職人の技物語
5月中旬から6月いっぱいにかけて、日本海沖を腹に子を抱えたごまふぐが回遊する。
そのころ、ふぐの卵巣の糠漬けをつくる製造業者は忙しいときを迎える。
敦賀沖、能登沖、佐渡沖と、日本海近海のごまふぐの水揚げ状況に応じて、ふぐを仕入れる。
競り落とされたふぐは、朝8時過ぎには加工場に届く。
トロ箱に入ったふぐを見れば、青い地肌にダークグレーの細かい粒の紋様が散らばる。
その姿から、ごまふぐ、またはさめふぐと呼ばれている。
ふぐの皮は固い。まず、慎重に皮の一部を切り、少しずつ開いていく。
ごまふぐは卵巣のほかに肝臓にも毒があり、身が毒のある部分に触れないように
卵巣や肝臓を傷つけないよう裁いていかなければならない。
開いてみないとメスかオスかがわからないうえに
白子か真子(卵巣)を抱えているのは全体の3割程度、
そのうちのおよそ3分の2が卵巣、3分の1が白子だという。
腹の中から、ごっそりと内臓を取り出し、
卵巣か白子と、肝臓などをていねいに選りわけていく。
命に関わる作業であり、黙々と作業が続けられていく。
取り出された卵巣は、毒があるとわかっていても
食欲をそそられるほどにぷりぷりと艶やかにふくらんでいる。