2012年10月5日(金)

子供への住宅資金援助で共倒れ危機 
-「年収300万父さん」は、なぜ豊かなのか【3】

一生心配ない「貯蓄体質」のつくり方とは

PRESIDENT 2010年7月5日号

家計の見直し相談センター 藤川 太 構成=伊藤博之 撮影=平地 勲、南雲一男
一見、華やかそうなアッパー・ミドルの生活であるが、内情は火の車というのが実態だ。実はいま私たちが真に学ぶべき生活設計の知恵は、ロウアー・ミドルの生活のなかにある。

最後に若年ロウアーの子供世代と、すでに退職金をたんまりと手にしたうえに、年金生活をエンジョイしているアッパー(高所得者層)の親世代が、揃って没落していきやすい盲点について触れておく。

いまの子供世代は、かつてのバブル景気を経験していない。超難関の就職戦線を潜り抜けて「ホッ」としたのも束の間、年収はいつまでたっても200万、300万円と低く抑えられたまま。上を見てもポストは大量採用されたバブル入社組で満席状態であり、自分が入り込む隙間は見つかりそうにない。

そこで先行きに対する厳しい見方が芽生え、日常生活は現実的かつ堅実なものになっていく。だからアフターファイブにお金を使ってまで1杯やることに価値を見出せない。また、買っても渋滞している土日しか使えず、維持費ばかりが飛んでいく自動車にも、はなから関心が持てないでいる。実際「免許を取ろうとも思わない」という若者が増えている。

そんな若手ロウアーの楽しみとして静かなブームとなっているのが何と「貯蓄」なのだ。毎月2万、3万円ずつでもコツコツ貯める。次第に預金通帳を開いて、数字が増えるのを確認することに快感を覚えていく。そうこうしているうちに、友達と預金通帳を見せ合い、「こんなに貯まったんだ」「ヘェー、すごいな」と会話を楽しんでいる自分に気つく。

とはいえ、それも貯蓄額が100万、200万円くらいまでの話。結婚をして、通帳の金額が400万、500万円と増えるのにしたがって、彼らは「頭金も貯まったことだし、そろそろマンションでも買おうか」と考え始める。無理をせず、自分たちで用意できる頭金と月々の収入を考え、身の丈に合った物件を購入するのなら何ら問題はない。数百万円で買える中古公団だってある。

しかし、ここで“悪魔のささやき”が彼らの耳に入ってくる。「せっかくマンションを買うのなら、退職金も残っているので援助する。それを頭金の足しにして、都心の広いところに住んだらどうだ」と親から声がかかるのだ。一見、ありがたい話ではあるが、これが後に大きな災いをもたらす。

いくら頭金の額を増やしても、購入金額そのものが大きくなれば、月々の返済額は多少なりとも膨らむ。それに地価の高い高額物件なら、固定資産税や都市計画税がアップする。そこに毎月の管理費もかさんでいく。また部屋数が増えれば、光熱費だってばかにならない。そうなると、子供の家計が破綻するリスクは跳ね上がる。もし緊急事態に陥っても、親は救いの手を差し伸べられるのか。

2000万円の退職金を手にしていたとしても、退職記念の海外旅行で100万円、住宅をバリアフリー化するためのリフォームで500万円、それに車を買い替えて400万円と使っていたら、残りは半分の1000万円。それに2人いる子供のマンション購入におのおの300万円援助したら、手元に残っているのはわずか400万円である。「まさか」と思ってはいけない。これは実際の話に基づいたシミュレーションなのだ。

図5に見るように、もととも老後の生活のお金に強い不安を持っていたはず。年金で足らない分を毎月貯蓄から5万円ずつ崩していくのにしても、10年間で600万円だ。年金の支給が始まる65歳時点での女性の平均余命は23年。それを考えたら1380万円の蓄えが必要になる計算である。一時、大金が懐に入ったからといって、それに目がくらんで散財したり、子供を援助する余裕など初めからないのだ。もちろん、子供が緊急事態で苦しんでいても黙っているしかなく、後は親子で共倒れという悲惨な結末を待つばかりとなる。

それゆえ子供世代は、自分の身の丈以上の物件を選ばないことはもちろんのこと、そのまま賃貸物件に住み続けるという選択肢を検討することも重要だ。これから日本の人口は減り続けていく。その結果、賃貸市場の需給関係が緩くなって、家賃相場はダウントレンドに入るからである。また契約の際の条件も緩和され、高齢になったからといってNGというようなことはなくなり、いつまでも安心して住んでいられるようにもなる。

一方、親世代は虎の子の退職金を使うのではなく、増やすことを考える。日本航空の破綻で同社OBの企業年金が減額されたように、あてにしていた年金が満額もらえる保証はどこにもないのだ。

そこで勧めたい投資方法が、日本国内、欧米などの先進国、そして中国やブラジルなど経済成長著しい新興国の3つに分散投資していくこと。どこか1つが落ち込んでも、ほかの2つでカバーすることでリスクの低減ができる。とはいえ、情報入手の手間などを考えると、個別の株式に投資をしていくのは難しい。そこで各地域・国の株式の指標に連動して基準価格が変動する投資信託やETF(上場投資信託)を活用するのがベストだ。

現在「PIIGS」と呼ばれる、ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインの財政危機に瀕したユーロ諸国の動向が危惧されている。しかし翻ってみれば、一昔前まで経済大国として栄耀栄華を誇ってきた日本も、いまや大幅な財政赤字を抱え込んでいるではないか。没落するときのスピードは想像以上に速い。いまから家計を見直して必要な対策を打ち始めても、決して遅くはないのだ。

※すべて雑誌掲載当時

家計の見直し相談センター 藤川太 
1968年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。自動車メーカー勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。『サラリーマンは2度破産する』『貯まる!資産3倍手帳』など著書多数。

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