リハビリ小説 東方
俺は気がついたら変なところにいた。雲が目の前に見える。そして、何より息苦しい。
「ここはどこだ?」
俺は確か外に出ようとしたところだったはず……。
「なんでこんなところに?」
「あら? 貴方は外来人かしら?」
目の前に奇妙な姿をした青髪に桃の付いた変な帽子をかぶった女がいた。
「お前は?」
「私は比那名居 天子 天子って呼んでも良いわよ?」
これが俺と天子の出会いだった。
ここに来てはや二ヶ月俺はここの生活に慣れてきた……というかすることがなさすぎて暇だった。
何かしようとすると天子の友人ということで使用人たちがさせてくれない。その上身の上の世話までしようとしてくる。全く迷惑な話だ。
「あら? こんなところにいたの? 神楽」
俺はこの名前が嫌いだ。男なのにまるで女のような気がするから。
「なんだ? 俺に何か用か?」
俺は草原に横になりながら返事をした。
「用? 私が貴方に用なんてあるわけないでしょ? ちょっと暇だったから捜してあげてたのよ」
ようは話し相手が欲しいだけか。
「そうか、なら人里とか霊夢って奴の所行ってこいよ」
俺は適当にそう言うと空を眺めた。
「そうね。ちょっと暇つぶし人里にでも降りてみましょうかしら」
「ああ、そうしてくれ」
取り敢えず衣玖と話をしよう。あいつならこの状況の打破の仕方を知っているかもしれない。
「神楽行くわよ!」
俺は服を掴まれた。
「って! おい! 待て! 俺はこれから衣玖の所に行く予定」
「衣玖? 衣玖と一緒にいるより私と一緒にいた方が楽しいわよ? わかったら行くわよ」
俺はそのまま空を飛んだ。
さすがに空を飛ぶのには慣れた。この二ヶ月何度も天子にこうして捕まっては空を飛ばれたから。
「わかったよ」
こうなった天子を止めるのは無理だ。
人里
「相変わらずしょぼい里よねー」
天子は里を歩きながらそう言った。
「そうかい」
俺は適当に話を流すと目の前で売っていた林檎を二つ買った。
「ほれ」
俺は天子に林檎を投げた。
「林檎?」
「食えよ」
俺は天子が桃以外の果実を食べるところをあまり見たことがない。だからこうして人里に降りるたびに果物を渡している。
「ふーん、悪くはないわね」
「ああそうだな」
悪くない。こいつがそういうことを言う時は決まって美味しいって時だ。
「全く、お前ってさ」
俺は天子を呼んだ。
不意に呼ばれた所為だろう。目を丸くして天子が俺を見た。
「なんで俺を連れ回すんだ?」
俺は気になって聞いた。この世界に来てからずっと俺と行動をしているこいつの考えがわからなかった。
「え?」
俺の質問に天子は固まった。
「だからなんで俺なんかを連れ回すのかって聞いてんだよ」
「ええと」
目が泳いでる……。こいつなんとなくで連れ回してたな。
「わからないならいい」
「そうね。ええと……」
次の言葉が出ないようだ。何か変なことを聞いたか?
「まぁいい。ふむ。林檎うまかった」
俺は食べた林檎の残りを燃やした。こっちに来てから不思議と身に付いた能力。火を操る程度の能力と言われたけどどうでもいい。
「うわ! ちょっと火を使うならもう少し離れなさい!」
驚いたように天子が言った。
離れてね……。
「なら、離れてくれるか?」
俺の右腕にしがみつく天子に俺は言った。
「何? 私がこうして上げてるのが嬉しくないの?」
少し上機嫌に
「いい神楽? 私は比那名居一族の名居守の娘。そんな私が貴方の腕に抱きついてあげてるのよ? これ以上に光栄なことがあるかしら?」
また始まった。こいつのこの話は長いから困る。
「はいはい。光栄でございます」
「これだから神楽は」
少しため息をついて俺を見た。
「なんだよ」
俺は天子を見た。
こういうところがなければ可愛い女なんだろうけど……残念な女。
「貴方はもっと私を気にかけるべき!」
俯いて不機嫌そうにそう言うとまた俺の右腕にしがみついた。
しかし、相変わらず天子の感触は残念だ。胸が当たっているのに胸の感触がない。何より体が硬い。
「お前ってなんか女なのに体硬いよな」
俺は軽く腕を触ってそう言った。
「なによ」
天子の腕ってなんか男みたいに硬い。触ってるとなんだか男に抱きつかれてる感じだ。
「別に……なんだ林檎食わないのか?」
天子の林檎を見ると半分しか減っていなかった。
「食わないならもらうぞ」
俺は天子の手から林檎を取ると一口食べた。
「あ」
天子の顔が林檎のように赤くなった。
「ん?」
俺は気にせずもう一口林檎を齧った。
「どうした? 顔真っ赤だぞ?」
「……間……ス」
何かボソリと言うとさらに顔を真っ赤にした。
「変な奴」
俺は食べきった残りの林檎を燃やした。
それから数時間俺たちは里を歩き回った。天子は何度か人に捕まってはカメラで取られていた。
「相変わらず、外の文化の物がこっちに来てるな。そのうち天狗の新聞もこっちの最新式カメラになりそうだ」
そして、まんざらでもない顔で天子はカメラに撮られていた。こういう時はなんとも言えない無邪気な女。
俺は近くの茶屋の椅子で座りながら空を眺めていた。
「おや、お客さんあの天人の知り合いかい?」
この店の店主なのだろう。大きな大男が俺に話しかけてきた。
「知り合い……まぁそんなところかな? 気がついたら隣にいた変わり者だよあいつは」
俺は苦笑いをしながらそう言うと天子を見た。
「まぁあんた人が良さそうだから気を付けなよ。あいつは暇つぶしで異変を起こすような奴だから」
暇つぶしで? ああ、あいつならやりかねないな。あいつはなんだかんだで一人だ。この数ヶ月一緒に行動していたが天界では衣玖以外に友人らしき人間を見たことがない。
「ああ、そうだな」
俺は軽くそう言うと店主に和菓子を二人前注文した。別段今は問題ないだろう。俺が近くにいればあいつは暇しないだろう。
「そういえば向こうでは何が起こってるんだろう?」
俺はふと外の世界が気になった。仕事の事、家族の事、友人達の事全てを置いてきてしまった。
「神楽!」
天子はやっと解放されたようだ。満足そうな顔で俺の隣に座った。
「写真会は終わりか?」
俺はそう聞くと天子の横顔を見た。最初にこいつと会った時の事を思い出した。
天界で目覚めた俺はここがどこだかわからなかった。だから迷うの覚悟で歩こうとした時だった。空から一人の女が降ってきた。その光景は空から天女が降ってきたように見えた。
「あ、神楽和菓子ありがとう」
まぁその降ってきた天女は物語に出てくる天女には程遠かったけどな。
「ああ」
俺はもう一つ来た和菓子を食べた。
「全く人気者だなお前」
俺は和菓子を口に運びながら俺は天子にそう言った。
「まぁこの美しい私だもの仕方ないわ」
そういうと天子は嬉しそうに俺を見た。
確かに天子は美人だ。女が嫉妬しそうなくらい。
「まぁそうだな」
「でしょ? ……あれ?」
天子は不思議そうな顔をして俺を見た。
「どうした?」
「どうしたの? いつもならそうかいとか適当に返すのに」
少し動揺をしながら天子は言った。
「何。本当にそう思ったからそう言っただけだ」
別に嘘は言っていない。俺はただそう思ったから言っただけだ。
「神楽もようやく私の美しさに気づいたような」
嬉しそうにそう言うと天子は俺に寄りかかった。
「まぁ外見はそうだが中身はまだまだだな」
俺がそう言うと頬を膨らませて
「私のどこに不満があるのよ」
と言った。
まぁこんな我侭お嬢様を好きになる奴滅多にいないだろう。
「不満しかないな。お前に付き合わされるのもかなり疲れるからな」
俺は最後の和菓子を食べると席を立った。
「ちょっと! 私はまだ食べてる途中!」
「なら早く食え。俺は少し行きたい所があるんだ」
そう、久しぶりの人里だ。少し寄りたいところがある。
「どこ?」
「服屋」
ここに来て天界の服を見ていたがどうも好きになれない。この人里なら外界の影響を受けてファッションも外界に近いものになっているだろう。
「天界のは嫌なの?」
なんというかあの高級感溢れる服はどうも好きになれない。というか庶民の俺には無理だ。
「庶民は庶民にあった服を着るのが一番だ」
俺はそう言うと食べ終わった天子の手を取った。
「そら行くぞ」
俺は天子の手を引っ張ると里を歩いた。
思ったより里は広かった。外来人今でかなり来ているようだな。里が大きくなっている。
「お! ここは外界の服をおいてるな」
俺はその店に入るといつも着ている服と似たような服を探した。
「神楽! この服とかどう?」
天子はほんと派手好きだな。こんなキラキラした服なんて誰が着るか。
「却下」
俺は間もなくそう言うと服を選んだ。
「これとこれかな?」
ここに試着室は……あったあった。
やっぱり外界と同じだなこういうのは。
「少し着替えてくるから適当にお前も服見ておけよ」
そう言うと着替えを始めた。
流石に外と同じとはいかないか。少し狭い。
「ねぇねぇこれとかどうかな?」
不意試着室のカーテンが開いた。
俺は目を丸くして後ろを向くと驚きで固まっている天子がいた。当然俺は下着一枚の姿。
「き」
これは悲鳴を上げられる。そう感じた瞬間俺は素早く天子の口を塞ぐと試着室に連れ込みカーテンを閉めた。
「……」
どうする? この今にも暴れそうな天子をどうする?
「動くな」
俺は耳元でボソリと言った。
これじゃあ変態だ。俺は言った事を後悔した。
「いいな。後叫んだら承知しないからな」
俺は天子の口元から手を離した。
これが俺のできる最善の行動だった。
「いいか、このまま何も言わず外で待ってろ。すぐ着替えるから」
俺はそう言うと辺りに誰もいないことを確認すると天子を試着室から追い出した。
しかし、あの天子が最後まで沈黙していたな。あいつ……いきなりのことで動揺したか?
「ふぅ……」
服のサイズはばっちり。着合わせも悪くない。これにするか。
俺は服を持ってレジに向かった。
「ん?」
そういえば天子はどこ行った?
「まぁいいか」
俺はレジに向かった。
どうやら店の中には天子はいないようだ。
「おーい! 天子!」
俺は店から出ると顔を真っ赤にしながら天子がボーッと空を眺めていた。
「なんだこんなところに……どうした? 顔赤いぞ?」
俺は天子の額に手を当てた。熱がだいぶあるようだ。天人でも風邪をひくのか?
「え? あ……」
恐ろしく動揺してる……まさか
「さっきのことはただの事故だ。気にするな……ってお前にそんなこと言わなくて大丈夫か」
「なっなにを言ってるの? 私が男の裸程度で動揺すると思ってるの!」
そう言うとそっぽを向いた。わかりやすい。
「そうか、なら次はどこに行く?」
俺は何気なく手を差し出した。
「え?」
顔をさらに真っ赤にさせて天子は一歩後ろに下がった。
「あー」
今はやめた方がいいな。
「んじゃ行くぞ」
俺は一人里を進んだ。後ろに天子を連れて。
少し距離があるな。天子の奴さっきの勢いはどこに行ったのやら……意外と初心なのかもしれないな。
という俺も流石に天子の裸を見ればこうなるな。
「おい」
俺は天子を呼んだ。
「なっ何よ!」
「いつまでも上の空でいるな」
俺は天子の頭を小突いた。
「なんか一人で歩いてるみたいでつまらない。それにお前らしくない」
「だっ誰が上の空よ! ほら! 神楽、トボトボ歩いてると置いていくわよ!」
そう言うと俺の前を歩き始めた。こっちの方が天子らしい。
「はいはい」
「っておい」
俺は両手に抱えるには多すぎる荷物を持ちながら天子を呼んだ。
「何?」
「なんでお前の荷物を俺が持たなきゃならないんだ」
俺は抗議の意味を込めてそう言うと天子を見た。
「なんでって……あなたはそのために来たんでしょ? まぁ使ってあげてるだけありがたいと思いなさいよ」
無邪気に笑うこいつを見ているとそれもいい……なんて思えない。これはいくらなんでもやりすぎだ。
「燃やすぞ」
俺は目の前に火を点けた。
「ちょっと! 待ちなさいよ!」
「ならわかってるよな?」
俺は火を大きくしながらそう言うと火を消し荷物の半分を天子に渡した。渋々天子は荷物を受け取った。
「男なら荷物くらい持ちなさいよ」
不貞腐れながら天子はそう言うと目線をそらした。
「そういうのは彼氏にでも言ってくれ。俺は関係ない」
そう、俺とこいつは友人。友人なんだから超えちゃいけない一線はある。
「神楽の癖に……」
全く困った女だ。
「はぁ……。後で何か奢れよな」
俺はそう言うと天子の荷物の半分を奪い取った。おかげでまた両腕が塞がった。
「持てることを光栄に思いなさいって言ってるでしょ」
「はいはい」
俺はそう言うと空を見上げて
「そろそろ日が暮れるな。おい天子帰るぞ」
「……流された」
不機嫌にそう言うと俺を後ろから抱きかかえた。こいつ……こんだけ力あるんだから自分で荷物持てよな。
「今度は持たないからな」
それから数日俺は気ままに生活をしていた。衣玖と話をつけて取り敢えず身の回りのこと……主に自分の事だけだが使用人に邪魔をさせないよう頼んだ。
「ふあぁーー……」
俺は大欠伸をしながら空を眺めた。こうして横になりながら空を眺めているのは落ち着く。しかし、ここの空は雲がない。何か物寂しい空だな。
「神楽!」
不意に視界が暗くなった。
「天子?」
俺は声の主に返事した。
風が大きく吹いた。
「この間買い物手伝ってくれたお返しをしてあげるわ」
そう言うと腕組をして俺を見ているのがわかる。
「ところで天子」
俺の視界の先には天子の顔はなかった。むしろ見えてるのは天子の下着だった。風が吹いたおかげで俺の顔はスカートの隙間が見える位置にあった。
「そこをどいてくれないか? 起きれない」
下着が見えてるなんて言えない。言ったらこいつに踏み殺されそうだ。こいつの力を甘く見ると本当に殺される。
「あ、そうね」
そう言うと天子は一歩後ろに下がった。
「んで、何をくれるんだ?」
俺は起き上がると天子にそう言った。
「ん? 上げないわよ?」
なんで嬉しそうに言う。
「なら何でお返ししてくれるんだよ」
「一日デート」
デート? 何を言ってるんだ? こいつ
「可憐で才色兼備な私がデートしてあげるんだものお釣りがくるくらいでしょ? ほらさっさと行くわよ!」
俺を抱きかかえるとそのまま妖怪の森まで落ちていった。
「オゲッ……ウプッ……」
俺は妖怪の森の麓で嘔吐していた。普通あんな速度で落ちたら生身の肉体だったらアウトだった。俺はここに来て天界の桃を食べてきたから少しは体が丈夫になったのだろう。だからこれだけで済んだ。
「男の癖にだらしないわねー」
クスクスと笑いながら天子は俺の背中をさすった。
「笑い事じゃ……ウプッ……ねぇ……」
吐くものが無くなったおかげで何とか立てそうだ。
「もういいの?」
まだ笑ってる……。
「ああそうだな」
俺は天子の肩に手を回した。
「お前が肩を貸してくれるならな」
足元がふらつく、強がってみたがやっぱりきつい。
「仕方ないわね」
まんざらでもないって顔だな。楽しみなのか? 俺とのデートが? まさかな。こいつに限ってそんな乙女な思考をしてるわけがない。
「てかお前の所為でふらついてるんだけどね」
俺と天子は森の中を歩いた。季節は秋、紅葉がとても綺麗だった。幻想郷はそんなに大きくないと聞いてる。だけど俺にはここは広大に見えた。
「へぇー天界から眺めてると微妙な感じだったけど降りてみると綺麗だな」
「まぁ私はもう見飽きたけどね。神楽が暇そうだったから連れてきてあげたの。感謝なさい」
「はいはい」
そう言いながら紅葉に見入ってるのがわかる。顔が嬉しいそうだった。
「ふーん」
嬉しそうな天子の横顔は少し綺麗だった。
「何?」
横顔を眺めてるのがばれたか。
「何、少しだけお前が綺麗だなって思っただけだ」
本心を言ってみた。
「ななな! いきなり何を!」
顔を真っ赤にして目線をそらした。
「まぁお前って性格を置いておけばかなり美人なんだけどな」
俺は天子の肩から腕を外してフラフラする足をなんとか立たせて
「まぁなんて言うか。お前って色々損してる」
俺は天子に向き直ると天子の両頬をツネって
「まぁ、そんなお前を気に入ってるのは確かなんだけどな」
そう言った。
「まぁあれだ。お前は……」
不意に意識がぶれた。そして、俺はそのまま天子に抱きつく形で倒れた。
「うん」
そう言うと天子は俺の背中に腕を回した。
「へ?」
俺はよく分からないまま天子の顔を見た。その顔が俺の視界を埋める。
「ムグッ」
天子の顔が俺の目の前にあった。
「私も神楽の事好きよ」
あれ? なんだかおかしな方向に?
「ええと」
「相思相愛なら仕方ないわね……仕方ないから付き合ってあげる」
ちょっと待て。何を?
「ええと……まず付き合うとなったら結婚式って奴をしなきゃダメなのよね?」
「少し待て!」
「ほら、グズグズしてられないわ。行くわよ神楽」
そう言うと強引に腕を引っ張られた。
人の話を聞いちゃいねぇ……。
「もう好きにしろ」
「ええ」
ああ、やっぱりこいつには勝てねえなー。
完?
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