2010年8月19日(木)

高額な商品を売れ

数字ベタでもわかる「ドラマ版」会計学入門【4】

PRESIDENT 2009年9月14日号

経営コンサルタント 竹内謙礼/日本中央会計事務所代表取締役 青木寿幸 構成=斉藤栄一郎 撮影=市来朋久 撮影協力=モナムール清風堂(東京都府中市)

「その考え方が、そもそも常識ハズレでオカシイんだよ」

「そうですかねぇ……私は強盗をするほうが、非常識でオカシイような気がするんですが」

「確かに強盗のほうが……じゃねぇよ! 今は、そんな話をしているんじゃねぇ! 俺は、おまえの経営者としての感覚がオカシイと言っているんだ! 『銀座の賃料が高すぎて、クラブが1年で撤退』っていう話を、よく耳にするだろ」

「いえ、私はクラブには行かないですから、そんな話は聞きません。どちらかといえば、秋葉原のメイド喫茶のほうが、主戦場といえます」

「おまえの主戦場がどこだろうが、知ったこっちゃねぇよ! 今は賃料の話をしているんだ!」

「す、すみません!」

「銀座から撤退する店は、賃料の高さが本当の理由ではなく、『店のサービスも、女の子の質も一流ではないから、賃料に見合うだけの料金設定にできなくて、貢献利益が稼げなかった』っていうことだよ」

「そうか! 銀座の賃料が高いのは、その地名だけで、高所得者が集客できて、貢献利益が大きな商品でも買っていくってことなんですね。まぁ、田舎だったら、年金暮らしの低所得者ばっかりだから、安いクッキーを売るべきってことになるのかな」

「しかも、問題は賃料だけじゃない。おまえの店、銀座だから人件費も高いだろ?」

「そうなんです!」

飯島は、当を得たことを強盗に言われたので、叫ぶように話し始めた。

「とにかく、銀座は人件費が高いんですよ。田舎なら、時給700円だったのに、こっちでは、時給1500円もするんですよ。でも、そのわりには接客業がわかっている社員が、ぜんぜん集まらなくて、危機感もまったくないんです! だから、ここは思い切って、アルバイトには全員辞めてもらって、接客のプロを正社員で雇おうかって、考えていたところなんです。給料が高い社員なら、販売力もすごいはずです」

「ホントに、バカだな」

「……なんか、言いました?」

「いや、なんでもない」

男は目線を落として、1回咳払いをすると、少し声を上ずらせながら話を続けた。

「人件費も賃料と同じなんだ。貢献利益が大きい高額な商品を売ることができるからこそ、給料が高い優秀な社員を雇うことができるんだ。給料が高い優秀な社員を雇えば、接客をうまくやって、売上がばんばん上がると思ったら、大間違いってことだ」

「そういうもんですかね?」

「じゃ、もし給料が高い社員を雇うだけで売上が上がるなら、上場会社は売上や利益が下がっても、社員をリストラしないはずだろ。その優秀な社員がいろいろ考えて、売上を勝手に上げて、危機を救ってくれるんだから。でも、現実は違う。上場会社は、貢献利益が大きな商品を売れるからこそ、優秀な社員を雇い、一等地のビルにオフィスを構えることができる。まぁ、それが、貢献利益を大きくし続けることには、つながるんだけどな」

「じゃあ、私のお菓子屋の場合は、どうなるんですかね?」

「貢献利益が大きな高額な商品を売る力がない、おまえの店には、給料が高い優秀な社員は必要ないってこと」

「でもさっき、ギフト商品の販売と新商品の開発で、貢献利益をたくさん稼げるってことに、なったじゃないですか」

「それは長い目で見た場合の解決策だよ。お客さんに商品が浸透するには、時間がかかる。今、会社に残っているお金を計算しても、あと半年はもたないだろ?」

男の言う話は、もっともだった。半年どころか、来月の店の運転資金すら、持ちこたえられるかどうかの状況である。

「悪いことは言わない。強盗の俺が言うのもなんだが……この銀座の店は撤退して、もっと賃料の安いところに引っ越せ。そうすれば、このビジネスモデルに見合った賃料と人件費で、再びお店をうまく回すことができるはずだ」

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