友人から凄い経済の本があるよ、と勧められた水野和夫の「世界経済の大潮流」(太田出版:2012年5月刊)を読んだ。サブタイトルにうたっているように「経済学の常識をくつがえす資本主義の大転換」とあるように、従来の経済の見方を一変するアイ・オープナーの著作だ。テロリストのワールドセンタービル突入の911、リーマンショックの915、ユーロ危機の欧州ソブリン問題、そして1201年311も「一見何の脈絡もなく偶発的でバラバラに見えますが、実は水面下では一つの概念でつながっているのです」とマジシャンか詐欺師のような前口上で論議を始める。
その概念とは「蒐集」(コレクション)だそうだ。「911はウォール街による 富の過剰な『募集』に対する第三世界からの抗議」「915は過剰に利潤を『募集』するために金融工学を駆使してレバレッジを高めた結果の自滅」「ユーロソブリン問題は『陸の国』ドイツ『第四帝国』が参加基準を緩めてまでもギリシャを加盟させて無理矢理(過剰に)土地を『募集』した結果」「311は資源小国・日本が高騰する原油価格に対して、安価で安全であると信じて原子力エネルギーを過剰に『募集』した結果」とややこじつけ気味だが一刀両断するのが気持ち良い。
「世界史は陸の国と海の国の戦いの歴史だ」と言うカール・シュミットの敷衍も興味深い。古代においてはローマ(陸)とカルタゴ(海)の戦い。近代の歴史を理解する上で最重要な戦いは16〜17世紀の「海の国」イギリス(国教会)と「陸の国」スペイン(ローマ・カトリック)の戦いだった。以後世界の覇権を握ったのは海の国」イギリスだった。その「海の国」を20世紀に継承したのはアメリカ合衆国で、更に航空技術を発展させ海と空を一体化させて「海と空の時代」を切り開いた。しかし911と915の結果アメリカの覇権に揺らぎが生じ始め、「陸の国」である独・仏が中心に「EU帝国」を築いたがこれもギリシャ問題で揺らぎが出ている。。。と面白い発想は延々と続く。
著者の水野和夫は三菱UFJモルガンスタンレー証券のチーフエコノミストを経て経済評論家。今後この人に注目しよう。
エドガー・アラン・ポーは1849年10月にボルチモアで40歳の若さで亡くなった。日本の探偵小説の草分け江戸川乱歩はここから捩った筆名であることは知られている。貧困と放埓な生活の果ての謎の死だと言う見方が専らだが、この映画ではあくどい連続殺人犯を追っていての死と言うストーリーを展開する。
原題「THE RAVEN」は1845年に発表し評判を取った詩「大鴉」のこと。ポーは名声を得てからもいつも貧しく売れなかった。ポーの作品は本国アメリカよりもヨーロッパで評価された。コナン・ドイルやボードレールやドストエフスキー、ジュール・ヴェルヌらに影響を与えている。
1849年アメリカ・ボルチモアで、猟奇的な殺人事件が起きる。鍵が内側からかかった部屋の中で母と娘の死体が発見される。母親は喉を掻き切られ、娘は殺されて煙突の中に宙吊りになっている。最初娘の姿が見えずやがて暖炉の煙突から白い腕が見え血が滴り落ちるシーンは観客を脅かすに充分の凄惨さだ。駆けつけた刑事、エメット・フィールズ(ルーク・エヴァンス)はポーの作品「モルグ街の殺人」に酷似していることに気付く。酒浸りで貧困のどん底にいるポー(ジョン・キューザック)は容疑者と疑われるが第二、第三の殺人が発生し、総てポーの著作を模倣しているコピー・キャットだ。
迷惑に思いながらもポーは自尊心をくすぐられる。一転自分の著作を汚す殺人鬼を追うことを決意する。しかし連続殺人犯は何とポーの恋人エミリー(アリス・イヴ)を誘拐し、ポーに殺人の偉業を新聞に連載するようにと「挑戦状」を叩きつける。エミリーを救うには犯人の言うことを聞くしかなかった。
密室のトリック、分断された死体と仮面の警告、解剖遺体とすり替えられた死体、船乗りのタトゥーと12時28分で止まった時計などなどミステリーが一杯の画面について行くのがやっとだ。古いボルチモアの街は霧が立ち込め小雨に濡れて街中がミステリーの雰囲気満点。
ハミルトン大尉(ブレンダン・グリーソン)が許さないポーとエミリーのロマンスも陰鬱なバックから浮かび上がってくる。
監督ジェイムス・マクティーグ。「Vフォー・ヴェンデッタ」で、自分を怪物に変えた者たちに血の報いを与えようとする復讐鬼を描いた作品で、この映画に雰囲気は似ている。纏まりに欠けた画面、説明不足の展開は両作品に通じている。
10月12日より丸の内ルーブル他全国で公開される。
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