山中氏ノーベル賞:実用化になお課題 がん化リスク未解決
毎日新聞 2012年10月09日 07時00分
ノーベル医学生理学賞に決まった京都大iPS細胞研究所の山中伸弥・同大教授(50)が作り出したiPS細胞を医療で利用するには、安全性や倫理的な問題が残されている。
人工的に作り出したiPS細胞には安全性に未知の部分が多く、性質にばらつきがある。無限に増える性質を持つため、作成した臓器の中にiPS細胞が残っていれば、増殖してがんになる恐れがある。
当初、iPS細胞作成に使う遺伝子の中にはがん由来のものも含まれていたため、移植後の「がん化」が最も心配された。その後、がん遺伝子を使わない作成法などが開発され、がん化の危険性は減っている。さらに、山中教授の研究仲間の高橋和利・京都大講師らは今年6月、横浜市で開かれた国際幹細胞学会で望み通りの細胞になりにくくがんになりやすい「低品質」iPS細胞について、見分ける目印遺伝子を見つけたと発表した。
しかし、現段階では、人体に入れても安全な品質を担保する「標準化」は実現していない。それに加え、再生医療のため患者個別のiPS細胞を作成することは、現状では費用も時間もかかるため、現実的ではないと考えられている。
同じ白血球型であれば拒絶反応が少ないこともあり、山中教授は白血球型ごとにiPS細胞を備蓄しておく「iPS細胞バンク」構想を表明。今年7月には「iPS細胞ストック」を構築する意向を発表、基盤整備が始まったところだ。
◇究極の個人情報 倫理確立が急務
倫理面での課題もある。iPS細胞はもう一つの幹細胞である胚性幹細胞(ES細胞)と異なり、受精卵を壊さないが、京都大のチームが今月、マウスのiPS細胞から卵子と精子を作ることに成功、子どもも産ませたことで、幹細胞からの生殖細胞(卵子と精子)作りをどのように規制すべきか早急に検討する必要が出てきた。
そもそも人間の臓器や組織を人工的に作り、道具のように扱う医療行為への疑問もある。患者由来のiPS細胞には、最高のプライバシーとも言われる患者本人の遺伝情報が含まれている。病気の解明や創薬のために作ったiPS細胞の管理や研究結果の取り扱い、細胞提供を受ける際のインフォームド・コンセントの取り方についても、十分な議論が求められる。