中山七里は「さよならドビュッシー」「おやすみラフマニノフ」など音楽ミステリーだけかと思っていたら、「静おばあちゃんにおまかせ」(文藝春秋:2012年7月刊)は音楽に全然関係無い5編の短編を集めたものだった。「謎解きはディナ―のあとで」に良く似た展開。元裁判官の静ばあちゃんが孫娘、円(まどか)から聞いた話で犯人を推理する。円と葛城刑事は恋人同士だ。事件はばあちゃんの謎解きで解決する5つの短編。その総てを貫くテーマがある。円の両親は酔った警察官の運転する車に撥ねられ死んだのだが、その警官が本当に酔っ払い運転をしていたかどうか?出頭した警官が本人かどうか?と言うことだ。葛城と組んでスカイツリー建築現場での殺人事件に取り組んでいた所轄の警官、三枝がその人なのだが、円は事故当時の記憶と覚えていた印象が違うと判断する。
大団円はネタバレになるから詳細は書けないが突如、浅田次郎になってあっけないと言うか詰まらない結末。短編も出来不出来があって2編は非常に面白かったが後はスカ。
さて今日の作品の監督、亀井亨は「ねこタクシー」や「犬飼さんちの犬」など犬猫ブームに乗って作品を送り出しているが余りパッとしない映画ばかりだ。ただ出て来る犬や猫のペットが可愛くて見てしまう。この「くろねこ・ルーシー」も黒い仔猫が可愛い可愛い。下手な脚本、拙い演出、拙い役者、悪い条件が三拍子揃っているが仔猫が可愛ければ僕はそれで構わない。昔から云う(いや僕が云う)、子どもとペットを出しておけば観客の目くらましになると。
「今日の売り上げが2500円?あんたのとこ一回が3000円でしょ」ショッピングモールのバラエティコーナーでブースをだしている主人公の占い師、鴨志田賢(塚地武雅)にモールの管理部長が噛みつく。「エー、お客さんは一人で500円おまけしましたので」。鑑定内容も頼り無く、人気はさっぱりの38歳の元サラリーマン鴨志田は人生の節目で必ず黒猫が目の前を横切った。受験に失敗した日、リストラされた日、そして妻、幸子(安めぐみ)は不甲斐ない鴨志田にあきれ果てて5歳の陽(村山謙太)を連れて家を出た日も。ルーシーと呼ばれる、そんな不吉な黒ねこにアパートの前で再会する。その翌日ルーシーの子どもらしい小さな黒猫匹がドアの前にいる。母親ルーシーとはぐれカラスに狙われている様子。鴨志田は思わず部屋の中に入れてしまう。
ここから予想通り猫を使った占いが始まる。読めるんだよな、これが。仔猫は「ルー」と「シー」と名付ける。仕事の間はペットショップに預けていたがそれも毎日には行かない。母猫ルーシーは全く仔猫たちの世話をしないのでブースに連れて来る。仔猫2匹を見た客が何かを感じて買った馬券が大穴となる。噂が噂を呼び、忽ち鴨志田の占いや行列が出来るほどの大当たり。客は2匹の仔猫に癒され鴨志田も猫からカンが閃き、的確なアドバイスをするようになる。懐も暖かくなり妻子も戻って来る。
ここで終わったら映画は面白くない。何かトラブルが起こる筈だ。案の定、数日後ショッピングモールの掲示板に黒猫ルーシーの行方を探すビラが貼られており、元の飼い主、鮫島(生瀬勝久)はルーシーは盗まれたと鴨志田を責め始める。
この辺りの猫泥棒騒ぎは予想通りで詰らない。鮫島の部下だった男(住田隆)も登場し複雑になる。むしろ主流の「猫占い」を深耕しエピソードを色々探った方が良かったのではないか。
人生に迷い自信を失くし家族の絆を失った主人公が黒い2匹の仔猫に救われる、と言う動物ものにありきたりのテーマは手垢がついていて面白くもない。 鴨志田の周りの魅力的な女性たち、ペットショップの店員里中(大政絢)隣の占い師ガリンシャ(濱田マリ)、妻の美紀(京野ことみ)などとのロマンティクな絡みもあっても良いのでは。
しかし世間はお笑い芸人を持て囃し過ぎる。塚地武雅の何処が良いのだろう?小太りでもさっとして芝居も上手いとも思えない。
10月6日よりヒューマントラスト有楽町他で公開される。
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