2000年に入ってから大型倒産が相次いでいる。第一ホテル、ライフ、そごう、千代田生命など、大型倒産のない月はないほどだ。加えて倒産回避のために銀行によるゼネコンへの債権放棄、さらにはM&A(合併・買収)、大型提携などを加えれば、ほぼ連日のようにマスコミをにぎわしている。産業・企業の再編成が急激な勢いで進行しているのである。
こうした産業・企業の再編成は、バブル経済の崩壊以降、とりわけ97年後半以降急速に進んでいる。グローバリゼーション、IT(情報技術)に代表される急激な技術革新、バブルの後遺症とデフレ、需要構造の変化などが構造的な要因となっている。いくつかの構造的な転換が並行的かつ複合的に進展していることが、産業・企業再編の背景にあるといえるだろう。
戦後最悪の倒産
まず、倒産の状況を見てみよう。帝国データバンクによると、2000年度上半期に倒産した企業数は9473件だった。負債総額は10兆9137億5900万円と半期ベースで戦後最悪を記録した。ちなみにそれまでの最高は97年度下半期である。この時は山一証券、北海道拓殖銀行など大型倒産が相次ぎ、金融システム不安が増幅し“日本発の世界恐慌か”といわれた時期である。その時よりも負債額が多く、初めて10兆円を突破したのである。
負債額が増加したのは、大型倒産が相次いだためである。5月には東証1部上場で信販業のライフが倒産している。負債総額は9663億円で当時としては戦後4番目であった。7月には同じく東証1部上場で大手百貨店のそごうが倒産した。そごうの場合は、グループ企業37社で、単純合計で3兆円弱となる。負債総額1000億円を超えた大型倒産は21件で、半期ベースとしてはこれまた戦後最悪である。
第1図を見ると分かるが、97年度後半に山があり、98年から99年にかけて倒産件数、負債総額とも減少する。しかし、その後再び増加に転じたのである。
これは銀行が企業への貸し渋りを強める中で、98年10月から20兆円の枠で実施された信用保証協会の中小企業金融安定化特別保障制度によって、倒産寸前の企業が延命することができたからである。しかし、一時的な延命策で乗り切れた企業は少なく、急場をしのいだものの、その後、倒産する企業が多かったため、再び増加に転じたのである。別な言い方をすれば98、99年に減少した分が、2000年に積み上がったといえよう。
相次ぐ大型倒産
2000年度上期のもうひとつの特徴は建設業の倒産が急増していることである。建設業の倒産件数は3029件で前期比16.5%増、前年同期比31.8%増と他の産業に比べ突出した増加を示している。
第1表は今年の大型倒産だが、この中にゼネコンは入っていない。ゼネコンの倒産は回避されているからである。倒産しているのは中堅以下である。特に地方の建設業者が厳しさを増しているようだ。
第1表 2000年の大型倒産 |
|
企業名 |
業種 |
負債額 |
2月 |
長崎屋 |
スーパー |
3039億円 |
2月 |
エルカクエイ |
ディベロッパー |
1351億円 |
4月 |
日貿信 |
金融業 |
2899億円 |
4月 |
東洋製鋼 |
鉄鋼業 |
59億円 |
5月 |
ライフ |
信販業 |
9663億円 |
5月 |
第一ホテル |
ホテル業 |
1152億円 |
7月 |
そごう |
百貨店 |
6891億円 |
7月 |
ナガサキヤ |
菓子製造業 |
107億円 |
9月 |
川崎電気 |
電子部品製造業 |
253億円 |
9月 |
藤井 |
衣服卸業 |
108億円 |
10月 |
千代田生命保険 |
生命保険 |
2兆9366億円 |
10月 |
インターリース |
リース業 |
8000億円 |
10月 |
協和生命保険 |
生命保険 |
4兆5000億円 |
|
2000年9月、熊谷組が再建計画を発表したが、住友銀行を初め15の金融機関による総額4500億円の債権放棄が含まれている。債権放棄額としては過去最高である。これまでに大手ゼネコンで銀行が債権放棄を行ったところは5社(長谷川工務店、ハザマ、青木建設、佐藤工業、熊谷組)で、その債権放棄総額は約1兆3500億円に上る。「エコノミスト」、「週刊ダイヤモンド」、「週刊東洋経済」などが繰り返し「ゼネコン危機!」の特集を行っているが、とにかく債権放棄とリストラだけで延命しているのである。
急ピッチで進む合併・統合
M&Aも急ピッチで進んでいる。97年に持ち株会社設立が可能になったことで、共同の持ち株会社を設立し、その下にこれまでの企業を傘下におくという「統合」方式をとるケースも増えている。第2表は99年と2000年のM&A、統合、資本参加の一覧である。
第2表 99年と2000年の主な合併・統合・資本提携
1999年
1月 三井信託と中央信託が合併(2000年春)
3月 JTが米ナビスコの海外たばこ事業を買収
3月 仏ルノーが日産と資本提携
8月 興銀、第一勧銀、富士銀が統合(2001年4月)
10月 住友、さくら銀が合併(2002年4月、その後2001年4月に繰り上げ)
10月 三井海上、日本火災、興亜火災が統合(2001年までに)
12月 米GMが富士重と資本提携
2000年
2月 住友海上と三井海上が合併(2001年10月)
2月 東燃とゼネ石が合併(7月)
3月 日本製紙と大昭和製紙が経営統合
3月 三和銀と東海、あさひ銀が統合(2001年4月)
4月 新日本証券と和光証券が合併し新光証券でスタート
4月 東京三菱と三菱信託が統合(2001年4月)
5月 NTTドコモがオランダのKPNモバイルと資本提携
6月 長銀、米リップルウッドに譲渡し新生銀行としてスタート
6月 三和銀とリクルートがネット専門銀行を設立−その後破綻
6月 あさひ銀、三行統合から離脱、三和銀と東海は東洋信託と合併
10月 DDI、KDD、IDOが合併しKDDIでスタート
10月 住友化学と三井化学が経営統合(2001年秋)
11月 ウェルファイドと三菱東京製薬が合併(2001年11月)
11月 安田火災、日産火災、大成火災が経営統合(2002年4月) |
この一覧から言えることは、産業全般にわたってM&Aなどが進行していることである。ほとんどないのは建設、電機、機械などわずかで、逆に多いのが銀行、生損保など金融である。金融再編が猛烈な勢いで進行していることが分かるだろう。
産業・企業の再編は、倒産・破綻だけでなく、M&A、統合という形で進行する。第3表は各業界を再編パターンごとに分類したものである。どの業界の企業もリストラによる縮小や人員削減は行っているため、リストラ策はあえて記述しなかった。
第3表 産業別の再編のパターン
産業 |
再編のパターン |
外資の注目度 |
鉄・化学など素材産業 |
合併・統合 |
△ |
エレクトロニクス・機械 |
提携 |
× |
自動車 |
提携+資本参加 |
◎ |
建設業 |
倒産+救済 |
× |
流通 |
倒産と他社による救済 |
○ |
通信 |
合併・統合 |
◎ |
金融 |
破綻+合併・統合 |
◎ |
※リストラによる縮小や人員削減は前提とした
鉄・化学など素材産業は、すでに成熟化しており、寡占化も進んでいる。その中での再編に限定されている。鉄鋼ではNKKと川崎製鉄の合併が読売新聞で報道されたが、両社とも否定している。半導体部門を売却(新日鉄、NKK、神戸製鋼)など部門再編に限られている。化学は住友化学と三井化学が経営統合が明らかになった程度である。
エレクトロニクス、機械業界は、日本のリーディング産業ということもあって、国際競争力もある。そのため提携(特にIT分野)が活発だ。日立製作所、東芝は情報・インターネット関連に軸足を移しており、国内外で積極的に提携している。外資がエレ・機械業界に着目しないのは、日本企業が高い競争力を有しているためである。
逆に自動車は、外資の資本参加が活発化している。これは一部メーカーの業績悪化もあるが、欧米のフォード、GM、メルセデス・クライスラー、ルノーなどがアジア戦略を強めていること、環境対応型の次世代車の共同開発などが迫られており、世界的な規模での再編の一環といえよう。
IT社会到来ということで、将来性も期待されている情報・通信は合併と統合が進んでいる。当然欧米企業の進出も盛んで、技術革新に絡んで、次をにらんだ再編となっている。
再編が進まないゼネコン
こうした業界と対照的なのが、多額の有利子負債、不良債権で悩んでいる建設、流通、金融である。これら3業種は“バブル3業種”といわれている。建設は地方の中堅業者などの倒産が増加しているが、大手ゼネコンの再編はまったく進んでいない。前述したように銀行による債権放棄という形での救済だけである。熊谷組救済に際して業界トップの鹿島建設との合併が伝えられたが、鹿島が拒否したという。どのゼネコンも似たり寄ったりで、合併効果が期待できないということもあるが、他社を救済する余裕もないためである。
流通もダイエーに見られるように不採算店を閉鎖することによる縮小合理化が急速に進行している。倒産したそごうには西武百貨店が救済に入ったが、こうした倒産−救済というケースは増えるだろう。さらに外資の進出が予想されており、業界再編は一気に進む可能性がある。
金融は昨年の銀行再編から生損保に焦点が移ってきた。ビッグバンによる自由化の進展もあり、破綻と合併・統合が同時進行している。特に住友銀行とさくら銀行の合併は、住友と三井という旧財閥の枠を超えた合併ということで大きな意味を持っている。生損保の再編に波及するのは当然としても、住友化学と三井化学の統合という形で、他の業界にも波及している。
以上の動きを、やや乱暴だが二つに分けると、バブルの清算で後ろ向きな再編を強いられているのが、金融、流通、建設ということになる。これに対して、国際競争力強化に向けた再編が進行しているのが素材産業、自動車、情報・通信といえるだろう。
こうした産業再編の背景および要因は何なのか。一言でいえば日本経済が構造的な転換局面にあることである。この構造的な問題は、一過性のものではなく歴史的背景を色濃く持ったものである。その意味では、構造的な問題を解決すること抜きには、日本経済の再生はないといっても良いだろう。
構造的な問題の第1は、グローバリゼーションへの対応である。冷戦の終結以降、特に世界経済は一体化を強めてきた。80年代までに多国籍企業として成長してきた先進国の大企業は、文字通り世界企業あるいは超国籍企業となっている。加えてロシア、中国など旧社会主義圏の国々が世界市場に参入したことによって、市場が拡大しただけでなく、豊富な労働力が参入したのである。世界的な供給過剰や価格下落(デフレ)は、このことを抜きには語ることができないだろう。
グローバリゼーションのもうひとつの流れは、短期資金の移動による投機的なマネーの動きである。97年東アジアの通貨危機、ロシア、南米へと波及したことは、記憶に新しいが現在のアメリカ経済がすでにバブル経済化している(崩壊の瀬戸際にあるが)し、原油の高騰も利ざやを稼ぐマネーの投機的な動きといえる。
世界的な余剰資金を背景に、アメリカにその資金を吸収することで、アメリカ経済は長期的な好景気を維持してきた。アメリカの金融機関が90年代に再生したのは、こうしたマネー経済化によってといってよい。この流れを世界に広げるために、日本やヨーロッパ、アジアに自由化を促したのである。
第2点は、ITに代表される急激な技術革新である。ITを情報化と読み替えるならば、70年代、80年代もかなりのスピードで進展していた。しかし、その速度と社会への打撃の度合いが、90年代は極めて大きかっただけでなく、アメリカに見られるように社会の主軸となってきた。
とりわけインターネットの普及は、産業のみならず社会構造の変革まで促すものとなりつつある。コストの削減、生産性の向上だけでなく、消費者との直接取引などが進むからである。さらに高速度のネットワークの形成やIT人材の育成など国の政策の関与が、これまでと異なる形で問われてきている。インターネットは、国境というバリアは超えて発達しているが、インフラ面などでは逆に国家間の競争となっているのである。これが2点目である。
第3点は、バブル経済の後遺症とその清算である。80年代後半からのバブル経済は、資産とりわけ土地と株の急騰という形で進んだ。バブル経済の崩壊は、逆に資産デフレとなったため、含み資産によって維持していた企業経営は破綻せざるを得なかった。ゼネコン、不動産業界もさることながら、地価の上昇を前提に店舗を拡大したそごうやダイエーなど流通業界も有利子負債で行き詰まりを見せた。
こうした業界に多額の融資を行ってきた金融機関は、不良債権処理に追われたが、未だにバブルの清算を終結できていない。倒産の増加がさらなる不良債権となって金融機関の経営を圧迫しているからである。早い段階で思い切った公的資金の投入を行い、合わせて金融機関トップの経営責任を明確化しておけば、金融システム不安は軽微で済んだであろう。解決先送りが、さらに問題を深刻化させているのである。
第4は、国の財政悪化である。バブル経済の崩壊以降、景気対策として100兆円を超える予算を計上して、てこ入れを図ってきた。しかし、景気は一向に回復していない。そればかりか、政府と地方自治体の長期債務残高が2000年度末で645兆円とGDPの1・3倍に達する。まさに破綻寸前なのだが、国債の大量発行が長期金利の上昇を呼び起こすのではないかという恐れを拡大させている。
また、今後は政府の財政は縮小に向かわざるを得ないことから、景気対策の柱であった公共事業も減少せざるを得ない。先行きの不安感は消費を減退させるし、公共事業の減少は建設業の存亡に直接打撃を与えるだろう。2000年度の補正予算まで無理やり進めてきた景気対策のつけが、今後一気に吹き出ることは間違いないだろう。
問われるグローバリゼーションへの対応
以下4点について詳述したい。現在の産業・企業の再編の背景となっているのは、世界経済が急速に一体化し国民経済のバリアが低くなっていることである。自動車業界のようにもはや一国の企業の再編ということはあり得なくなった業界もある。70年代までは、自由化による外資の進出に備え、大企業同士の合併や提携が行われたが、今や世界的な規模での産業再編の一環としてしか起こり得ないのである。
グローバリゼーションの推進力は、多国籍企業化した大企業である。60年代からアメリカの大企業が、70年代から日欧の大企業が積極的に海外に進出、多国籍企業として展開してきた。こうした多国籍企業が、より自由な活動を主張し、先進各国のみならず発展途上国の自由化、規制緩和を求めたのである。
この政策を最も強く進めたのはアメリカであった。日本はエレクトロニクス、自動車、機械などアメリカからの圧力に対応できる産業とこれまでの規制や保護をほとんど変えずにきた産業とに分岐した。自由化要求に対しても、時間稼ぎをして少しでも遅らせるという場当たり的な対応に終始した。80年代とりわけ85年のプラザ合意以降の急激な円高で、日本として戦略的な対応が問われていたはずである。
日本のGNP(名目)は1960年には約15兆円でアメリカの12分の1に過ぎなかった。70年で73兆円、80年で240兆円と拡大させ、その時点でアメリカに次いで世界第2位となった。現在、世界市場の13%を占めるまでになったのである。これだけの比重を占める日本の市場をいつまでも閉鎖的なままにしておくことは、できるわけがないのである。「市場のオープン化」は避けられない課題であったといえよう。すなわち「外圧」はある意味では必然性があったのである。
80年代後半からのバブルによって、日本の多くの企業は問われた課題を先送りし、株・不動産など財テクに走った。逆に言うとバブルによって先送りが可能になったのである。日本のリーディング産業であるエレクトロニクス、機械、自動車などの産業が、バブルの影響が比較的軽微だったのは、世界的な規模での競争が激しく、絶えず対応が迫られたからといえよう。
90年代のグローバリゼーションの特徴は、ヘッジファンドなどによる短期資金の流動化の活発化によって、実経済がほんろうされたことである。80年代に製造業が空洞化したアメリカは、金融とITを戦略産業とすることで経済の建て直しを図り、世界に自由化を迫ったのである。日本のビッグバンは、これに対応したものだが、リーディング産業の競争力を高めるという戦略的な視点を欠落させたままで、しかもバブルの後遺症が残っている段階で、進めたことが混乱に拍車をかけたといえよう。宮沢蔵相は99年4月18日の予算委員会で「不良債権を処理してからビッグバンを行うべきだった。順番が逆だった」と発言したが、まさに時期尚早だったのである。
再編を加速する「IT革命」
2点目の「IT革命」の進行は、グローバリゼーションとの相乗効果をもたらしている。「IT革命」の核心はインターネットである。それまで軍事技術だったインターネットがアメリカで使われるようになったのは91年。爆発的な広がりを持つようになったのは95年である。
インターネットは、アメリカが戦略的に打ち出したといわれるが、必ずしもそうとはいえない。93年にゴア上院議員(後に副大統領)が打ち出した「情報ハイウエー」構想は、閉鎖的なネットワークを前提としていた。オープンネットワークであるインターネットは、構想の内側にはなかった。ウインドウズで世界のOSの覇者となったビルゲイツは、95年にウインドウズ95を売り出したときには、「インターネットは時期尚早」と見ていたのだ。
インターネットは、こうした思惑を超えて急速に普及したが、アメリカのそれまでの情報技術の蓄積とインフラ整備によるところが大きいと言えよう。低価格の通信、いち早く教育に取り入れ人材育成にも力を入れたことなどである。
問題はインターネットの普及は、既存の産業も含めて再編の震源となっていることである。単に生産性が向上するというだけでなく、生産と物流、資材の調達、商品流通さらには金融までそのあり方を変えるほどの“力”を持っていることである。
この“力”は、どれほどのものなのか、果たして革命的なのか、革新的にとどまるのか、現時点では判断しかねるが、いずれにしても変革を促していることだけは間違いないだろう。加えて将来を見越して、企業が再編に動いている。例えば日立はIT−ネット関連にシフトするために、日本やアメリカのネット関連の有力企業やベンチャー企業と相次いで提携している。(2000年5月から10月までの6カ月間にインターネット関連だけで10件の提携を発表した)提携から資本参加、合併などに発展する可能性は十分にある。
ヨーロッパ資本によるアメリカのベンチャー企業の買収も活発化している。資金移動があまりに大きく、ユーロ安の要因となっているほどである。台湾、韓国、シンガポール、インドなどのアジア諸国も、人材育成やインフラ整備に熱心で日本を上回る水準となっている。再編は一国にとどまらず日米欧、アジア全体で渦巻いていくだろう。
続くバブル経済の後遺症
日本経済新聞によると都市銀行9行の2000年9月中間決算で計上された不良債権額の総額は1兆1000億円、当初の計画額(6850億円)の約1.6倍となった。「不良債権処理は今期で終了」と5年も6年も前から表明してきたが、依然として歯止めがかからない状態が継続していることが明らかとなった。上半期はそごうグループ、千代田生命の破綻など大型破綻があったためという。
このため都銀各行は@持ち合い株の放出、A中小企業に対する貸し渋りを強める、B徹底したリストラ−を行っている。しかし、このことが株価を押し下げ、芽生え始めた景気回復にブレーキをかける結果となっている。明らかに悪循環に陥っており、負の連鎖を断ち切るタイミングさえ見いだせないのが現状といえよう。
政府による金融機関に対する公的資金は70兆円準備され、これまでに8兆6000億円投入された。この公的資金がゼネコンに対する債権放棄につながっている。公共事業削減の中で青息吐息のゼネコンに対し目先の救出をすることで、逆に構造的な再編を先送りさせているのである。
債権放棄による経営再建もできなくなったゼネコンに対する不良債権によって、金融機関はさらに不良債権処理に追われることになる。金融システム不安になれば、再び公的資金の投入という事態もありえることである。
破綻寸前の国家財政が足かせに
97年後半から98年にかけて、バブル経済の崩壊以降二度目の不況に突入、金融システム不安と重なって日本経済は、大きな転換期を迎えた。この時政府はそれまでの「財政構造改革法」を凍結させ、金融システム不安を解消するための公的資金として70兆円、景気対策として18兆円を予算化した。財源として国債を乱発したため、今や国債の利払いと償還のための経費である国債費だけでも、歳入の26%にも達している。
それ以前の景気対策がほとんど効果がなかったにもかかわらず、公共事業を中心に巨額の税金を投入したのである。99年以降、景気回復の兆しは出てきたが、問題は国、地方自治体の財政を極端に悪化させたことである。さらに問題なのは財政の悪化によって、国民の間に将来に対する不安などから、消費よりも貯蓄に向かう傾向が強まったことである。
景気対策による波及効果で家計の所得が増加→消費が刺激されるというのが、これまでの定式であったが、景気対策による国債の増加→増税と社会保障の切り捨ての可能性→貯蓄へとなるのである。これを「反ケインズ効果」というが、こうなると政府のいう景気回復→財政再建という図式も破綻せざるを得なくなる。
財政改革は必至となってくるが、増税(消費税率のアップ)を行えば、消費を冷やすことは間違いない。歳出削減は公共投資の削減が柱にならざるを得ないので、建設業界の倒産はさらに増加するだろう。
加えて第三セクター問題が浮上してきた。全国で47件が倒産、負債総額は1030億円に達している。倒産は98年以降急増している。宮崎の大型リゾート施設である「シーガイヤ」も破綻寸前である。累積赤字1218億円(2000年3月末)、金融機関からの借入金は2639億円に達する。ここでも金融機関は債権放棄を要請されている。金融機関だけでなく、出資している地方自治体にも負担は重くのしかかっているのである。
国債の大量発行は、長期金利の上昇という新たな不安材料を内側に抱え込んでいる。貸し渋りをしている金融機関が大量に購入することで保たれているが、長期金利の上昇は企業の金利負担を増すため、超低金利でかろうじて生き延びている企業は倒産せざるを得ないだろう。
国家財政は景気対策という形で経済再生に切り札的存在だったが、今や逆に経済再生にブレーキをかける存在となったのである。
このほか、消費のあり方が大きく変わってきたことも上げられるだろう。大量生産によって価格を下げ、大量消費するという「高度成長型」の消費構造が変化してきている。生産−流通−消費という流れの中で、主導権が徐々に後者に移行しているのである。成熟社会における需要構造の変化ともいえるだろう。
流通業界はそごう、ダイエーに限らず、旧来の百貨店、スーパーの売り上げ不振は消費構造の変化と大きく関連している。住宅、自動車なども同様のことがいえる。
こうした消費構造の変化は、市民社会の深化と深くかかわっている。一つはマスから個人へという流れである。個人主義が確立されたかどうか論議があるだろうが、従来の共同体的なあり方が急速に変化し、個人単位に変わってきた。量から質への変化もある。さらに環境対応が消費選考の優先順位を上げてきている。
進まないリーディング産業の交代
日本経済の再生は、現在進行している産業・企業の再編をくぐり抜けること抜きにはあり得ないだろう。戦後の日本経済の歴史を見ると何度か産業構造の転換があったが、明らかにリーディング産業の交代が伴っていた。ところが、現在の産業・企業再編は必ずしもそう言い切れきれないところに問題がある。
80年代に日本経済を主導した自動車、機械、エレクトロニクスといった加工・組立型産業から情報産業に軸足は徐々に移行しつつある。しかし、情報産業をITと言い換え、情報機器、通信、ソフト、インターネット関連と幅広くとらえたとしても、日本経済を牽引する力には乏しい。99年の輸出における産業別の比率を見ると依然として加工・組立型の業種が圧倒的なのである。
政府や一部市場主義を唱える経済学者は、「IT革命」が起爆力となって日本経済は再生すると主張するが、アメリカなどとの競争力から見ても、そう簡単にはいかないだろう。また、悪循環に陥っている日本経済を景気対策による回復という図式もほぼ破綻したといえる。いつまでも続く金融システム不安に決着をつけること、国家財政の再建に向けて抜本的な改革を行うことがむしろ優先されるべきであろう。
|