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【社説】

国語世論調査 言葉の錆を落とそう

 日本人は日本語が苦手になっているらしい。文化庁の国語世論調査の結果はそんな心配を抱かせる。言葉は物事を考えたり、表現したりする道具だ。錆(さび)付いていないか。顧みる機会としたい。

 八年前、中学生レベルの日本語能力しかない大学一年生が大勢いる実態が明らかにされ、衝撃が走った。記憶に残る出来事だ。

 当時のメディア教育開発センターの調査では、国立大で6%、私立大で20%、短大で35%を占めていた。外国人留学生の方が堪能という逆転現象さえ指摘され、驚かされた。

 国語の授業を削ったゆとり教育や、学力検査を課さない入学試験が要因として挙げられた。これをきっかけに新入生向けの日本語の補習授業をする大学が急増した。

 ところが、全国の十六歳以上の男女を対象とした国語世論調査の結果は、言葉の衰えが全世代に及んでいる実態をうかがわせる。

 日本人の日本語能力は低下しているか。そう思うと答えた人は書く力で87%、読む力で78%と殊に高く、話す力は70%、聞く力は62%だった。もはや機能不全に陥りそうな危うさが伝わる。

 読む力と話す力は十年前よりもさらに落ちた。図書や新聞を読まない活字離れが進み、家庭や学校、職場での会話や議論が減ったのかもしれない。事態は深刻だ。

 背景としてパソコンや携帯電話の普及は見過ごせない。メールだと漢字を容易に表示できるし、仲間内では言葉を簡略化したり、絵文字で感情を表したりもする。

 揚げ句に漢字が書けない、文字を手で書くのが面倒くさい、人と話すのが煩わしいというような人が増大した。磨き、鍛える手間を惜しめば衰弱するのは道理だ。

 電子メディア漬けの環境に警鐘を鳴らす医学者もいる。平板なメールでコミュニケーションを図る。考えたり、想像したりする代わりにインターネットを検索する。脳の仕事を“外注”するほど言語能力が鈍るという。

 もっとも、芥川賞作家の金原ひとみさんはワープロの漢字変換のおかげで作家になれた、と父親は言う。小学四年で不登校になり、中学や高校に通わなかったので漢字は不得手だそうだ。

 文章表現の場を提供し、斬新な語彙(ごい)や文体を生み出す母胎になり得るのも電子メディアだ。未来を開く可能性もある。この利点を生かしつつ国語の四つの力をバランス良く身につける。日本人の精神活動の土台をしっかり築きたい。

 

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