FCCJの件は暫く封印しよう。フェイスブックの「FCCJSOS」も盛んに動き出す。http://m.facebook.com/story.php?story_fbid=318333708263714&id=297633843667034&refid=28&guid=ON。 だが僕はこのサイトに関与していない。僕は今や再び「物言えば唇寒し」の期間に入っている。
ジョン・グリシャムは推理を交えた法廷もので売れっ子になった作家だ。自身も弁護士なので主人公はミシシッピー州弁護士が多くまた「評決のとき」「ザ・ファーム」「ペリカン文書」「依頼人」「処刑室」「レインメーカー」と書けば映画化されていたが、登場人物が裁判官、弁護士、陪審などに限られその組み合わせなので大体筋が読め1996年の「ニューオーリンズ・トライアル」以来映画化されていない。小説自体もある種マンネリになっていた。しかい久しぶりに「謀略法廷」(THE APPEAL)(新潮文庫:2009年7月刊)を読んでみると先が読めるがグリシャムの筆法に乗せられて面白い。クレイン化学の工場から垂れ流されたガン性物質でがん患者が発症し多数の死者が出る。40万ドルの借金を抱えながらもフェスとメアリー夫妻の弁護士は敢然と戦う。夫と子供を立て続けに殺された寡婦に4100万ドル(32億円)の懲罰的賠償金支払い命令が出る。続いてクラスアクションが始まれば会社は倒産する危機に瀕したクレイン社会長カール・トルドーは上訴審でひっくり返えそうと、州最高裁判事に手の者が当選するように陰謀をめぐらす。クレイン社は枯葉剤や危険な農薬のモンサント社をモデルにしていて迫力がある。トルドーはトロフィー・ワイフにせがまれ1800万ドル(14億円)を投じてくだらない抽象画をオークションで落とすシーンが面白い。最高裁判事を保守派の男にして賠償金額に制限を持たせようとするコンセプトも壮大な陰謀だ。「ペリカン文書」にも似ている。そしてグリシャムらしからぬ結末、「悪は必ず滅びる」が曖昧になるのに注目したい。久しぶりでジョン・グリシャムを堪能した。
高村薫のデビュー小説。良く出来てスリル満点で日本推理サスペンス大賞を授与されたベストセラー小説だが、1990年小説を発表した時代と22年を経た現代でIT面で大きな齟齬を来す。例えば一味のキー・パーソンになる野田(桐谷健太)の役柄。システム・エンジニアで大型コンピュータのメンテナンスや修理、点検を業務としている。ゴキブリや虫が入り込み故障の原因になるとこぼす。襲うターゲット銀行の地下に設置されたコンピュータにはネズミが巣食っていると。毎日のように出入りしている野田だからこそ、見取り図を精密に描き保安要員の配置やシフトなどの情報が手に入る。これが狙う銀行襲撃の貴重な基礎情報だから、僕としては映画にのめり込めないのだ。
1990年の時代設定ならこれで良い。私が勤務していた会社でも広大な地下を半分占めガラス張りの中の大型GMコンピュータは熱を出すので保冷が必要。メンテナンスに3人の社員がシフトをひいて掛かりきりだった。ところが現代ではポータブルの小型PCでも当時のIBMやGMの大型機汎用機の数百倍の演算が可能だ。時代設定は曖昧にしているが、交信にスマホが絶えず出て来るのを見ると舞台は現代の大阪と見て良いだろう。つまり大型コンピュータのメンテナンスで得た基本情報を基に銀行襲撃の青図を描くだけでシラケルのだ。
端から否定しては映画を見ても面白く無いから、この際大型コンピュータに目を瞑って緊迫した金の延べ棒500キロ(25億円強)を、心に闇を持つ6人の男たちが奪取する作戦の展開を見詰めよう。大阪に本店を置くメガバンクその地下には金塊が240億円以上も眠っている。
20年振りに故郷大阪に戻って来た幸田弘之(妻夫木聡)は友人でトラック運転手の北川浩二(浅野忠信)に会う。過激派や犯罪者たちの調達屋をしていた幸田に北川は済む部屋と取敢えずの仕事を斡旋する。そして金塊強奪計画を持ちかける。北川はメンバーを集める。同じマンションに住む野田は別れた妻の慰謝料を含め多額の借金を背負っている。大型コンピュータのメンテナンスで銀行の内部を知悉しているのが強み。変電所や金庫爆破のベテランが必要と「北」から追われている元スパイのチョウ・リョファン(チャンミン)をリクルートする。モモとニックネームで呼ばれる韓国グループ東方神起の一員のチャンミンはキムタクの若い頃にそっくりのイケメン。妻夫木や浅野と交わす片言の日本語が魅力的だ。しかし絶えず公安と北の2重スパイ末永(鶴見辰吾)に狙われている。もう一人声をかけるのは引退して公園の清掃係の斎藤順三ことジイちゃん(西田敏行)で銀行のエレベーター操作の大ベテラン。更に北川の弟春樹(溝端淳平)が計画を知りメンバーに加えざるを得ない。6人が揃ったが計画は必ずしも順調に滑り出したとは言えない。先ず大量のダイナマイトを盗み出す。高速道路に仕掛けをして爆発物運送トラックを間道に誘い込む。過激派の山岸(田口トモロウ)がこのニュースを知り幸田に付き纏う。末長は公安と組んでモモのアパートを襲う。ミナミの賭場で春樹と揉めていたヤクザの復讐など、銀行に忍びこむ前にこえ無ければならない難関が山ほどある。
そしていよいよ金塊強奪の実行の日がやって来た。
激しい強奪作戦の中で戦士が総て生き残るのが普通だが、ここではバタバタと倒れて行く。胸を打つのは謎を秘めたジイちゃんこと斎藤順三の正体。聖書に挟まれた一枚の写真を見た時、幸田は一瞬で自分の出自を悟り感動と悲嘆に包まれる。
井筒和幸監督はベテランの味を発揮してソツなくスリリングなストーリーを展開させる。妻夫木とチャンミンは上手い。二人のコンビが映画を引っ張る。浅野は意外と軽くキー・パーソンだが魅力が無い。
11月3日より丸の内ピカデリー他全国で公開される。
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