかだったけど、中盤くらいになってくると、基本1万円。」

「全部でいくらくらい使った?」

「25万円くらい。」

学校の成績が伸びず、悩んでいたという少年は一層、ゲームの世界にのめり込んでいきました。

「勝ったら『俺、この人に勝った、すごいうれしい』という風に誰かの上に立てるとか、勝てるというのは優越感がすごい強い。」

時には40時間ゲームをし続けたという少年。
現実の生活を取り戻すことができなくなっていきました。
なぜ、子どもたちはゲームのとりこになってしまうのか。
その背景には、一部のゲーム会社の行き過ぎともいえる戦略があります。

NHKが入手したあるゲーム会社の内部文書です。
ここには、新しいゲームを作るうえでの方針が示されています。
“競争をあおる”。
“ゲームに、はまらせる”。
利用者の心理を巧みについて、ゲームにのめり込ませるよう指示していました。

業界関係者
「勝って気持ちがいいんです。
他の人より自分が優れていて気持ちがいい、その気持ち良さにお金をかけさせろってそういう話なんで、もっとのめり込んでもらわないと、売り上げは伸びていかない。
もっともっと、のめり込んでもらいたいです。」

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ソーシャルゲーム 急成長のかげで
ゲスト沢田登志子さん(ネットトラブルの相談事業)清水記者(社会部)

●子どもへの影響が心配

清水記者:大手ゲーム会社の説明では、有料でゲームをする人のうち6%ほどが未成年、子どもの利用者だとしています。
ただ、実際に取材をしてみますと、子どもが親の名義の携帯を使っているケースも結構多くて、そうなると、事実上、規制というのがなくなって、高額なお金を使うということが、多々起きるというふうに思います。
お金を支払う方法も、事前にプリペイドカードを買って支払ったり、クレジットカードを使ったりとか、いろいろ方法があるんですけれども、そのお金を支払う瞬間というのは、ゲームの中でボタンを押すという簡単な行為ですので、特に子どもでありますと、お金を使っているという感覚がなかなかないままに、多額のお金を使っているという実態ですね。
やっぱり、ソーシャルゲームというゲームの特性上、ほかの仲間が、ネット上の仲間が一緒にやっていて、自分が抜けるとちょっとそこに心苦しいですとか、ほかの人に負けたくないとか、そんないろんな心理が働きますので、携帯がつい身近にあると、ゲームにのめり込んでしまうということが子どもだと特にあると思います。

●ギャンブル性の高いもの

沢田さん:ギャンブルということばが適当かどうかは、ちょっとよく分からないところがありますけれども、確かにおっしゃるように、非常に誘因性が強い、お金を払うのは、その場でお財布からお金を出すわけではなくて、あとから請求が来るという形なので、その上では、やっぱりこれがどうしても欲しいと、出るまでやろうという形で、本当は何回やれば出るのか全く分からない状態のまま、自分の払うお金については、まひしてしまった状態でお金を使い込んでしまう、使い続けてしまうということは、実際には確かに起こっていたことだと思います。

●透明性がなかったということか

沢田さん:頭を冷やす何か、購入を思いとどまる何かが表示されていれば、少し違ったかもしれないとは思います。

●現在、ユーザーからの相談の特徴

沢田さん:最も大きな問題は、ゲーム会社の認識とユーザーの認識の間にギャップがあることだと思います。
具体的には、ユーザーが遊んでいるものというのは、ゲーム会社のサーバーの中の単なる電子データといえば電子データなわけですけれども、ゲーム会社はそのようにしか認識してないわけなんですが、ユーザーとしては、それは自分が長いこと時間をかけて、実はお金もかけて育ててきた、お金もかけて強くしてきたキャラクターなわけで、それはもう自分の分身のように愛着のあるものだと思います。
なんですけれども、それがなんらかの事情でユーザーが利用規約違反をして、アカウントを停止されたというケースもあれば、ユーザーは何も悪くないんですけれども、ゲーム会社の都合で、ゲームが、もうこのサービスはやめますということになった場合、システムトラブルでなくなってしまった場合もあります。
そういったときに、ユーザーにとっては何十万もの価値がある、経済的な価値、愛着のあるものであるにもかかわらず、ゲーム会社からなんにも補償がされないというところが、かなり大きな、今のトラブルの元になっているような気がします。

●苦情を言っても相手にされない

沢田さん:残念ながら、やはり先ほどご紹介のあったような急成長ですね、ユーザーの数の急速な拡大に対して、カスタマーサポートが追いついてない、追いついてなかったというのが実態で、一生懸命クレームを入れるんですけれども、コピー&ペーストの定型文の回答しか戻ってこないというのがクレームになって、われわれのような所にはみ出してきていたというのが実態です。

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戦略の転換 求められるゲーム業界

急成長を遂げてきたソーシャルゲーム業界。
今、転換期を迎えています。
ゲーム会社が次々とオフィスを構える六本木ヒルズ。
従業員500人のゲーム制作会社です。
去年(2011年)の売り上げは50億円。
ブームに乗って業績を急激に伸ばしてきました。
ところが、国が5月に規制の方針を示したことで、ゲーム作りの戦略の見直しを迫られています。
この会社はこれまで、1日数万円使う一部の高額利用者に収益の多くを頼ってきましたが、その構造を変えようとしています。

そのために力を入れているのが利用者の動向の詳細な分析です。
すべての利用者の動きを逐次把握できるシステムです。
利用者が、いつどのくらい金を使ったか5分ごとにリアルタイムに分かります。

 

「ユーザー様のライフサイクルに合わせて、このグラフも動いていく形になるので、動きとしてはやはり、お昼休みのところでアクセスだったり、売り上げが伸びる傾向がありますね。」

こうしたデータをもとに新たな顧客を開拓し、幅広い層に利用してもらうための戦略を検討しています。

「1枚のカードに複数キャラってそろそろ出してもいいんじゃないかなと。」

「確かに、それいいですね。」

クラブ株式会社 森田英克取締役
「手法として、何でもいいからお金を稼げればいいという考えでは決してなくて、あくまで多くのお客さまに納得感のある金額を長い期間払っていただくというモデルというのを目指している。」

 

業界最大手、グリーです。
業界全体の統一ルールを作ろうとしています。
この日は、精神科医や法律家などを招き、ソーシャルゲームの健全化をどのように図るかアドバイスを求めました。

精神科医
「健全と言ってしまえば何でも説明がつくが、何を持ってして健全と言うかを、ある程度レンジ(具体的な範囲)を決めておかないと。」
 

多くのユーザーを抱えるゲームサイト運営会社のグリー。
サイトにゲームを出している制作会社は500社に上ります。
各社への働きかけを始めました。
まずは、画面の表記についての新たなルール作りです。
電子くじ、ガチャを行う際に、カードが当たる確率を詳しく表示するようにしました。
また、未成年の利用者への対策も始めました。
有料になる場面では、分かりやすい表示で警告を出します。
利用料金の上限も設けました。

「ゲーム内表記の件なんですけど、ご対応いただいてますか?」

統一のルールを決め、各社に守ってもらうことでトラブルを防ぎたいとしています。

グリー株式会社 山岸広太郎副社長
「お金をいただくのが悪いという話になってしまうと、サービスが、そもそも成立しませんので、社会的に受け入れられるようにいろんな事に配慮しなきゃいけない事は間違いないと思うので、そこは常に緊張感を持って、注意して対応し続けなければならない。」

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対応迫られる教育現場

一方、教育の現場も対策に動き始めています。
都内の中学校では今月(9月)、生徒たちにソーシャルゲームについて考えてもらうための特別授業が行われました。

「今まで先生たちの世代では、経験しなかったような事が様々、今起きている。」

ソーシャルゲームに子どもたちが、のめり込むのを未然に防ごうという取り組みです。
 

「(ソーシャルゲームが)やめられなくて、学校に行けなくなっちゃったとか、そういう相談が多いんです。
何でそういう事になっちゃうのかを考えながら(携帯を)使って欲しい。」

「気が付いたこと、感想意見を発表できる人。」

「はい。
自分にも当てはまってるところがある。」

「何が当てはまった?」

「いつもゲームの事を考えちゃうとか。
1日何時間と決めてちゃんと気をつけようと思う。」

「そうだね、はい、いい勉強しましたね。」

ソーシャルゲームのトラブルから子どもたちをどう守るか。
学校は新たな対応を迫られているのです。

練馬区立光が丘第二中学校 坂井晃校長
「想像以上に携帯やスマートフォンの普及が進んでいるので、いろいろなトラブルがこれから起きるんじゃないかってのを想定して、ただ形式的に携帯を持って来てはいけないという事だけでなく、使い方やゲームに、はまらない為にどうするかは学校の指導課題になると思う。」

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ソーシャルゲーム 急成長のかげで

●ソーシャルゲーム業界 社会的責任は

沢田さん:今のおっしゃっていただいた新しい団体では、消費者団体とか消費者センターの相談員に向けての啓発活動が予定されていますが、学校に対する教育現場に対しても、ぜひともやっていただきたいと思っております。

●業界のルールになっていくのか

沢田さん:今後の課題ではありますけれども、ミニマムなところはそろえていくということは必要だと思います。
あとは、その実効性をどうやって担保していくかということが課題だと思います。

●業界が今後どう取り組もうとしているのか

清水記者:まさに今、ソーシャルゲームというのは爆発的に広がっていまして、日本でいうと、10人に3人ぐらいは1回は経験したことがあるぐらいになっていますね。
ゲーム会社各社は、今、海外に出ていこうとしてるんですけども、例えばガチャというシステムなんですけれども、海外ではああいったシステムは法的に認められてないところもありまして、海外に出ていくに当たって、今のうちに国内できちんとしたルールを作るということは、まさに必要なことだと思います。

●今後、やるべきこと

沢田さん:2つあると思っております。
一つは、今おっしゃった社内体制の整備ということでして、これはちょっと誘因力が強すぎるとか、望ましくないといった販売方法であるといったことを、社内できちっとチェックが働いてプラットフォーム会社が一つ一つのゲームをきちんと見ることができて、世の中に出ていく前に、これはやめておこうといった社内の監視体制が働くということが1つ。
もう一つは、消費者の声をきちんと取り入れていくということで、それはせっかくソーシャルメディアであり、ソーシャルゲームであるにもかかわらず、現状のゲーム会社さんは、残念ながらこれまでのところ、その消費者、ユーザーを数字でしか見ていなかった、数字としてしか見ていなかったと思います。
そこを、せっかくのソーシャルメディアなんですから、ソーシャルな課題ですね、ソーシャルな形での課題解決、消費者に、利用者にきちんと向き合って、ユーザーのことを大事に考える企業として脱皮していただくということがコンプライアンスとともに重要なことだと思っております。

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