昨日(21日)の朝刊各紙に載ったトニー・スコット監督(68歳)の自殺報道はショックだった。今日はFCCJ東地裁のことに触れる積りだったが、トニー・スコットについて紙面を割く。
3人兄弟の末っ子として英国に生まれる。7歳上の兄は、映画監督のリドリー・スコット。「グラディエーター」でアカデミー賞を授与されナイトの称号を持つ巨匠。最新作で「エイリアン」の前篇「プロメテウス」がヒットして話題を呼んでいる。スコットはロンドン王立美術大学で学び、画家として生計を立てていたが、1970年代にリドリーのCM制作会社に入り、CMディレクターとしてカンヌ他で数多くのコマーシャルが受賞している。1983年の監督作『ハンガー』(The Hunger)で長編映画デビュー。兄と一緒に活動の拠点をハリウッドに移す。1986年の『トップガン』(主演:トム・クルーズ)の大ヒットにより、スター監督となる。このCG全盛時に特殊効果にCGIを嫌い、飛行機や車列車のアクションやクラッシュなどは総て実写だった。3度目の妻ドナ・ウィルソン・スコットは「デイズ・オブ・サンダー」「ザ・ラスト・ボーイ・スカウト」に出演していた女優、二人には12歳になる双子の男の子フランとマックスがいる。兄のリドリーのフィロソフィカルな作品と違い単純なアクショナーが得意でエネミー・オブ・アメリカ」 「トゥルー・ロマンス」「クリムゾン・タイド」 「ザ・ファン」 「スパイ・ゲーム」 など僕の好きな作品ばかり。「ハリウッド・レポート」紙は詳しく報じている。現地時間19日の午後12時35分頃、数人の目撃者からロサンゼルス港とサン・ペドロを結ぶ450メートルの長さのビンセント・トーマス橋の56メートルの高さからLAハーバーに男性が飛び降りたという通報があった。遺体はロサンゼルス港湾警察により4時半頃に収容され、検視に回されたが、橋の上に駐車してあった愛車のトヨタ「プリウス」(環境保護者だった)に連絡先にオフィス「スコット・フリー」とありそこに遺書があったことから、LAPD(ロスアンジェルス市警)は自殺の線で捜査を進めている。自殺の原因は治療不能の脳腫瘍と言う話があるが妻のドナは否定している。実際パラマウント配給のジェリー・ブラックハイマー製作の「トップガン2」(5月に制作が決定していた)の打ち合わせで先週、最後の5日間をトム・クルーズとネバダ州の海軍基地で過ごしている。1986年のクルーズ出世作となった「トップガン」の続編だ。何れにしてもこの作品の監督を替えて制作されるだろうが、スコットが残した大きな穴を埋める人はいない。合掌。
原題は英語に直すと「The Man Next Door」、「隣の男」。邦題だと(私も誤解していたのだが)建築家、ル・コルビュジエの建築物のドキュメンタリー映画だと思っていた。最初のタイトルバックが白と灰色に分れた画面。右の灰色の画面に大ハンマーが打ちこまれている。やがて左の白の画面に穴が開き灰色のハンマーは貫通して向こうが見える。つまり壁の表と裏を、画面を分けて見せていることに気付く。ここで初めてル・コルビュジエの建築物記録映画でなく劇映画で、邦題は観客を誤解させているのだ。
道路を隔てて穴の開いた白の壁の反対側に住んでいるのがレオナルド(ラファエル・スプレゲルブルド)。椅子のデザインで世界的なインダストリアル・デザイナーで、彼の住んでいる家はあのル・コルビュジエの設計した家なのだ。
これは本当の話でラテンアメリカに彼の作品は2つあり、この家はアルゼンチン、ラプラタ市にあり、外科医の「クルチェット邸」(完成1955年)で全体は白く、階段は無く斜面の廊下で2階に上がる。家の中に大きな樹があるのが特色。(日本でも上野の山の「西洋美術館」はル・コルビュジエの設計で彼の名は知られている)
大きなハンマー音で目が覚めたレオナルドは隣家の住人ビクトル(ダニエル・アラオス)にそんな所に窓を作らないで欲しい。「こちらの家が丸見えになるじゃないか」と文句をつける。スキンヘッドの大男ビクトルはヤクザ風、「太陽の光が少し欲しいだけだ。隣同志だ、仲良くしよう」と言い返す。妻と娘はレオナルドの弱腰を罵り、もっと強気に隣人を攻めろとハッパをかける。「窓を塞げ、太陽が入らなくて暗いなら壁の上方に細い嵌め殺しの曇りガラスを入れろ」と注文を出し、ビクトルは妥協する。その案でも妻娘は反対し完璧に塞げと隣人と和解したレオナルドを非難する。馴れ馴れしいビクトルも怖いし、妻や娘は実家に帰ると脅す。この辺りの展開は脚本のアンドレス・ドゥブラットが実に上手い。
監督しカメラも廻すガストン・ドゥブラットの撮り方も斬新。時には顔の半分しか切り取らない超クローズアップを多用し、次いで引いて全体像を見せる。ユーモラスでもあると同時に緊張感も増す。
敵であった筈のビクトルが、娘が危機に陥った時に駆けつける終盤に思わぬオチがついていて、意味深なエンディングとなる巧みさに舌を巻く。南米アルゼンチンのドゥブラット監督作品はハリウッドやヨーロッパの映画とは一味も二味も変わっている。一見の価値あり。
9月15日より新宿K’s Cinemaで公開される。
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