マウスには2万数千の遺伝子があるそうなのですが、山中教授が理化学研究所の林崎良英先生の作っているマウスのいろいろな組織や細胞で発現する遺伝子のデータベースを利用して、しらみつぶしに調べて4年かけて24個までリストアップしたそうです。山中教授が考えたのは分化した細胞を多能性にする因子は、細胞で多能性を維持している因子とかなり重なっているのではないかということで、そういう因子(遺伝子)を探したそうです。山中教授は大体100個ぐらいはそういう因子があるだろうという予測をしていたそうですが、とりあえず24個でやってみようと。それで駄目なら次の24個でと言う具合に考えていたそうですが、最初の24個の中に、すべての必要な因子が含まれていたそうです。最初の24個で作った細胞のコロニー(塊)がネズミのES細胞(こちらは受精卵を利用)のコロニーの形に似ていたそうです。ちなみにヒトのES細胞のコロニーは扁平なおせんべいのような形を、マウスのES細胞のコロニーはお茶椀のごはんををひっくり返したような盛り上がった形をしているそうです。コロニーの形が似ていることから、ひょっとしてiPS細胞が出来ているのではないかと考えて、論文に出ていた「ES細胞を心筋に変える方法」をそのiPS細胞候補にやってみたら拍動を始めたそうです。「iPS細胞ができた!」その瞬間が一番興奮したそうです。
次に難題が待っていました。24個の遺伝子の内、どれが必要でどれが必要でないかを決めなければいけません。たった1個の遺伝子で出来るかもしれないし、24個全部必要かもしれない。24個の順列組み合わせを考えれば天文学的数字になります。今度はしらみつぶしと言う訳にはいきません。その時、「こいつなら出来るかもしれない」と思ってまかせてあった高橋和利助教が「あんまり難しく考えないで、1個ずつ抜いてみたらどうでしょう。」と言ったそうです。
24個の遺伝子の内1個ずつ抜いた資料を24個作って、それぞれに「ES細胞を心筋に変える方法」を適用したら、24個のうち20個は拍動し、4個は拍動しなかった。4個はそれがなければできないということで、4個を入れた資料を作って適用したら、拍動したそうです。そんな風にあっと言う間に4個を特定したそうです。
「お前は頭いいな。」と山中教授は言ったそうですが、しらみつぶしが得意な山中教授とアイデアマンでそれを実際に行動に移すバイタリティのある高橋助教のコンビが生み出した世界的な大発見という訳です。
最初4個だった因子は実験条件の改善により3個でも可能になったとのことです。