東大・高原先生に聞く
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北京の日本大使館前を歩くデモ隊=9月18日©朝日新聞社 |
関係性の発展望む両国
事実知り誤解を解こう
――日本が尖閣諸島を買ったことで中国が反発しています。反日運動がかなり広がりましたが、デモがここまで大きくなったのはなぜですか。
中国では、官僚の汚職や格差の拡大など高度経済成長のひずみが大きくなっています。社会の矛盾に対する不満や怒りが最大規模のデモにつながったとみられます。ただ、尖閣諸島をめぐって戦争になる可能性は極めて低いと思います。関係を発展させていくことで得られる利益のほうが大きいことを日本も中国も知っているからです。
――尖閣諸島をめぐって、両国はどのような主張をしているのですか。
日本は、尖閣諸島が誰のものでもないことを確認したうえで、1895年に沖縄県に編入したと主張しています。一方、中国は明の時代から自国の一部で、日清戦争によって日本に奪われたので、中国に返すべきだとしています。
日本は国交正常化をした1972年と日中平和友好条約を結んだ78年に、中国側に尖閣諸島の問題について話し合いを求めましたが、中国側は重要な問題ではないとして断りました。
――なぜ今になって返せと言うのでしょうか。
経済成長が著しく、国力がついてきたため、自己主張が強くなっているのが理由です。
――解決方法は。
国際司法裁判所(本部オランダ・ハーグ)で国際ルールにのっとって解決する方法がありますが、中国は自信がないので提案しないでしょう。70年代、80年代の時のように両国がこの問題をしまいこんでしまうのが一番現実的です。
――国交正常化のころより最近のほうが日中戦争のことが問題になっています。
中国では今、ナショナリズム(国家主義)が勢いを増しています。89年に民主化を求める市民のデモ隊と警察や軍が対立し、多数の死者などを出した第2次天安門事件がありました。
国はこの事件を外国人のたくらみと見なし、外国の影響が強くなりすぎることを警戒するようになりました。これを一つのきっかけにして90年代以降、「愛国主義教育」という名の下にナショナリズムが強められてきました。
実際に80年代までの歴史教育は、抗日戦争で中華民族を勝利に導いた中国共産党の栄光ある歴史に重点を置いたものでしたが、90年代以降、戦争の被害者としての立場が強調されています。
テレビでも抗日戦争ドラマばかりが放映され、日本の軍人が中国人を痛めつけるシーンなどがよく見受けられます。そのため、「日本人は怖くて乱暴」というイメージが若者に定着しています。
――どうすれば誤解は解けるのでしょうか。
中国では戦後の日本がいかに平和を重視してきたかを知ってもらうことが大切です。日本では、日中戦争についてもっと詳しく教えるべきでしょう。子どもたちに日中戦争で起きた事実に目を向けてほしい。
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日中国交正常化について話し合う第1回首脳会談を前に、田中角栄首相(左)の手をとって迎える周恩来・中国首相=1972年9月25日、北京で©朝日新聞社 |
【日中国交正常化】
1972年9月29日、中国を訪れた田中角栄首相が中国の周恩来首相と日中共同声明に調印し、両国の国交が結ばれた。
この声明により、日本は中国政府が中国の唯一の合法政府で、台湾は中国の領土の一部であることを認め、日本と台湾との外交関係は途絶えた。また、中国は日本に戦争賠償の請求を放棄することを宣言した。 |
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