プロペラを守る 機関銃の同調発射装置
プロペラを撃たない不思議
機首に付いている武装、正確にはプロペラ回転半径内を射線が通過する全ての機銃は、自らプロペラを破壊しないよう射撃をプロペラの回転に合わせる連動装置が組み込まれています。簡単に言えばプロペラが機銃の射線を塞いでいる間、機銃の発射を抑える装置です。
この装置は、プロペラの回転軸(エンジン出力軸)に取り付けられたカムによって機銃側にプロペラの回転情報を伝え、機銃の撃鉄(撃針)、又はその動作を止める安全装置であるシアを制御しました。シアはコック時(装填操作)に撃鉄が動かないようにしている部品で、このシアが開放されない限り引金を引いている間でも撃鉄が落ちる事はありません。
プロペラの回転情報は機械的に伝達されるのが普通で、日本でも油圧やピアノ線による同調機構を使用していましたが、川崎飛行機では三式戦闘機「飛燕」の機首に20mm機関砲を装備する為に従来よりも信頼性の高い装置が必要とされ、ピアノ線から伝達される衝撃を連動器で電気信号に変換してシアへ送る方式を開発しました。変換された電気信号は、機関砲を制御する為に別の制御器を通じて再び元の情報に戻され、弾丸の装填と安全装置を操りました。
タイムラグを考慮して複雑な射撃計算も行われ、射撃開始時に連動器をシアよりも0,04秒早く作動させ射撃停止時には逆にシアを0,17秒早く作動させていました。また空戦の最中にGがかかれば撃鉄の動作も鈍るため、飛燕では最大6Gの荷重を計算に含めていたようです。
そこまでして機首武装を推し進めた理由は･･･
1.射線が機体軸付近にあるので弾道収束の必要がなく、高い命中率が得られる
2.重量物である機銃が機体の中心にあると、ロール等の機動性への影響が少ない
3.主翼に機銃を置くよりも強度や防御面で有利(主翼よりも発射時の反動に耐えやすい)
等の利点によるものです。特に命中率の向上が期待されますが、プロペラによって射撃が制限されるので、主翼装備の同じ武装に比べると発射弾数は2〜3割少なくなります。
電気信号式の同調システムは当事ドイツでも使われていて、通常の撃針による点火ではなく、独自の電気発火機構を持っていたMG151/20 マウザー20mm機関砲は、同調を電気信号(電線)で得ることにより、エンジンから離れた位置でも確実に同調できる特徴を持っていました。Fw190系の機体で、プロペラからは遠い主翼付け根に20mm機関砲を装備できたのは、これのおかげといわれます。
しかし同調装置も万能ではなく、いくら機銃の発射を制御してもクローズボルト式(常に弾薬が装填された状態)の機銃ではコックオフ(銃本体が過熱して装填と同時に暴発してしまい、勝手に弾丸が発射される)を防げませんでした。
また発射動作のタイムラグが大きいオープンボルト式(引金が引かれて初めて弾薬が装填される)の機銃も同調装置が使用できず、オープンボルト式であるイスパノ系･ブローニング系の機銃を使用したイギリスやアメリカでは、これらの武装は全て主翼装備となっています。日本海軍の99式機関砲(エリコン)も同じ理由で主翼装備に限定されました。
同調装備として20mm以上の機関砲を搭載したのは、量産機の中では日本の飛燕やソ連のラボーチキン、ドイツのフォッケウルフ系と一部の機体に限られ、多くの戦闘機で同調機銃は13mmまでに留まっています。
これは7.7〜13mmならば万が一プロペラに当たっても穴が開くだけで済みますが、炸薬が仕込まれた20mm以上の機関砲弾となるとプロペラごと機首を吹き飛ばしかねない威力があり、即墜落の危険があった為です。また機関砲を機首に搭載する事自体も、口径が大きくなるほど重量や空間の制約から困難でした。もっとも条件さえ許せば、20mm×3のラボーチキンLa7や23mm×4(！)のLa9(ただし弾数は一門75発と少ない)のような例もありました。
〜一次大戦中に発明された同調〜
航空機が実用化されて間もない頃でも、命中精度や強度上(パイロットが再装填可能かも)の問題から機首に機銃を装備しようと試みられましたが、同調の問題は中々解決できず、震電のような推進式(機体後方にプロペラがある)に始まり、プロペラの前方に銃座を設置した戦闘機まで造られました。
中にはプロペラとコックピット正面を防弾仕様にして、プロペラに当たる弾丸は弾き飛ばしながら強引に撃つ、という荒業まで行われましたが上手くいかず(弾丸が強力になると結局穴が開いたり、兆弾がエンジンを破壊する等)、その後にオランダ人アンソニー・フォッカーが歯車と円盤を組み合わせた同調装置を発明した事で問題は解決しました。
これを装備したフォッカーE戦闘機は、空の支配権を一挙に奪う大活躍を見せ、他国がこれに倣うまで圧倒的な強さを発揮しています。
同調とは関係なく弾を発射できる装備法として、液冷エンジンの中空出力軸を利用する事があります。モーターカノンと呼ばれる方式の武装で、エンジン内部(主に液例V型エンジンの隙間)に機関砲を組み入れる事でプロペラを気にする事なく出力軸から発射できました。30〜37mmの大口径砲も装備でき、中には50mm以上の砲を搭載した試作機も存在しました。
※星型エンジンは中心の出力軸上でクランクが回転しているので、モーターカノンは装備できない。
ただしこれはエンジンが武装を許容する構造であるかにかかっており、給排気経路やギヤボックス、過給器等の補機配置から、液冷エンジンでもイギリスのマーリンやソ連のミクーリン(IL2やMig3が装備したエンジン)は、機関砲を組み込む事ができませんでした。
また機構的にモーターカノンの配置が可能だったとしても、装備された機関砲との相性問題も有り、エンジンからの振動によって動作不良を起こす事も多く、空間的な余裕が小さいので装弾数も多く取れないといった問題も残っていました。意外な点では、モーターカノンの装備にこだわるとエンジン側の性能が制限されるというケースもありました(過給機の強化等でエンジンが複雑になってくると空きも無くなる)。
軸内発射で有名なエンジンはドイツのダイムラーベンツ＆ユモや、ソ連のクリモフなどで、モーターカノン装備の先駆けとなったイスパノスイザ系から発展したエンジンは、比較的モーターカノンと相性が良かったそうです。
エンジン構造に影響されない装備方法としては、P-39のような変則的な技法もあり、これは二重反転機構に似た歯車を使用して出力軸の位置をずらし、砲身を置くスペースを作ったものでした。
同調の謎も、箱を開けてみれば原理は簡単、ですがそれを実現するまでの道のりは決して平坦ではなかったでしょう。どんな小さな事にでも、それを開発した人々の熱意と工夫が詰まっています。
FA(ファイターエース)でメインになっている中級以下のアリーナでは、故障は起きない設定になっており、機体が分解しそうな程のGをかけたり、どんなに機体がダメージを負っても、同調率100％！なので安心して撃ってください。いや、故障ONでも同調不全の再現はないと思いますけどね･･･(＾＾；
※被弾による機銃本体の破壊は判定されるので、それはどうしようもありません。
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