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楕円球コラム 「スポーツジャーナル」

Vol.114 「言語道断」投稿日時:2012/09/12(水) 10:56rss.gif

 悲しい話である。
「コラム、読みました?」
 9月8日(土)。トップイーストの釜石シーウェイブス×ヤクルトの試合後、ロッカールームの前だった。釜石SWのウイング、早稲田OBの菅野朋幸くんが声をかけてきた。
 あごから、汗が流れ落ちている。試合は勝った。でも顔がひどく曇っている。
「あのコラムです。ワセダクラブのコラムですよ。ほんとうですかね。ほんとうだとしたら、ひどい話しですよね」
 もちろん、あのコラムは読んでいた。ワセダクラブの「楕円球コラム」のひとつ、木村俊太さんが書かれたコラムである。
 夏合宿。早稲田ラグビー部の選手が、対戦相手の帝京大選手を「五流大学!」「クロンボ!」とヤジったという。伝聞で、言葉の断片だけを切り取るのは危険ではある。前後のやりとり、何か伏線があったかもしれない。
 でも事実とすれば、ひどい話だ。これは個人の資質の問題か、あるいはラグビー部のカルチャーの問題か。
 もし自分が現場にいたら、殴りはしないだろうが、ヤジを飛ばした部員をどやしつけただろう。昔のラグビー部には、そんなバカはいなかった。そんな暴言を許すような空気はなかった。なぜ周りの選手は注意しなかったのか。なぜOBは黙っていたのか。
 そこが寂しい。いったいぜんたい早稲田ラグビーのモラルはどうなってしまったのだろう。品格とまでは言わない。部員としてのディシプリン(規律)の問題である。
 早稲田ラグビー部に入れば、大西鐡之祐先生(故人)が著した『闘争の倫理』を一度は読んでほしい。ラグビーという競技は相手がいなければ試合はできないのだ。試合の敵を信頼し、敬意を抱くからこそ、全人格をかけて倒しにいくのである。
 木村さんのコラムには、試合後、帝京大のキャプテンが早稲田ベンチにあいさつにいったら、早稲田のコーチが「あいさつなどいらない」と追い払ったともある。
 ほんとうか。何かの間違いじゃないか。現場にいなかった筆者としては、誤解であることを祈るしかない。本来なら上井草に飛んで行って、事の真相を確かめるべきなのだろうが、今月いっぱいは海外である。もしも事実なら…。言語道断である。
 ラグビー云々ではなく、もはや人としての基本を失っている。だいたい相手に対してのレスペクトなど、改めて人に教えてもらうようなことではない。日々の練習で自身の極限に挑むことで、相手の努力も知り、自然と尊敬の念が芽生えてくるものだろう。
「相手をレスペクトするのは当たり前のことです」。1年半前。東日本大震災を体験した菅野くんはつぶやいた。
「震災で、いっそうラグビーができる幸せを感じました。ふつうの生活ができる喜びを感じました。周りの人々をレスペクトする。ラグビーでいうところの“ワン・フォア・オール”です。みんなのため、です。僕らは、みんなのおかげで生かされているのです」
 そうなのだ。ラグビー部員は「感謝」を忘れてはならない。相手に対する感謝、家族、チームメイトに対する感謝、ファン、ラグビー関係者、大学関係者に対する感謝。感謝という土壌があってこそ、峻厳たる勝負に挑むことができるのである。
 倫理を難しく考える必要はない。行為が正しいかどうか。フェアかどうか。大西先生はよく、こう言った。
「きれいか、きたないか、ということだ」
 きれいかきたないか。それがわかる人になってほしい。わからなければ、ラグビーをやめてしまえ。

***
(以下14日追加)

 コラムアップ後、早大ラグビー部関係者から丁重なメールをもらった。ラグビー部としての問題の事実確認と対応である。
 趣旨は3点。①「五流大学」との発言については、試合直後、発言した部員が帝京大の岩出雅之監督に謝罪。後藤禎和監督ほかコーチ、選手は反省し、クラブの意識の改善、再発防止に努める。②「クロンボ」発言については、事実を確認できず。③試合後、早大コーチが帝京大キャプテンを追い払ったことは断じて、なかった。つまり事実誤認だった。
 おそらく後藤監督は弁解などを潔しとせず、自身らの行動と今季の試合(覇権奪回)で示すつもりだろうが、ここはラグビー部の言い分を記録しておくことは今後のために必要と判断した。言った、言わない、はともかく、③については、ラグビー部関係者の説明を信じたい。OBとして、正直、ホッとした。
 いずれにしろ、早大ラグビー部はなにかと、世の注目を集める。ここは全員が襟を正し、「ワセダラグビー」の継承者としての緊張と自覚を持ち、健全なるクラブの建設にまい進してもらうしかなかろう。


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