NAVIGATION
放送内容カレンダー
バックナンバー

放送内容

オフレコ

2012.10.04郵政民営化の影

今月1日、朝。郵便局の窓口会社と、集配業務の会社を統合した新会社「日本郵便」が発足しました。組織を一本化して効率の悪さを解消し、サービスを向上させる狙いがあるといいます。

郵政民営化が実現してから丸5年。日本郵政グループによる調査では、利用者の満足度は年々上昇しており、昨年はおよそ75パーセントに達しました。

およそ130年間、国営で続いてきた郵政事業の民営化は、小泉政権が改革の本丸として推し進め、その是非が争点となった総選挙でも圧勝しました。民営化から丸5年。郵便局で働く人たちの職場環境も以前に比べて大きく変化しています。

かつては、手紙を早く正確に届けることだけに集中できた配達員も、いまは厳しい営業ノルマを課せられている職場が多くあるといいます。その営業の対象となっているのが、郵便局で扱っている年賀はがきや切手シート、季節ごとの贈答品。郵便局にとって重要な収入源です。

高柳さん(仮名)
「昨年ですと、年賀はがきは正社員が8000枚。期間雇用社員は5000枚の目標が課せられてました。10月31日までに予約がゼロだと『どうなっているんだ』と言われたり、目標達成してないものについては反省の文書を出せと」

関西のある郵便局で働く高柳さん(仮名)。民営化後、年々高くなっていくノルマに戸惑いを感じているといいます。ある郵便局の局内では、掲示板にノルマ達成表が張り出され、どの部署、どの従業員がノルマをこなしていないか一目瞭然となっています。また、毎月の配達ミスの個人別件数の一覧表も張り出されているといいます。

高柳さん
「やっぱり嫌ですよね、見せしめやし。過去に記念切手とかは自爆したことありますけどね、どうしても売れなくてね」

自爆。それは、ノルマを達成するために、郵便の現場で働く人たちがはがきや切手、食料品などの各種商品を必要のない分まで大量に買い込むことです。日本郵便はそうした行為を厳しく戒めていますが、実際には水面下で広く行われています。

高柳さん
「上司は『お客さんにすすめるためにいっぺん自分で購入して食べてみたらどうか』と。暗に『買えよ』ということ」

日本郵政グループで働く人のおよそ半数は非正規雇用の人たちです。その一人、郵便配達員として働く山本さん、38歳。半年ごとに契約が更新される社員です。山本さんの身におととし、ある出来事が起こりました。

山本さん
「僕がちょっと寝坊して20分ほど始業時間に遅刻したんです。申し訳ないですと謝って、その日は仕事させてもらったんですけど・・・」

遅刻をした山本さんに対して、会社側は非正規社員への人事評価の基準に照らし、時給をおよそ200円減額。1回の遅刻で、20万円あまりの月収のうち3万数千円を失うことになりました。

山本さん
「朝昼晩と食べていたのが、一食抜くような形になって」

減らされた分は月収のおよそ14パーセントにあたるといいます。労働基準法は制裁として減給処分をする場合、賃金の10パーセントを超えてはいけないと定めていますが、日本郵便側は「適正な人事評価の結果だ」として問題はないという立場です。

こうした厳しいノルマ管理や、ミスへの制裁は同業他社でも行われているのでしょうか。労働現場の実情に詳しい専門家はいいます。

専門家
「同業他社でも一般的ではないと思います。人間性を無視した形で個々に競争させていくという考え方は、それほどとっていない」

厳しさを増す営業ノルマの背景には、本業である郵便事業の不振があります。電子メールの普及や同業他社の攻勢の中で、郵便物の取り扱い件数は10年弱で4分の3にまで減少。そのため、商品販売に力を入れ、赤字体質から脱け出そうとしているのです。

高柳さん
「民営化になってより働いたものが報われる、やればやるほど給料が上がるんだ、という人事制度も入れられたんですけど、よけい職場が荒廃してますしね。まったくうそですよ」

日本郵便は次のように説明しています。

日本郵便
「販売目標については、合理的な目標となるようにしており、ノルマという言葉は使っていない。郵便事業の状況は厳しいが、さらなる生産性の向上と収益の増加に努め、健全な経営を維持したい」

コスト削減とサービスの維持。二つの難題のはざまで郵便局は今も揺れ動いています。