東川篤哉の「謎解きはディナーのあとで」(小学館刊)が映画になると言うので1と2を読んでみた。東京の国立署。世界的なコンツェルン「宝生グループ」の一人娘で新人美人刑事の宝生麗子が次々と難解な事件にぶつかり悩む。30代前半の麗子の執事兼運転手で黒服に身を包んだ影山が現場を見ずに麗子語る事件のあらましを聞いただけで推理し解決する。ミステリーと言っても短編なのでチープなトリックや早吞込みや見間違いだらけを正すだけ。それを影山が執事の立場ながら麗子の勘違いや早とちりを見抜き、得意げに謎解きをする前に一言毒舌を吐く。
「お嬢様の目は節穴でございますか?」「「こんなことがお分かりにならないとはお嬢様はアホでございますか?」「お嬢様はプロでいらっしゃいますか?正直ズブの素人よりレベルが低くていらっしゃいます」「失礼ながらお嬢様、やはりしばらくの間、引っ込んでいてくださいますか」 麗子は影山の毒舌・暴言に苛立ち怒りまくるが、影山がいなければ事件は解決出来ないから憤懣やるかたない。
登場人物は富豪の両親を持ち友人たちも皆セレブ。コンビを組む上司は風祭警部32歳独身で麗子をいつもデートに誘うが断られる。「風祭モータース」創業者の御曹司でお金持ちを見せびらかす。麗子に言わせれば宝生グループなら風祭モータース規模の会社を10社も買収出来ると。
愛車シルバーメタリックのジャガーを乗り回して事件現場に駆け付ける。昔のTV番組「バークに任せろ」ベントレーに乗ったバーク刑事の真似か?彼も以前はプロ野球選手を目指しており、高校野球では有名な存在だったようだ。しかし推理能力は麗子にも劣るが上司で威張ることは一人前。登場人物も事件の舞台も何れも上流階級か富豪。豪壮な屋敷やマンションで殺人事件が起きる。
昨年暮れにフジテレビで放映された嵐の櫻井翔の影山と北川景子の麗子が主演のテレビドラマ「謎解きはディナーのあとで」の映画化になる。 毒舌執事・影山を櫻井翔、財閥令嬢の新人刑事・宝生麗子を北川景子がそのまま映画でも演じる。来春公開予定だ。
香港ノワール・フェスとして8月11日より9月6日まで新宿武蔵野館で公開される3作品、「強奪のトライアングル」「やがて哀しき復讐者」とこの「コンシエンス」。製作年数も監督も役者も違うが、香港ノワールはかなりのレベルに達している。3作品のうちこの映画が一番見応えがある。
ダンテ・ラムは「ビースト・ストーカー」や「密告・者」など刑事ものが得意の監督。
湾岸警察を例に挙げるまでもなく本署のお偉いさんと所轄で現場を這いずりまわる刑事との葛藤は古今東西何処にもあるものだ。
主人公マン警部(レオン・ライ)は2か月前に市街電車(トラム)に乗っていた妊娠中の妻を殺され、執拗に犯人を追っている。新たに発生した娼婦殺しの現場で本部のエリート警部ケイ(リッチー・レン)と出会う。警察学校出身で同じ龍年生まれの40歳。同年の誼で何となく気が合い仲間意識が芽生える。ケイは順調に出世コースを歩んでいたが3年前に突如上とイザコザがあり、本署で現場を担当している。マンは昇格試験も受けない。生きがいは悪を滅ぼすことで、その操作方法はやや荒っぽく、クレイムがあちこちから出て調査部から目を付けられる存在。
娼婦殺人事件を追うマンのチーム、チョン(リウ・カイチー)と女刑事メイ(ミシェル・イエ)は数日前に起こった地下鉄での警官の銃強奪事件と結び付きがあることを知る。いつも登山帽を被っている謎の男が娼婦殺人の犯人の可能性がある。その男が首領で兵器密売の大きな取引を中華レストランで行われることを探りだす。待ち伏せするが、警察内部に密告者がいて、密売グループは踏み込んだ警官隊を待ち構え激しい銃撃戦が行われ、手榴弾が爆発し多数の死傷者が出る。
マンは事件現場に必ずケイが現れることを知り、ケイが怪しいと麻薬捜査官であったケイの過去を調べると驚くべきことが分かる。
本署と所轄が仲良くなる訳が無く、黒幕ケイは途轍もない犯罪を計画中だった。
クライマックスは自動車修理工場でマンとケイの死闘。必死の逃亡を図るケイはガレージにガスを撒き火をつける。そんな修羅場に犯人たちに拉致され人質になっている妊婦を見つけて保護しようとするマン。ケイが銃で襲いかかり、逃亡する危険を冒しながら羊水が漏れ生まれ始めた赤ん坊の出産にかかり切りになるマンの姿に驚くが、腹を刺され赤ん坊と一緒に殺された臨月の妻のイメージと重なった妊婦を身の危険を顧みず出産を手伝うマン。「オギャー」の鳴き声がこんな凄絶なアクションシーンに安堵をもたらす。「人間誰でも心に闇を抱えている。それを俺の場合は火龍が救いだしてくれた」と生まれ年「龍」がコンシエンス(良心)だったと最後に告白している。
見応えのある香港ノワール・刑事物。ダンテ・ラム監督は得意のジャンルで充分に腕を奮ってB級アクションながら観客が堪能できる作品に仕上げている。
8月11日より9月6日より他の2作品と併行して新宿武蔵野館で公開される。
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