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ノンフィクション作家、佐野真一の「あんぽん 孫正義伝」（小学館：2012年1月刊）は孫正義の日本名、「安本」の中学時代の綽名だ。1990年9月日本に帰化した孫はそれまでの日本名、安本を捨てて韓国姓の「孫」に変えたのだ。
自分でもあとがきで自慢するように、「本書で明らかにされた事実はどんな孫正義伝にも書かれていない。これらの事実は孫自身も半分以上は知らなかったはずである。朝鮮半島から強制的に日本に連れて来られた孫家と李家三代の歴史。朝鮮人と差別を受けながら佐賀県鳥栖駅前の豚の糞と尿にまみれる挑戦部落から這い上がり世界的企業家に成り上がった孫正義を客観的に見据えて400頁になんなんとする半生記は見事な仕上がりだ。
驚くのは正義の父親三憲のことだ。密造酒作り、パチンコ屋、金融業などアウトローの生業を営みホラと嘘で固めた人生を送っている男から正義はバイタリティを受け継ぎ一番影響を受けている。母親玉子は呆れ返って別居中で三憲は愛人と暮らしている。玉子の弟、武雄はヤクザだった。母方のルーツは両班の家系なのだが、たけし主演の映画「血と骨」を地で行く波乱万丈ヴァイオレントな家族だ。過去にはとかくの噂が流れ孫の人格も問題となる中「日本人であること」を主張し東北大震災の被災者に100億円の義捐金を寄付し、更にポケットマネーを出して「自然エネルギー財団」を設立した孫正義を尊敬せざるを得ない。
キューバの映画でも珍しいのにゾンビ映画と聞いて驚く。地元で制作すればカストロのOKを貰わなければならないが、成る程ゾンビたちを「反体制派！」などと罵倒し現政権を支持する姿勢は維持している。政治や経済的背景がゾンビ映画に取り入れられたのを初めて見た。しかしこれは酷い素人映画だ。
人生の大半をキューバで何もせずにブラブラ過ごしたファン（アレクシス・ディアス・デ・ビジェガス）は40歳にもなる。頭は良いが最小限の努力で楽に暮らせる方法を絶えず考えている。ハバナは理想的な場所と考えており、キューバを脱出する積りはない。ファンと一緒にいる42歳の親友ラサロ（ホルヘ・モリナ）もファンと同様の怠け者。ファンが唯一気にかけるのは19歳の娘のカミーラ（アンドレア・デューロ）。ファンを嫌って別居した母親とスペインに住んでいるが父親を訪ねてハバナに滞在中。ラサロの自慢は父親に似ず美男の20歳の息子、カリフォルニア（アンドロス・ペルゴリーア）。マリファナ中毒だが父親より頭脳明晰。米国で一旗上げたいと考えている。
ある日突如として町の人々が凶暴になり互いに襲い掛かる。ファンは新たな革命がおこったのだと考える。国営メディアもアメリカより資金を提供された反体制キューバ人が起こした暴動と報じる。だがファンたちは暴動をおこした人々は普通の人間でなく殺しても殺しても生き返って来ることを知る。吸血鬼でも悪霊でもなくゾンビだったのだ。一度でも噛まれた者は同じように凶暴になり他人を襲い始める。息の根を止めるには脳に致命的な傷を負わせることしかない。監督・脚本のアレハンドロ・ブルゲスは言う。キューバはこの50年間アメリカとの戦いに備えて来た。それがゾンビだったらどう対処するだろうか描きたかったと。またキューバ人は問題が起きたら３つの方法を取ると言う。１）金儲けの手段にする２）慣れる迄待ってそのままやり過ごす３）海に出てキューバを脱出する。
ファンは金儲けの手段にしようとした。「愛する人、殺します。ファン殺人代行社」と。ファンたちの業務はゾンビを排除し人々を彼らの魔手から守ることだった。しかし血に飢えたゾンビたちは大増殖して手に負えない。自動車を改良し水陸両用車に改良しカミーラやカルフォルニアやラサロの3人を乗せて海中へジャンプし、キューバを離れる。一人残ったファンはヒロイックに大群衆のゾンビに立ち向かう。
コメディタッチだが笑えない。身体障害者をゾンビに食べさせている間に車椅子をかっぱらって酒瓶を大量に運ぶとか、海岸の堤防に死体を積み上げてその上をスピードを上げて改良車をジャンプさせるなど残酷なだけで面白くも無い。ＣＧのＶＦＸ全盛の時代に稚拙な一昔前の特殊効果。ボロボロの脚本、下手な演出。キューバ映画はもっと質が高かった筈だ。
今秋新宿武蔵野館でレイトショウ公開。
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