山中先生、茂木です。こんにちは。今お話を聞きながら山中先生の論文をいくつかPDFで読んでいたのですが、やはり4つの遺伝子を導入することでiPS細胞をつくられたところが本当にe="font-size:100%;font-weight:bold;color:rgb(42, 58, 88);background-image:url(data:image/gif;base64,R0lGODlhMgADAIAAACo6WAAAACH5BAAAAAAALAAAAAAyAAMAAAIKhI+py+0Po5xUFgA7);width:605px;clear:both;text-align:left;line-height:130%;background-position: 0% 50%; background-repeat: no-repeat; margin: 25px auto 15px; padding: 0px 0px 0px 55px; ">「iPS細胞は魔法の杖ではない」ことは、意外と認識されている(山中)
会場(脳科学者 茂木健一郎氏):山中先生、茂木です。こんにちは。今お話を聞きながら山中先生の論文をいくつかPDFで読んでいたのですが、やはり4つの遺伝子を導入することでiPS細胞をつくられたところが本当に素晴らしい業績であると思いました。
それで私は少し、別の側面から援護射撃をしたいと思っています。日本の社会というのは非常に性急で‘public understanding of science’もあまり進んでいません。ですからiPS細胞があたかも魔法の杖で「明日から再生医療ができる」というような、そういう雰囲気が日本には満ちていると思うんですね。しかし実際にはいろいろな課題もあり、だからこそ山中先生も懸命に研究していらっしゃるわけです。そういった問題点がどのようなものであるか、ある程度共通認識として皆が知らないと、「どうして継続的な支援が必要なのか」という理解もできないと思います。投資家を呼び込むにしても、要するにサイエンスやテクノロジーの内容にある程度精通した人材を厚くしていかないと、エコロジーとしてうまくいかないのではないかと。
その点については山中先生も恐らく大変なプレッシャーを感じていらっしゃると思います。特に日本では魔法使い扱いされているといえばよいのでしょうか。アメリカやイギリスではそういったこともないと思いますが、日本人は科学や技術について詳細を知らない状態でも大きな期待をする人も多いのではないかと思います。そのあたりについてはどのように認識していらっしゃいますか?
山中:はい。たしかに2007年以降、患者さんやそのご家族と実際にお会いしてお話をしたり、メールや手紙のやりとりをする機会がすごく増えました。そのなかには茂木先生がおっしゃった通り、「もう明日にでもなんとかしてください」「先生のモルモットでも結構です。失敗してもいいから何かやってください」という方がおられます。
しかし私がかなり驚いたのは、一方できちんと理解されている方も結構いらしたことです。「いえ、そんなすぐにできないということは存じています」という方も多かった。「私は今まで、難病の娘に希望さえ与えることができませんでした。でも、こういう技術が出たことで、もしかしたら娘に初めて“将来は治療法ができるかもしれないね”と、具体的に言えるようになりました」と。そういった考え方をしていらっしゃる方もたくさんおられることを知って、僕としては案外、「日本人ってすごいんだな」と学びました。
ですからどのようにして後者の方々を増やしていくかについていえば、まさにご指摘の通りでサイエンス・コミュニケーターのような役割も必要ですし、何より僕たち自身が正確な情報を発信していく努力を求められていくと思います。ただ、それと同時に日本人の理解力はすごいものがあるということを、私自身はこの数年で痛感しておりました。
世耕:ありがとうございます。他にはいかがでしょうか。
会場:経済産業省の人間です。私自身は仕事のなかで、去年はケンブリッジに、そして今年はオランダに赴き、イノベーションがどのように起きていくのかをずっと見てきておりました。それで、これはむしろ水野さんにお伺いすべき質問なのかもしれませんが、寄付税制やエンゼル税制が整ったとしても、パートナーシップを組む段階で日本の制度環境が極めて不利に働くのではないかと思っております。最近のイギリスやオランダにおけるイノベーションボックス税制などの動きを見ていると、まだ日本では…、これは「投資家をどう育てるか」という先ほどのお話と鶏と卵の関係だと思うのですが、とにかく卵が鶏になっていく孵化装置として制度環境が整っていないように感じます。
そうであればむしろ、たとえばシンガポールなど他の制度環境を使い、日本のお金と技術をそこにつぎ込んでもいいのではないかと思うときすらあります。それは私自身の務めには反するのですが、そう思うときがあるんです。そのあたり、パートナーシップを構築していく場として、あるいは制度環境として、日本には使い道があるのかどうか。端的に申しあげればそういった点についてお伺いできればと思います。
水野:パートナーシップをつくる場合に求められる要素は、まず優秀なパートナーがいるということです。その点に関して言えば日本のヘルスケア業界には製薬会社ほか立派な会社がたくさんあります。研究者も山中先生がおっしゃった通り大変にレベルの高い方々が揃っています。ですからパートナーはいるはずです。
次に、その方々がパートナーになろうとするとき、何かの制約要因になってしまうようなシステム的な問題、つまり規制や税制上の問題が日本にあるのかどうか。たとえば実は税金等の問題。もちろん税金がかからないに越したことはありません。ただし、特にそこで「税金がかかるから日本に研究設備を置くことができない」という話は、私自身はあまり聞いたことがありません。今日はフロアにも製薬関係の方がいらっしゃると思うので、そのあたりについてご意見があれば何かお伺いしたいのですが、私は致命的な問題とは思っていません。
その一方で、厚労省で臨床に入ったあと行われる認可のプロセス等で大変な時間がかかります。これはドラッグラグといわれ、関係者にはよく知られていますが、まさにおっしゃる通りで、「もう海外で申請すればいいじゃない」という方は実際に多くなってきています。これは対応を考えなければいけないです。ただし私たちも以前、サノフィ・アベンティスが年間40億ユーロほど売り上げていた血栓を防ぐ薬のジェネリックをアメリカで申請していた際、その認可に大変な時間を要しました。FDA(Food and Drug Administration)もそれほど巨大なバイオ製剤のジェネリックを認可するのがほぼ初めてだったんですね。そういうときはアメリカでもすごく時間がかかるんです。
しかし、彼らも一応のところ前倒しに勉強する努力はしているなと感じました。そこで日本の、たとえば厚生省などが待ちの姿勢でやっていたら、本当にいつ認可できるか、いつ先に進むか、わからない状況になってくる。ですから行政サイドには早くから入っていただき、準備しておいてもらう必要があると思っております。
世耕:ありがとうございます。さて、そろそろ時e="font-size:100%;font-weight:bold;color:rgb(42, 58, 88);background-image:url(data:image/gif;base64,R0lGODlhMgADAIAAACo6WAAAACH5BAAAAAAALAAAAAAyAAMAAAIKhI+py+0Po5xUFgA7);width:605px;clear:both;text-align:left;line-height:130%;background-position: 0% 50%; background-repeat: no-repeat; margin: 25px auto 15px; padding: 0px 0px 0px 55px; ">日本国内では、認可に時間がかかるという印象を海外勢が持っている(水野)
会場:経済産業省の人間です。私自身は仕事のなかで、去年はケンブリッジに、そして今年はオランダに赴き、イノベーションがどのように起きていくのかをずっと見てきておりました。それで、これはむしろ水野さんにお伺いすべき質問なのかもしれませんが、寄付税制やエンゼル税制が整ったとしても、パートナーシップを組む段階で日本の制度環境が極めて不利に働くのではないかと思っております。最近のイギリスやオランダにおけるイノベーションボックス税制などの動きを見ていると、まだ日本では…、これは「投資家をどう育てるか」という先ほどのお話と鶏と卵の関係だと思うのですが、とにかく卵が鶏になっていく孵化装置として制度環境が整っていないように感じます。
そうであればむしろ、たとえばシンガポールなど他の制度環境を使い、日本のお金と技術をそこにつぎ込んでもいいのではないかと思うときすらあります。それは私自身の務めには反するのですが、そう思うときがあるんです。そのあたり、パートナーシップを構築していく場として、あるいは制度環境として、日本には使い道があるのかどうか。端的に申しあげればそういった点についてお伺いできればと思います。
水野:パートナーシップをつくる場合に求められる要素は、まず優秀なパートナーがいるということです。その点に関して言えば日本のヘルスケア業界には製薬会社ほか立派な会社がたくさんあります。研究者も山中先生がおっしゃった通り大変にレベルの高い方々が揃っています。ですからパートナーはいるはずです。
次に、その方々がパートナーになろうとするとき、何かの制約要因になってしまうようなシステム的な問題、つまり規制や税制上の問題が日本にあるのかどうか。たとえば実は税金等の問題。もちろん税金がかからないに越したことはありません。ただし、特にそこで「税金がかかるから日本に研究設備を置くことができない」という話は、私自身はあまり聞いたことがありません。今日はフロアにも製薬関係の方がいらっしゃると思うので、そのあたりについてご意見があれば何かお伺いしたいのですが、私は致命的な問題とは思っていません。
その一方で、厚労省で臨床に入ったあと行われる認可のプロセス等で大変な時間がかかります。これはドラッグラグといわれ、関係者にはよく知られていますが、まさにおっしゃる通りで、「もう海外で申請すればいいじゃない」という方は実際に多くなってきています。これは対応を考えなければいけないです。ただし私たちも以前、サノフィ・アベンティスが年間40億ユーロほど売り上げていた血栓を防ぐ薬のジェネリックをアメリカで申請していた際、その認可に大変な時間を要しました。FDA(Food and Drug Administration)もそれほど巨大なバイオ製剤のジェネリックを認可するのがほぼ初めてだったんですね。そういうときはアメリカでもすごく時間がかかるんです。
しかし、彼らも一応のところ前倒しに勉強する努力はしているなと感じました。そこで日本の、たとえば厚生省などが待ちの姿勢でやっていたら、本当にいつ認可できるか、いつ先に進むか、わからない状況になってくる。ですから行政サイドには早くから入っていただき、準備しておいてもらう必要があると思っております。
世耕:ありがとうございます。さて、そろそろ時間が参りました。それでは最後に長谷川社長から何かご質問等をいただきたいと思います。製薬業界代表でございます。
プリコンペティティブ・リサーチをぜひ日本でも(会場)
会場(武田薬品工業 代表取締役社長 長谷川閑史氏):これだけの問題提起がなされましたので何か一言、製薬業界の人間として申しあげたいと思いました。まず、私は製薬協(日本製薬工業協会)の会長を務めておりましたときに山中先生とお約束したことがあります。それは、製薬協としてこれまでできなかったことのひとつでもある未承認薬や適用外薬の開発です。これは自分が会長であった期間に非営利法人をつくり、そこを受け皿にしてすべて進めるということにしました。これは大きく進んでいます。
それから、個々の企業ではなかなか対応が難しいので「製薬業全体で正式に難病へ取り組むという形を、とにかく具体的に示そう」というお話もしておりました。こちらについては別に私が辞めたからトーンダウンをしたわけでもないのですが、お約束をして1年以上も経つのにいまだ進んでおりません。どうやら製薬協としてなかなか話がまとまらないとのことでしたので、現在の状況を報告しますと、有志企業数社でそう遠くないうち、数カ月のうちに結論を出したいと。ですからそのご連絡をできるだけ早くしていきたいと思います。
あともう1点。先ほど経産省の方からお話がありました通り、日本はとにかく過当競争をしてしまうんですね。小異を捨てて大同につかなければいけないとき、それができない。今日もまたそのひとつの典型をお伺いしたと感じました。しかし現在、諸外国ではプリコンペティティブ・リサーチが随分行われるようになってきています。要するに企業間での競争以前に基盤技術として必要とされていながらも、個別の企業ではなかなか取り組みにくいものがあるときは、いくつもの企業が協力し合い、お金、技術、あるいは人も出し合うというものです。場合によっては国の協力も受けながら「まずきちんと薬をつくることのできる基盤技術を皆でつくろう」という取り組みです。
その取り組みによって欧米では、バイオマーカーの研究などがなされているのですが、日本ではなかなか進まない状況にあります。これもまた日本のカルチャーですが、そこはやはり、どうにかして変えていかなければいけない。iPS細胞はその意味でプリコンペティティブ・リサーチのようなものに最も相応しい技術だと思います。ですからその点についても、また別の観点から働きかけをしていきたいと思います。ちなみに私、昨年のG1サミットでは講演後にすぐ戻らなければならなかったので他のセッションを聴講できていなかったのですが、寄付税制というのは寄付をすると完全税額控除になるという話なんでしょうか。
世耕:無制限ではないですね。
長谷川:企業からすれば数億円ぐらいの単位ということですか?
世耕:今、その正確な数値データがなくて申し訳ありません。ただ、日本初となる寄付をターゲットにした税制ということであります。
長谷川:それが税額控除になると。
世耕:そうです。
長谷川:なるほど。そういうことであれば私も勉強させていただきたいです。法案が通るのであれば製薬協でもぜひ、可能な限り山中先生のご苦労を緩和できるようにしていきたいと思いますので。今日は質問というより、山中先生とのお約束を果たせていないので来年同じことを言わないという宣言でして(会場笑)、できるだけしっかりやりたいと思います(会場拍手)。
日本人による、日本発の素晴らしい技術として(山中)
世耕:ありがとうございました。それではクロージングに入っていきたいと思います。まず水野さんから簡単にコメントをいただきましょう。そのあと山中さんから長谷川社長のお話に対するコメントもいただきつつ、締めのお話をお願いしたいと思います。では水野さんお願い致します。
水野:はい。私はiPS細胞の技術的な側面まで理解しているわけでは決してありません。ただ、これが日本あるいは京都発の、本当に世の中を変えるかもしれない技術であることはもう疑いようがない話です。ですからその研究にできる限り日本のサポートを入れて、かつ海外も上手く使っていきたいと思っています。そして最終的にはiPS細胞の恩恵を受けた世界中の方々に「あ、日本から素晴らしい技術が出たんだな」と、50〜60年後に思ってもらえるようできる限りの協力をしたいと思っています。ですからぜひ本会場の皆様にもオールジャパンというか“オールヒューマン”といった観点から、日本人として一人ひとりが皆できるご協力をいただきたいと願っております。どうかよろしくお願い致します(会場拍手)。
世耕:ありがとうございました。それでは山中さん、お願いします。
山中:はい。今日は再生医療を中心にお話ししました。しかし実はiPS細胞として、より大きなアプリケーションは創薬にあると思っています。ですから長谷川さんからいただきましたお話の通り、ぜひ日本の製薬企業とも一緒に研究していきたいと思っています。この2年で私たちも随分変わりました。本当に創薬という領域が見えるところまで来ております。ですからお金だけの縁でなく研究者同士の交流なども進めていけたらと思っております。
それからもうひとつ。日本人はこれまで科学の世界で素晴らしい成果を数多く出してきたのですが、今まではどちらかというと日本人が外国で研究した成果のほうが多かったと思います。しかしiPS細胞は純粋に国内で誕生した技術です。日本人が日本でつくった研究として、これだけ世界の人々が後追いをするような研究というのは本当に少なかったのも事実です。海外とも競ってきたなか、私たちはときにサイエンスの世界にいるとは思えないような出来事も経験してきました。私たちとしては倒れないよう、今後も頑張っていきたいと思います。会場おられる皆様のなかには、いろいろな意味で日本の科学技術の未来を担っている方も多くいらっしゃると思います。ですから、ぜひこれからもご指導をいただけたらと思っております。本日は本当にありがとうございました(会場拍手)。
世耕:ありがとうございました。それでは時間も参りましたので締めにしたいと思います。今日は山中さんと水野さんのお話を通して「やはり我々にもいろいろな役割があるな」と感じました。もちろん研究者の方々が一番の中心になるのですが、そこで任せきりにするのでなく、政治家も製薬業界も投資部門もそれぞれの役割を果たしていくべきであると。何より寄付という点で考えれば、本会場にいらっしゃる皆様にも役割があるのかなということを感じつつ、「その意味でのオールジャパンなのかな」と、今日は私自身、再確認致しました。ですから山中教授を中心とするiPS細胞の研究、ぜひオールジャパンで応援していこうではありませんかということを呼び掛けまして、本セッションの締めとさせてください。本日は誠にありがとうございました(会場拍手)。