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マフィアとの癒着や数々のスキャンダルにまみれたイタリアのジョリオ・アンドレティ元首相をモデルにした『イル・ディーヴォ』のパオロ・ソレンティーノ監督。2008年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したが、その年の審査委員長のショーン・ペンを主演にして奇妙な人間ドラマを作りあげた。6月30日より公開され2週間以上も経っても満員の盛況のこの映画を昨日（16日）ヒューマントラスト有楽町で見た。
映画の冒頭にガサツな唇に真っ赤な口紅、皺の寄った目尻に濃いアイシャドウ。カメラが引くとショーン・ペンが顔にかかった長い髪の毛を口をすぼめてプッと吹く。デイビッド・ボウイを思わせる元ロック歌手のメイクアップだ。全身黒ずくめのジーンズにジャケットにブーツは真っ白の宮殿のような豪邸に対照的でヨロヨロと歩く姿はそれだけで可笑しい。
引退したロックのスーパースター・シャイアン（ショーン・ペン）は、アイルランドの首都ダブリンで消防士の妻（フランシス・マクドーマンド）とともに豪壮な大邸宅に住み平和な毎日を過ごしていた。付き合いがあるのは、近所のロック少女メアリー（イヴ・ヒューソン）や下手なロックを路上演奏するピース・オブ・シットのヴォ―カルなどごく少数の年下の友人だった。そんなシャイアンの元にある日、故郷アメリカＮＹから1980年以来30年も会っていない父親が危篤との報せが届く。飛行機嫌いのシャイアンは、豪華船でＮＹへ戻ったが、時間がかかり当然のことながら死に目には間に合わない。
シャイアンのホームタウンはイーストリバーを渡ったウィリアムスバーグに違いない。ユダヤ教正統派の人たちが住む街だ。頭髪や髭を伸ばしカッパの皿を黒くしたようなヤムカを被り黒の衣服を付けた男たちが溢れている。成る程信心深くは無いがシャイアンの黒一色の出で立ちに通じる。アウシュビッツの強制収容所で親族を総て抹殺されただ一人生き残ったシャイアンの父が、当時ナチスＳＳ（親衛隊）の一員だった男を仇敵として生涯かけて探していたことを知る。シャイアンは忽然として父に代わってその男を探し出そうとする。ナチハンターとして1500人を探し当て処罰をしたモルデカイ・ミドラ―（ジャッド・ハーシュ）に相談する。父親の友人だったミドラ―はあんな小物は放っておけと忠告する。父親はＳＳのアメリカ人妻の家まで突き止めていた。。。。
大きな黒いピックアップトラックに乗って（自動車運転免許書は持っていないだろう）アメリカ横断の長い旅が始まる。イタリア人監督のアメリカ風景の描写は気が付かない欧州とは異なる大陸の美しさをとらえている。ミシガンで訪ねあてたＳＳの老いた妻は10年前に死んだと言う。信じないシャイアンは息子の消息を聞くが香港在住でアメリカには居ない。ようやくＳＳの孫娘でニューメキシコに住むシングル・マザーのレイチェル（ケリー・コンドン）に行きあたる。このレイチェルとシャイアンの間にロマンスの息吹が芽生える。だが「僕は妻帯者だ」とお爺ちゃんはユタ州ハンツビルにいるとの情報を得るとピックアップトラックはニューメキシコを離れる。
ストーリーはナチ狩りとアクションぽいが、ボーイ風ロックスターの追跡劇は迫力が無い。そんなアクションは万とあるからソレンティノ監督はナチ狩りを通じて風変わりなカリスマ・ロックスターの生き様を描こうとしている。「シザーズハンヅ」のジョニー・デップのように化粧して黒づくめのビザールな風体のシャイアンが追跡中にドンドン変わって行くディテールを描く。ノロノロした動きに喋り方、退屈で詰らない人生も、収容所でどのように父を苛めたかピーター・スミスと改名して隠れていたＳＳを見つけてその真相を告白させる。大きな拳銃を用意していたので頭をぶち抜くと思いきや、100歳近い老人を素っ裸にして雪の中を走らせる。父の受けた罰は小便を漏らす程の「恥辱」であり、裸でヨタヨタと走らせる「恥辱」は簡単に頭をぶち抜く死よりも重い。
自分を嫌っていると思い,家出したシャイアンは30年後にナチ残党を退治して父子の絆を確認する。
シャイアンは変わる。飛行機で帰路につきダブリンを歩くシャイアンは黒ずくめの出で立ちや化粧をやめ、いつものショーン・ペンの素顔に戻っている。こんな風変わりのドラマはペンの卓抜な演技があるから2時間のドラマは持つものの、ペン以外なら寝てしまうだろう。メリー役のイブはＵ２ボノの娘。
音楽のデイビッド・バーンがシャイアンの黒に対して真っ白な上下の衣装でステージ一杯に主題歌を歌う。
ヒューマントラスト有楽町で公開中。
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