昨日、彼と食事したレストランで
私は息が止まりそうになった。
「お姉ちゃんがいる!」
あまりに突然のことで彼に伝えることすらできなかった。
どうして?ここにいる?
頭の中がフリーズして何も考えられなくなり、冷静でいられなくなった。
大学の教員で全国で講演活動している姉だから、ここにいても不思議はない。
でも冷静になってよく見てみると・・・姉ではなかった。
世界にいるそっくりさん3人の中のひとりと思われるその人は、ある政治家の妻だった。
たくさんの人と握手し会話し、写真を撮って笑顔で対応しているその人は、見れば見るほど姉に似ていた。
服装の雰囲気から髪型、立ち居振る舞いまで。
ややしばらくして冷静になった私は彼に言った。
「お姉ちゃんかと思った」
以前ネットで姉を見てる彼、少しは覚えているのか笑っていた。
そのレストランに姉を連れてきたことがあった。
講演のついでに立ち寄った姉は疲れていたのか情緒不安定で、私のことばに強く反応し、周囲もはばからずに号泣し激怒して帰っていった。
ちょうどその頃姉は45歳くらいだっただろうか。
社会的地位も名誉もなく、ただ子育てに追われて生きる妹と、
博士号を手にし、子どもを持たずひたすらブラッシュアップすることを求め、サメのように泳ぎ続ける姉。
表面的には対極的な生き方だ。
姉はなんでもできた。美しくあまりにも頭がよく性格も良く、運動も出来た。
ピアノも才能があるといわれ、絵も素晴らしく、大学時代は駅伝選手として国際大会にエントリーしたこともあった。
長女としてのプレッシャー、優秀な者の責任の中で姉は生きてきたんだろう。
姉から見ると私はあまりに自由で、自由に産み、自由に実家から離れ、自由に愛して生きている。
そんな生き方が、産まない選択をした当時45歳の姉を刺激したのかもしれない。
その後帰路の車中の姉から詫びのメールが入った。
「私はずっと子供のころから、あなたがうらやましかった」
みじめな出来の悪い妹だった私は少なからず驚いたけれど、姉のように生きたいとは全く思わない私のことばが姉を傷つけたのかも知れない。
きっとどこでも羨望の的で、賞賛される姉。
私だけは冷静だ。
そのことがあって以降、なんとなく姉とも疎遠になってしまった。
あのレストランで、彼とともに、姉の生霊のような人に出会ったのは、偶然ではないのかも知れない。