家族と自分の充実した生活、生涯のためには、お金も不可欠。しかしコツコツ預金をするだけでは十分といえない時代を迎えている。そこで目を向けたいのが、よりポジティブな資産運用だ。その望ましい方法やリスクのとらえ方、大きな失敗を防ぐポイントなどを、ライフカウンセラーの紀平正幸氏がアドバイスする。
「安定」が失われた今日
求められる投資リテラシー
──いま積極的な資産運用、投資が必要なのは、なぜでしょうか。
資産運用、投資には必要です
紀平正幸●きひら・まさゆき
ライフカウンセラー
ファイナンシャル・プランナー
多摩大学大学院客員教授
個人のライフプランに関し、テレビ番組のコメンテーターを務めるほか、講演、執筆、個別相談など幅広く活躍。また病院で心理カウンセリングのボランティア活動にあたるなど、経済から心の問題まで生き方全般のサポートを行っている。
紀平 1つには「50の谷」という問題があります。50代で家計支出が最も増え、日常的なキャッシュフローがマイナスに陥り、預金残高が少なくなる状態を指した言葉です。教育費や住宅ローンがかさむ年代であることは大きな要因ですが、にもかかわらず年功で賃金が上がるような時代でなくなったことも無関係ではありません。
この「50の谷」が象徴するように、時代を表すキーワードは「安定」から「変化」へシフトしました。かつては経済成長、雇用、賃金・昇給、年金といった個人資産にかかわるものの多くが「安定」し、きちんと預金をしておけば、先々まであまり心配はいりませんでした。しかし今日、世界的な経済危機や賃金カット、リストラのような悪い「変化」がいつ起きてもおかしくありません。そのうえ社会保障も縮小する傾向です。
こうした時代を生き抜くためには、しっかりしたライフプランを立て、着々と実行することが必須となります。いつまでに、何を目的に、どれだけの額を用意する必要があるか、さまざまなライフイベントや豊かなセカンドライフについてじっくり考え、早くから準備を進めるのです。そして、家族と自分のライフプランを支える具体策となると、いま積極的な資産運用、投資がいっそう現実的になっているといえるでしょう。
──「投資は怖い」という声も多く聞かれますが、それは誤解でしょうか。
紀平 投資にまつわる失敗談には、価格変動の大きい商品を短期運用し、結果的に元本を大きく減らしてしまった、というケースが少なくないと思います。目先の利回りだけを追っていたのでしょう。つまりライフプランを立てて実行しようという肝心な発想が抜け落ちた投資ですね。そんな経緯を知らずに結果のみを伝え聞いて、漠然と「投資は怖い」と思い込んでいる方々もいるのではないでしょうか。
いずれにしても、投資リテラシーが低いことが元凶です。これは日本人全体におよそ共通する課題で、初めにお話しした「安定」の時代が長く、投資の必要に迫られなかったことも影響しています。
そもそも「預金は買い時の商品」「投資は売り時の商品」という根本的な違いがあります。預金は、事前に各商品の利率を比べて選んで、あとは預けるだけ。利息はほぼ確実に付いてきます。対して投資は原則的に、売り時を自分で見極めないといけません。安く買って高い時に売れたらベストですが、元本を守るため早めに売るほうが賢明なこともあります。ただし、いろいろな判断にはリテラシーが必要で、それは経験の賜物です。となると何事も同じですが、投資もより早く始めるに越したことはないのです。