牧太郎の大きな声では言えないが…:続・自信を持とう!ニッポン
毎日新聞 2012年10月09日 東京夕刊
昨今「日本は大国中国に押され気味」と嘆いている向きがある。これは大いなる勘違いだ。
中国は歴史的に尊敬される国ではあるが、今の中国には「無理」がありすぎる。
例えば「時差」である。この国は東端と西端では約5000キロの距離があるのに時差がない。(非公式に新疆ウイグル自治区では「北京時間マイナス2時間」が表示されているが)北京の時刻が全てなのだ。真っ暗でも朝、真っ昼間のようでも夜……なんて場所が随所にある。
中国と比較的近い面積を持つオーストラリアには東海岸と西海岸で2時間の時差。アメリカでは東海岸と西海岸の間に3時間も時差がある。
一党支配の国だから、そんな「無理」が通るのだろう。
“一党支配の無理”の典型が、1979年に始まった「一人っ子政策」である。当時、中国は爆発的に増える人口を賄うために食料が不足することが大問題だった。
そこで、出産、受胎に計画原理を導入し、幾何級数的な人口の増加に法規制を加え、子供は戸籍上、夫婦1組に対し1人しか持てないことにした。
兄弟姉妹がいなくなった。親兄弟のために苦労して働く姿は消えた。
“家”を大事にする文化だから、人々は「家を継ぐ男の子を産む工夫」をする。30年以上たった今、女性の割合が減って、男どもは「結婚難」に苦しむ。
ひそかに産んだ子供は「黒孩子(ヘイハイズ)」と呼ばれ、国民として認められないから、学校教育や医療などの行政サービスを受けることができない。そればかりではない。一人っ子政策に違反すると罰金を払うことになるから、高額所得者は罰金と引き換えに、第2子以降も産んでいる。
野蛮な「命の格差」が生まれた。自由のない、不平等な格差社会。
中国の人々は今「一党支配」の限界を感じている。
中国の指導者が恐れているのは「共産党一党支配の崩壊」である。だから「外敵」を作り、領土問題で“強い国家”を演出する。
(若干の「政治の劣化」はあるが)日本は「自由」と「平等」のバランスを上手に実現させる国家である。
自信を持とう! 「良い中国」を学び「悪い中国」を笑い飛ばせば良いじゃないか。(専門編集委員)