英国は、かつて海賊の本拠地として勇名を轟かせた時代がある。ただし、日本語でひとくくりに「海賊」と言っては誤解してしまう。と言うのは、英国の海賊には二種類あって、日本語の意味に近いものは「パイレーツ」と呼ばれて、沿岸の村々を襲って略奪行為をするやから。ディズニーの「カリブの海賊」のイメージに近い。一方「プライベーティア」と呼ばれるグループがあり、これは英国固有のもので歴史上重要な役割を果たした。
ちょっと堅い話になるが、エリザベスT世の時代(1558〜1603)には、植民地獲得競争に先行するスペインとポルトガルを英国が追う立場にあった。正面切って闘いを挑んでも国力に差が有り過ぎて勝てる見込みは無し。そこで考え付いたのが「海賊」の活用。有力な海賊に対して国家が任務と援助を与え、主にスペイン・ポルトガル領植民地からの財宝運搬船を襲わせた。これが国家お墨付きの海賊=「プライベーティア」(私掠船)である。
当時の英国には「海軍」を養うほどの財力もなく、逆に「海賊」を使って略奪した財宝を山分けすれば、国家も海賊もウハウハ!窮余の一策としては、効果抜群であったらしい。実際に相当な成功を収め、英国の台所事情を改善することが出来た。
でも奪われる方のスペインとポルトガルは、たまったものではない。とうとう腹に据えかねたスペインが天下の「無敵艦隊」を出動させた。迎え撃つのはキャプテン・ドレイクを初めとする「プライベーティア艦隊」。折りからの悪天候と海賊特有の素早い操船が効を奏し、スペインの誇り=無敵艦隊を破ってしまったと言うから凄い。その後の世界制覇へ道を開いた歴史的大勝利だっただけに、彼等は国家の英雄となったのは当然で、サーの称号も獲得した。
そんな訳で、今でも英国人は海賊の末裔であることに誇りを持ち、「海賊魂」を持ち続け困難にチャレンジすることを「男子の本懐」としている。その気風がエリート教育に色濃く反映しているから、軍人ばかりでなく保険・証券などのリスクの多いビジネスで活躍する人材が多い。そして彼等は「ネクタイを締めた海賊達」と呼ばれている。
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プリマス港の丘に立つ戦勝記念碑とドレイク像 |
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