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[2012年4月17日]

山中伸弥氏×水野弘道氏×世耕弘成氏「iPS細胞が再生医療を実現する日 〜チーム・オールジャパン戦略を考える〜」〜G1サミット2012レポート〜

京都大学の山中伸弥教授らが、世界に先駆けて樹立したiPS細胞は、難病のメカニズムの解明、再生医療への道を示すと共に、人類の生命や遺伝子の謎を解き明かす手掛かりとして、世界中から大きな注目を集めている。一方で、臨床研究に向けた道のりは長く、激しい国際競争が続いている。日本のiPS細胞技術が世界に普及し、臨床分野で羽ばたく日を目指して、政学官民の立場を超えたチーム・オールジャパン戦略を考える。(文中敬称略。肩書は2012年2月11日登壇当時のもの)。【写真提供:フォトチョイス

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寄付による資金確保、雇用対策は研究維持の根幹(会場)

世耕:ありがとうございました。では時間も参りましたので、フロアからご質問等募っていきたいと思います。今日は製薬関係の方々もお見えですし、ぜひ積極的にご発言をいただけたらと思います。…はい。ではまず國領先生、続いて各務先生にお伺いしていきましょう。

会場(國領二郎氏:慶應義塾大学総合政策学部教授):質問というより少し応援演説をしたいと思います。私としてはとにかく大学のファイナンス・モデルを抜本的に変えないと日本の科学技術も長続きしないのではないかと思っています。また、そのモデルを回していくためには国の資金だけでは恐らく駄目で、民間資金を呼び込むような仕組みが不可欠になると考えています。寄付については寄付税制に関する法案が今国会でかかっているんですよね? あれはぜひ反対しないでほしいのですが。

世耕:しません、大丈夫です(会場笑)。あれは自民も関係していますから大丈夫です。

國領:よろしくお願いします。税額控除ですし、これはかなり画期的な話であると思っています。プランド・ギビングが入るのもかなり大きいと思いますし。そしてあとはエンジェル税制ですね。これは金融の方がいらしたらぜひスキームづくりを考えていただきたいのですが、恐らく寄付税制とエンジェル税制を組み合わせることでかなり多くのことができるようになるはずですから、ぜひ頑張っていただきたいと思っています。

 あと、国の資金を使うということに関してもう1点あります。ここは私の認識と実態が違っていたら山中先生にもご指摘いただきたいのですが、雇用法制について懸念があります。ひょっとすると今よりもさらに状況が悪くなる可能性があるのではないかということを申しあげたいと思っております。単年度の有期契約教員…、大抵は特任教員と呼んておりますが、大学によってはこれを5年、慶応では10年まで延長しています。つまり明らかにミスマッチがあるんです。とにかく国の予算は年々の消費会計ですから、そこはむしろ投資的に行なっていくと。山中先生としては10年有期契約ということでいいんですよね?

山中:その通りです。はい。終身雇用はまったく考えておりません。

國領:わかりました。ですから私としても10年契約のようなことをきちんとできるようにしてほしいと思っております。そこで賃金体系も有期のほうが高いという形にできるよう、きちんと整備していただきたいのです。このあたりはひょっとすると大学内でのルールづくりという話かもしれません。とにかくいろいろな場面でがんじがらめになっているので、雇用制度という側面にもしっかり目を向けていかないと、この国の研究は続かないと思っております。

世耕:ありがとうございます。では各務先生、お願い致します。

再生医療のパートナー候補はまだ見えない(水野)

会場(各務茂夫氏:東京大学教授 産学連携本部事業化推進部長):東京大産学連携本部の各務と申します。現在は山中先生がされていることにかなり近い、大学発のベンチャー支援をやっております。さきほどのいわゆる“2014年問題”に関しまして、東大でももうすぐ終わってしまう予算があり、これについてどうするのかという議論をはじめています。大学によるベンチャー支援においてもどのような理論武装で進めていくかというのは結構重要であり、そのあたりでは少し苦労しておりますがとにかく頑張って乗り切らなければいけないと思っております。

 また國領先生のお話についてひとつ申しあげますと、たしかに大学でも学長を含め当事者が「やろう」と思ったらできる制度にはなっているわけですね。ただ、それをどうやるか。とりわけ教員と職員という大別があります。で、産学連携本部では私ともうひとりだけが終身雇用の教員であとは全員特任です。そのときに「予算がなければどうするんですか」という話になります。このあたりをどのように考えていくかは、現在の大学が抱えている大きな課題だと思います。

 それと、iPS細胞に関して水野さんにご質問があります。今日のお話を伺っていて頭に浮かんだのですが、かつてジェネンテック(アメリカのバイオベンチャー企業のパイオニア)ではクライナー・パーキンス(・コーフィールド・アンド・バイヤーズ)などのベンチャーキャピタルが入って1976年から遺伝子組み換えの技術とともに、大腸菌をベースにしたヒトインシュリン作成の研究をしておりました。ヒトインシュリンですから当時の大きなスポンサーはイーライリリー(・アンド・カンパニー)だったわけですね。彼らが投資を行い、のちに(エフ・ホフマン・ラ・)ロシュが買収する流れとなったわけですが。同様に再生医療でなんらかのブレークスルーが生まれる際、パートナーとなる大きなプレイヤーとしてはどのあたりを想定したらよいのでしょうか。

水野:そこはまさに先ほどお話しした部分と関連するのですが、現在は明確なパートナー候補も見えていない状態であります。ジェネンテックのときも当初はそこが今ひとつ見えていなかったのだと思いますが、少なくとも製薬会社ということはわかっていた。しかし今回はまだそれもわからない状態です。角膜に関してはひょっとしたら眼内レンズをつくっているプレイヤーが進めようとなさるかもしれませんし、とにかくそのあたりさえまったくわからない状態です。

 ただ、これは逆に言うと大きなチャンスでもあると思います。医療系の会社にはなると思いますが、とにかく研究開発に製薬メーカーから医療機器メーカーまで、ぜひいろいろなところから人を送っていただき、共同研究をしていただきたい。そうしていかないとわからないのではないかと考えております。私としては厚生労働省の方にもできれば入ってきていただいて、将来どのような準備がいるのか認可する側としても一緒に研究していただきたいと思っています。本当にすべてが初めてのことですから。パートナーとして入ってくださるところはまだ決まっておりません。

世耕:山中さんからは今のコメントに対して何かありますか?

山中:國領先生から税額控除に関する法案のお話が出ましたが、これはまさに去年のG1サミットで議論されていた話なんですね。そこで黒川(清氏:東京大学名誉教授)先生、鈴木寛(参議院議員、前文部科学副大臣)さん、立川敬二(宇宙航空研究開発機構理事長)さんとのセッションで、鈴木先生から「もう税額控除になるから大丈夫だ」というお話を伺っておりました。しかしそれから1年経ってもまだ法案が通っていない状態でして、誰も反対していないのであればなぜ通らないのかなとは感じております。早く通すべき法案は通していただきたいと。

世耕:まず税法の法案として出てきたのが今回初めてですから。ねじれ国会であっても必ず通すように頑張っていきたいと思っています。

山中:わかりました。来年のG1で同じ会話にならないよう、よろしくお願いします(会場笑)。

水野:将来の資金調達についてもう少しだけ。各務さんがクライナー・パーキンスの話をされましたが、この規模のプロジェクトには投資家が必ず必要になります。ただ、ある程度の額を投資できるような投資家というと、現在の日本には残念ながら存在していないのも事実です。日本のVCは規模的にも小さすぎますし、ノウハウ的にも不満です。そうなってくると方法は二つしかありません。海外のファンドの資金をとるか、日本でそういった投資家に育ってもらうか。このどちらかになります。海外ファンドの資金をとるのはそれほど難しくないと私は考えております。日本人はどうしても「お金が入るとすべて取られる」といったイメージを抱きがちだと思いますが、実際にはそんなこともないんです。お金と権利をカットするのは非常に簡単ですから、海外の資金を入れることは可能だと思います。

 一方で、日本の資金を入れようとするとはっきり言って教育が必要になります。ですから私としては、ベンチャーやバイオの投資を行なっているような投資家にもぜひパートナーになり、一緒に技術を研究して欲しいと考えています。そうでないと、恐らく5年後になって5千万や1億を出してもらっても仕方なくなってしまいます。そのときは数十億のお金を出していただける投資家が必要になりますから。今のままでは日本にそういった投資家が存在しない状況が続いてしまう。だからこそ投資家にも入ってもらって勉強してもらいたいのです。

世耕:ありがとうございます。それでは他のご質問等、いかがでしょうか。…では茂木さんどうぞ。

「iPS細胞は魔法の杖ではない」ことは、意外と認識されている(山中)

会場(脳科学者 茂木健一郎氏):山中先生、茂木です。こんにちは。今お話を聞きながら山中先生の論文をいくつかPDFで読んでいたのですが、やはり4つの遺伝子を導入することでiPS細胞をつくられたところが本当にe="background-color: rgb(201, 235, 233); text-decoration:none;color:rgb(0, 73, 151);">ブレークスルーが生まれる際、パートナーとなる大きなプレイヤーとしてはどのあたりを想定したらよいのでしょうか。

水野:そこはまさに先ほどお話しした部分と関連するのですが、現在は明確なパートナー候補も見えていない状態であります。ジェネンテックのときも当初はそこが今ひとつ見えていなかったのだと思いますが、少なくとも製薬会社ということはわかっていた。しかし今回はまだそれもわからない状態です。角膜に関してはひょっとしたら眼内レンズをつくっているプレイヤーが進めようとなさるかもしれませんし、とにかくそのあたりさえまったくわからない状態です。

 ただ、これは逆に言うと大きなチャンスでもあると思います。医療系の会社にはなると思いますが、とにかく研究開発に製薬メーカーから医療機器メーカーまで、ぜひいろいろなところから人を送っていただき、共同研究をしていただきたい。そうしていかないとわからないのではないかと考えております。私としては厚生労働省の方にもできれば入ってきていただいて、将来どのような準備がいるのか認可する側としても一緒に研究していただきたいと思っています。本当にすべてが初めてのことですから。パートナーとして入ってくださるところはまだ決まっておりません。

世耕:山中さんからは今のコメントに対して何かありますか?

山中:國領先生から税額控除に関する法案のお話が出ましたが、これはまさに去年のG1サミットで議論されていた話なんですね。そこで黒川(清氏:東京大学名誉教授)先生、鈴木寛(参議院議員、前文部科学副大臣)さん、立川敬二(宇宙航空研究開発機構理事長)さんとのセッションで、鈴木先生から「もう税額控除になるから大丈夫だ」というお話を伺っておりました。しかしそれから1年経ってもまだ法案が通っていない状態でして、誰も反対していないのであればなぜ通らないのかなとは感じております。早く通すべき法案は通していただきたいと。

世耕:まず税法の法案として出てきたのが今回初めてですから。ねじれ国会であっても必ず通すように頑張っていきたいと思っています。

山中:わかりました。来年のG1で同じ会話にならないよう、よろしくお願いします(会場笑)。

水野:将来の資金調達についてもう少しだけ。各務さんがクライナー・パーキンスの話をされましたが、この規模のプロジェクトには投資家が必ず必要になります。ただ、ある程度の額を投資できるような投資家というと、現在の日本には残念ながら存在していないのも事実です。日本のVCは規模的にも小さすぎますし、ノウハウ的にも不満です。そうなってくると方法は二つしかありません。海外のファンドの資金をとるか、日本でそういった投資家に育ってもらうか。このどちらかになります。海外ファンドの資金をとるのはそれほど難しくないと私は考えております。日本人はどうしても「お金が入るとすべて取られる」といったイメージを抱きがちだと思いますが、実際にはそんなこともないんです。お金と権利をカットするのは非常に簡単ですから、海外の資金を入れることは可能だと思います。

 一方で、日本の資金を入れようとするとはっきり言って教育が必要になります。ですから私としては、ベンチャーやバイオの投資を行なっているような投資家にもぜひパートナーになり、一緒に技術を研究して欲しいと考えています。そうでないと、恐らく5年後になって5千万や1億を出してもらっても仕方なくなってしまいます。そのときは数十億のお金を出していただける投資家が必要になりますから。今のままでは日本にそういった投資家が存在しない状況が続いてしまう。だからこそ投資家にも入ってもらって勉強してもらいたいのです。

世耕:ありがとうございます。それでは他のご質問等、いかがでしょうか。…では茂木さんどうぞ。

「iPS細胞は魔法の杖ではない」ことは、意外と認識されている(山中)

会場(脳科学者 茂木健一郎氏):山中先生、茂木です。こんにちは。今お話を聞きながら山中先生の論文をいくつかPDFで読んでいたのですが、やはり4つの遺伝子を導入することでiPS細胞をつくられたところが本当にe="font-size:100%;font-weight:bold;color:rgb(42, 58, 88);background-image:url(data:image/gif;base64,R0lGODlhMgADAIAAACo6WAAAACH5BAAAAAAALAAAAAAyAAMAAAIKhI+py+0Po5xUFgA7);width:605px;clear:both;text-align:left;line-height:130%;background-position: 0% 50%; background-repeat: no-repeat; margin: 25px auto 15px; padding: 0px 0px 0px 55px; ">「iPS細胞は魔法の杖ではない」ことは、意外と認識されている(山中)
会場(脳科学者 茂木健一郎氏):山中先生、茂木です。こんにちは。今お話を聞きながら山中先生の論文をいくつかPDFで読んでいたのですが、やはり4つの遺伝子を導入することでiPS細胞をつくられたところが本当に素晴らしい業績であると思いました。

 それで私は少し、別の側面から援護射撃をしたいと思っています。日本の社会というのは非常に性急で‘public understanding of science’もあまり進んでいません。ですからiPS細胞があたかも魔法の杖で「明日から再生医療ができる」というような、そういう雰囲気が日本には満ちていると思うんですね。しかし実際にはいろいろな課題もあり、だからこそ山中先生も懸命に研究していらっしゃるわけです。そういった問題点がどのようなものであるか、ある程度共通認識として皆が知らないと、「どうして継続的な支援が必要なのか」という理解もできないと思います。投資家を呼び込むにしても、要するにサイエンスやテクノロジーの内容にある程度精通した人材を厚くしていかないと、エコロジーとしてうまくいかないのではないかと。

 その点については山中先生も恐らく大変なプレッシャーを感じていらっしゃると思います。特に日本では魔法使い扱いされているといえばよいのでしょうか。アメリカやイギリスではそういったこともないと思いますが、日本人は科学や技術について詳細を知らない状態でも大きな期待をする人も多いのではないかと思います。そのあたりについてはどのように認識していらっしゃいますか?

山中:はい。たしかに2007年以降、患者さんやそのご家族と実際にお会いしてお話をしたり、メールや手紙のやりとりをする機会がすごく増えました。そのなかには茂木先生がおっしゃった通り、「もう明日にでもなんとかしてください」「先生のモルモットでも結構です。失敗してもいいから何かやってください」という方がおられます。

 しかし私がかなり驚いたのは、一方できちんと理解されている方も結構いらしたことです。「いえ、そんなすぐにできないということは存じています」という方も多かった。「私は今まで、難病の娘に希望さえ与えることができませんでした。でも、こういう技術が出たことで、もしかしたら娘に初めて“将来は治療法ができるかもしれないね”と、具体的に言えるようになりました」と。そういった考え方をしていらっしゃる方もたくさんおられることを知って、僕としては案外、「日本人ってすごいんだな」と学びました。

 ですからどのようにして後者の方々を増やしていくかについていえば、まさにご指摘の通りでサイエンス・コミュニケーターのような役割も必要ですし、何より僕たち自身が正確な情報を発信していく努力を求められていくと思います。ただ、それと同時に日本人の理解力はすごいものがあるということを、私自身はこの数年で痛感しておりました。

世耕:ありがとうございます。他にはいかがでしょうか。

日本国内では、認可に時間がかかるという印象を海外勢が持っている(水野)

会場:経済産業省の人間です。私自身は仕事のなかで、去年はケンブリッジに、そして今年はオランダに赴き、イノベーションがどのように起きていくのかをずっと見てきておりました。それで、これはむしろ水野さんにお伺いすべき質問なのかもしれませんが、寄付税制やエンゼル税制が整ったとしても、パートナーシップを組む段階で日本の制度環境が極めて不利に働くのではないかと思っております。最近のイギリスやオランダにおけるイノベーションボックス税制などの動きを見ていると、まだ日本では…、これは「投資家をどう育てるか」という先ほどのお話と鶏と卵の関係だと思うのですが、とにかく卵が鶏になっていく孵化装置として制度環境が整っていないように感じます。

 そうであればむしろ、たとえばシンガポールなど他の制度環境を使い、日本のお金と技術をそこにつぎ込んでもいいのではないかと思うときすらあります。それは私自身の務めには反するのですが、そう思うときがあるんです。そのあたり、パートナーシップを構築していく場として、あるいは制度環境として、日本には使い道があるのかどうか。端的に申しあげればそういった点についてお伺いできればと思います。

水野:パートナーシップをつくる場合に求められる要素は、まず優秀なパートナーがいるということです。その点に関して言えば日本のヘルスケア業界には製薬会社ほか立派な会社がたくさんあります。研究者も山中先生がおっしゃった通り大変にレベルの高い方々が揃っています。ですからパートナーはいるはずです。

 次に、その方々がパートナーになろうとするとき、何かの制約要因になってしまうようなシステム的な問題、つまり規制や税制上の問題が日本にあるのかどうか。たとえば実は税金等の問題。もちろん税金がかからないに越したことはありません。ただし、特にそこで「税金がかかるから日本に研究設備を置くことができない」という話は、私自身はあまり聞いたことがありません。今日はフロアにも製薬関係の方がいらっしゃると思うので、そのあたりについてご意見があれば何かお伺いしたいのですが、私は致命的な問題とは思っていません。

 その一方で、厚労省で臨床に入ったあと行われる認可のプロセス等で大変な時間がかかります。これはドラッグラグといわれ、関係者にはよく知られていますが、まさにおっしゃる通りで、「もう海外で申請すればいいじゃない」という方は実際に多くなってきています。これは対応を考えなければいけないです。ただし私たちも以前、サノフィ・アベンティスが年間40億ユーロほど売り上げていた血栓を防ぐ薬のジェネリックをアメリカで申請していた際、その認可に大変な時間を要しました。FDA(Food and Drug Administration)もそれほど巨大なバイオ製剤のジェネリックを認可するのがほぼ初めてだったんですね。そういうときはアメリカでもすごく時間がかかるんです。

 しかし、彼らも一応のところ前倒しに勉強する努力はしているなと感じました。そこで日本の、たとえば厚生省などが待ちの姿勢でやっていたら、本当にいつ認可できるか、いつ先に進むか、わからない状況になってくる。ですから行政サイドには早くから入っていただき、準備しておいてもらう必要があると思っております。

世耕:ありがとうございます。さて、そろそろ時e="font-size:100%;font-weight:bold;color:rgb(42, 58, 88);background-image:url(data:image/gif;base64,R0lGODlhMgADAIAAACo6WAAAACH5BAAAAAAALAAAAAAyAAMAAAIKhI+py+0Po5xUFgA7);width:605px;clear:both;text-align:left;line-height:130%;background-position: 0% 50%; background-repeat: no-repeat; margin: 25px auto 15px; padding: 0px 0px 0px 55px; ">日本国内では、認可に時間がかかるという印象を海外勢が持っている(水野)
会場:経済産業省の人間です。私自身は仕事のなかで、去年はケンブリッジに、そして今年はオランダに赴き、イノベーションがどのように起きていくのかをずっと見てきておりました。それで、これはむしろ水野さんにお伺いすべき質問なのかもしれませんが、寄付税制やエンゼル税制が整ったとしても、パートナーシップを組む段階で日本の制度環境が極めて不利に働くのではないかと思っております。最近のイギリスやオランダにおけるイノベーションボックス税制などの動きを見ていると、まだ日本では…、これは「投資家をどう育てるか」という先ほどのお話と鶏と卵の関係だと思うのですが、とにかく卵が鶏になっていく孵化装置として制度環境が整っていないように感じます。

 そうであればむしろ、たとえばシンガポールなど他の制度環境を使い、日本のお金と技術をそこにつぎ込んでもいいのではないかと思うときすらあります。それは私自身の務めには反するのですが、そう思うときがあるんです。そのあたり、パートナーシップを構築していく場として、あるいは制度環境として、日本には使い道があるのかどうか。端的に申しあげればそういった点についてお伺いできればと思います。

水野:パートナーシップをつくる場合に求められる要素は、まず優秀なパートナーがいるということです。その点に関して言えば日本のヘルスケア業界には製薬会社ほか立派な会社がたくさんあります。研究者も山中先生がおっしゃった通り大変にレベルの高い方々が揃っています。ですからパートナーはいるはずです。

 次に、その方々がパートナーになろうとするとき、何かの制約要因になってしまうようなシステム的な問題、つまり規制や税制上の問題が日本にあるのかどうか。たとえば実は税金等の問題。もちろん税金がかからないに越したことはありません。ただし、特にそこで「税金がかかるから日本に研究設備を置くことができない」という話は、私自身はあまり聞いたことがありません。今日はフロアにも製薬関係の方がいらっしゃると思うので、そのあたりについてご意見があれば何かお伺いしたいのですが、私は致命的な問題とは思っていません。

 その一方で、厚労省で臨床に入ったあと行われる認可のプロセス等で大変な時間がかかります。これはドラッグラグといわれ、関係者にはよく知られていますが、まさにおっしゃる通りで、「もう海外で申請すればいいじゃない」という方は実際に多くなってきています。これは対応を考えなければいけないです。ただし私たちも以前、サノフィ・アベンティスが年間40億ユーロほど売り上げていた血栓を防ぐ薬のジェネリックをアメリカで申請していた際、その認可に大変な時間を要しました。FDA(Food and Drug Administration)もそれほど巨大なバイオ製剤のジェネリックを認可するのがほぼ初めてだったんですね。そういうときはアメリカでもすごく時間がかかるんです。

 しかし、彼らも一応のところ前倒しに勉強する努力はしているなと感じました。そこで日本の、たとえば厚生省などが待ちの姿勢でやっていたら、本当にいつ認可できるか、いつ先に進むか、わからない状況になってくる。ですから行政サイドには早くから入っていただき、準備しておいてもらう必要があると思っております。

世耕:ありがとうございます。さて、そろそろ時間が参りました。それでは最後に長谷川社長から何かご質問等をいただきたいと思います。製薬業界代表でございます。

プリコンペティティブ・リサーチをぜひ日本でも(会場)

会場(武田薬品工業 代表取締役社長 長谷川閑史氏):これだけの問題提起がなされましたので何か一言、製薬業界の人間として申しあげたいと思いました。まず、私は製薬協(日本製薬工業協会)の会長を務めておりましたときに山中先生とお約束したことがあります。それは、製薬協としてこれまでできなかったことのひとつでもある未承認薬や適用外薬の開発です。これは自分が会長であった期間に非営利法人をつくり、そこを受け皿にしてすべて進めるということにしました。これは大きく進んでいます。

 それから、個々の企業ではなかなか対応が難しいので「製薬業全体で正式に難病へ取り組むという形を、とにかく具体的に示そう」というお話もしておりました。こちらについては別に私が辞めたからトーンダウンをしたわけでもないのですが、お約束をして1年以上も経つのにいまだ進んでおりません。どうやら製薬協としてなかなか話がまとまらないとのことでしたので、現在の状況を報告しますと、有志企業数社でそう遠くないうち、数カ月のうちに結論を出したいと。ですからそのご連絡をできるだけ早くしていきたいと思います。

 あともう1点。先ほど経産省の方からお話がありました通り、日本はとにかく過当競争をしてしまうんですね。小異を捨てて大同につかなければいけないとき、それができない。今日もまたそのひとつの典型をお伺いしたと感じました。しかし現在、諸外国ではプリコンペティティブ・リサーチが随分行われるようになってきています。要するに企業間での競争以前に基盤技術として必要とされていながらも、個別の企業ではなかなか取り組みにくいものがあるときは、いくつもの企業が協力し合い、お金、技術、あるいは人も出し合うというものです。場合によっては国の協力も受けながら「まずきちんと薬をつくることのできる基盤技術を皆でつくろう」という取り組みです。

 その取り組みによって欧米では、バイオマーカーの研究などがなされているのですが、日本ではなかなか進まない状況にあります。これもまた日本のカルチャーですが、そこはやはり、どうにかして変えていかなければいけない。iPS細胞はその意味でプリコンペティティブ・リサーチのようなものに最も相応しい技術だと思います。ですからその点についても、また別の観点から働きかけをしていきたいと思います。ちなみに私、昨年のG1サミットでは講演後にすぐ戻らなければならなかったので他のセッションを聴講できていなかったのですが、寄付税制というのは寄付をすると完全税額控除になるという話なんでしょうか。

世耕:無制限ではないですね。

長谷川:企業からすれば数億円ぐらいの単位ということですか?

世耕:今、その正確な数値データがなくて申し訳ありません。ただ、日本初となる寄付をターゲットにした税制ということであります。

長谷川:それが税額控除になると。

世耕:そうです。

長谷川:なるほど。そういうことであれば私も勉強させていただきたいです。法案が通るのであれば製薬協でもぜひ、可能な限り山中先生のご苦労を緩和できるようにしていきたいと思いますので。今日は質問というより、山中先生とのお約束を果たせていないので来年同じことを言わないという宣言でして(会場笑)、できるだけしっかりやりたいと思います(会場拍手)。

日本人による、日本発の素晴らしい技術として(山中)

世耕:ありがとうございました。それではクロージングに入っていきたいと思います。まず水野さんから簡単にコメントをいただきましょう。そのあと山中さんから長谷川社長のお話に対するコメントもいただきつつ、締めのお話をお願いしたいと思います。では水野さんお願い致します。

水野:はい。私はiPS細胞の技術的な側面まで理解しているわけでは決してありません。ただ、これが日本あるいは京都発の、本当に世の中を変えるかもしれない技術であることはもう疑いようがない話です。ですからその研究にできる限り日本のサポートを入れて、かつ海外も上手く使っていきたいと思っています。そして最終的にはiPS細胞の恩恵を受けた世界中の方々に「あ、日本から素晴らしい技術が出たんだな」と、50〜60年後に思ってもらえるようできる限りの協力をしたいと思っています。ですからぜひ本会場の皆様にもオールジャパンというか“オールヒューマン”といった観点から、日本人として一人ひとりが皆できるご協力をいただきたいと願っております。どうかよろしくお願い致します(会場拍手)。

世耕:ありがとうございました。それでは山中さん、お願いします。

山中:はい。今日は再生医療を中心にお話ししました。しかし実はiPS細胞として、より大きなアプリケーションは創薬にあると思っています。ですから長谷川さんからいただきましたお話の通り、ぜひ日本の製薬企業とも一緒に研究していきたいと思っています。この2年で私たちも随分変わりました。本当に創薬という領域が見えるところまで来ております。ですからお金だけの縁でなく研究者同士の交流なども進めていけたらと思っております。

 それからもうひとつ。日本人はこれまで科学の世界で素晴らしい成果を数多く出してきたのですが、今まではどちらかというと日本人が外国で研究した成果のほうが多かったと思います。しかしiPS細胞は純粋に国内で誕生した技術です。日本人が日本でつくった研究として、これだけ世界の人々が後追いをするような研究というのは本当に少なかったのも事実です。海外とも競ってきたなか、私たちはときにサイエンスの世界にいるとは思えないような出来事も経験してきました。私たちとしては倒れないよう、今後も頑張っていきたいと思います。会場おられる皆様のなかには、いろいろな意味で日本の科学技術の未来を担っている方も多くいらっしゃると思います。ですから、ぜひこれからもご指導をいただけたらと思っております。本日は本当にありがとうございました(会場拍手)。

世耕:ありがとうございました。それでは時間も参りましたので締めにしたいと思います。今日は山中さんと水野さんのお話を通して「やはり我々にもいろいろな役割があるな」と感じました。もちろん研究者の方々が一番の中心になるのですが、そこで任せきりにするのでなく、政治家も製薬業界も投資部門もそれぞれの役割を果たしていくべきであると。何より寄付という点で考えれば、本会場にいらっしゃる皆様にも役割があるのかなということを感じつつ、「その意味でのオールジャパンなのかな」と、今日は私自身、再確認致しました。ですから山中教授を中心とするiPS細胞の研究、ぜひオールジャパンで応援していこうではありませんかということを呼び掛けまして、本セッションの締めとさせてください。本日は誠にありがとうございました(会場拍手)。
この記事の目次
山中伸弥氏×水野弘道氏×世耕弘成氏「iPS細胞が再生医療を実現する日 〜チーム・オールジャパン戦略を考える〜」〜G1サミット2012レポート〜
4ページ 寄付による資金確保、雇用対策は研究維持の根幹(会場)
プロフィール
山中伸弥 
Shinya Yamanaka
京都大学 iPS細胞研究所 所長
物質一細胞総合システム拠点 教授

昭和62年3月 神戸大学医学部卒業。昭和62年7月国立大阪病院 臨床研修医。平成5年3月 大阪市立大学大学院医学研究科修了。平成5年4月 Postdoctoral Fellow, Gladstone Institute of Cardiovascular Disease, San Francisco, CA, USA。平成8年1月 日本学術振興会 特別研究員。平成8年10月 大阪市立大学医学部薬理学教室 助手。平成11年12月 奈良先端科学技術大学院大学 遺伝子教育研究センター助教授。平成15年9月 奈良先端科学技術大学院大学 遺伝子教育研究センター教授。平成19年9月 Professor of Anatomy, University of California, San Francisco。平成19年10月 京都大学物質―細胞統合システム拠点教授。平成20年1月 京都大学物質―細胞統合システム拠点 iPS細胞研究センターセンター長。平成20年4月 独立行政法人科学技術振興機構 山中iPS細胞特別プロジェクト 研究総括。平成22年4月 京都大学iPS細胞研究所所長。受賞に、平成20年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術特別賞、Shaw Prize in Life Science and Medicine 008、Robert Koch Prize 2008、2009 Albert Lasker Basic Medical Research Award、2009 Canada Gairdner International Award、平成22年度日本学士院 恩賜賞・日本学士院賞、平成22年 文化功労者に顕彰、第26回(2010)京都賞 先端技術部門、2011 King Faisal International Prize、米国科学アカデミー外国人会員選出、2011 Wolf Prize in Medicine、等多数。

水野弘道 
Hiromichi Mizuno
コラーキャピタル(英国)パートナー  
京都大学 iPS細胞研究所 特任教授

英国のプライベートエクイティ投資会社、コラーキャピタルのパートナー、アジア統括責任者。ジャフコ、グロービス、アドバンテッジパートナーズ、ヴィンテージI(UK)、ダイナファンド(US)、テラファーマ・ドイチェ・アニングトン(ドイツ)、シルバー・バイオテック・マネジメント(台湾)、ファースト・チャイナ・デベロップメント(香港)、レバレッジ・インディア・ファンドおよびICICIベンチャー(インド)等の投資会社のアドバイザー。財団法人ジャスト・ギビング・ジャパン アドバイザー、英財団ロイヤルトラスト ビジネスフェロー、クオンタムリープ(株)アドバイザー、(株)ひろしまイノベーション推進機構 顧問、 大阪大学 大学院 医学系研究科 脳神経感覚器外科学 招聘准教授、京都大学 ips細胞研究所 特任教授。

世耕弘成 
Hiroshige Seko
参議院議員 参議院自民党国会対策委員長代理

自由民主党参議院議員。和歌山県選出。昭和37年11月9日生まれ、大阪教育大学附属天王寺中高卒業。昭和61年早稲田大学政経学部政治学科比較政治制度論専攻を卒業後、日本電信電話株式会社(NTT)に入社。本社広報部報道部門を経て、平成2年より同4年にかけて、米国ボストン大学コミュニケーション学部大学院に留学。主に企業における危機管理について研究。企業広報論で修士号取得。平成5年広報部報道部門主査、同7年関西支社経理部経営管理担当課長を経て、同8年本社広報部報道担当課長に就任。平成10年参議院議員選挙初当選。平成14年から平成19年まで自民党和歌山県支部連合会会長を務める。平成15年総務大臣政務官、平成17年参議院総務委員長、自民党党改革実行本部事務局長。同年9月の衆議院議員総選挙で、自民党広報本部長代理及び自民党幹事長補佐として党のメディア戦略を担当。安倍内閣では広報担当内閣総理大臣補佐官に就任。参議院議院運営委員会筆頭理事、参議院総務委員会筆頭理事、参議院予算委員会筆頭理事を経て平成22年自民党幹事長代理。現在、参議院自民党国会対策委員長代理、学校法人近畿大学理事長を務める。

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