ふしごの海のナディア


■ストーリー『時は1889年。花の都パリでは、万国博覧会が華やかに開催されていた。世界中の科学や文化の粋が集まったそのイベントに、人々は来たるべき20世紀、科学万能の時代の到来を予感し、夢見ていた…。そんな中、世界中の海で謎の巨大生物“海獣”が出没し人々を恐怖に陥れる事件が発生。その海獣によって父親が行方不明になってしまった発明好きの少年・ジャンは、万国博覧会の会場で謎の少女・ナディアに出会う。ナディアに一目ぼれしたジャンは、ひょんなことからナディアとともに冒険へと旅立つことに――。彼らを待ちうける過酷な運命とは…!?「エヴァンゲリオン」の庵野秀明が贈るSF海洋冒険ファンタジーアニメーション!』




先日、キングレコードより『ふしぎの海のナディア 完全生産限定版Blu-ray BOX』が発売された。オリジナル35ミリネガからのHDテレシネ、貞本義行描き下ろしBOXアート、豪華ブックレット封入など、満足度の高い仕様に「これを待っていた!」「画質が凄い!」と非常に好評らしい。


ふしぎの海のナディア (1)


『ふしぎの海のナディア』は1990年4月からNHK総合で放映が開始された冒険活劇アニメーション番組である。制作は『王立宇宙軍 オネアミスの翼』で驚異的なクオリティを見せ付けたガイナックス。そして監督は、『トップをねらえ!』でアニメファンの度肝を抜き、後に『新世紀エヴァンゲリオン』を大ヒットさせる天才クリエイター:庵野秀明。当時は、「単なるオタク集団」と見られていたガイナックスと、「美少女SFエロパロディロボットアニメ」しか実績のない庵野秀明が、NHKでテレビ番組を制作するなんて大丈夫なのか?と一部で不安視されたものの、いざ放映が始まるとあまりの面白さに大評判となった。


『ナディア』はそれまで濃いマニア間でしか知られていなかったガイナックスの名前を、一躍全国区にまで高めた記念碑的作品と言えるだろう。しかし同時に、制作状況の劣悪ぶりも有名で、その凄まじさは今や伝説と化しているほど。本日は、そんな『ふしぎの海のナディア』制作時の知られざる…というかファンの間では結構知られている壮絶エピソードをご紹介します。

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時は1988年、株式会社ガイナックスの経営状態は大変な危機に瀕してした。同社が初めて手掛けた大作アニメ『王立宇宙軍 オネアミスの翼』は、内容的には一定の評価を得たものの、興行的に苦戦を強いられ、巨額の赤字を出してしまったからだ。何とかこの赤字を解消しようと『トップをねらえ!』を作ったが、製作費が予算を大幅に超えてしまい、逆にますます赤字が膨らむハメに。「このままでは会社がつぶれてしまう!」と焦ったプロデューサーが、ある日大きな仕事を取って来る。なんとそれは、天下のNHKが放映する連続テレビシリーズだった。しかもゴールデンタイム!「やった!これで借金を返せるぞ!」と喜ぶスタッフたち。


しかしちょっと待てよ?ガイナックスみたいな弱小企業が、どうしてこんな凄い企画を受注できたんだ?その謎はすぐに解けた。有り得ないほど安いギャラで仕事を請けていたのである。提示された金額を検証した結果、どう考えても100%赤字になることが判明。全39話のアニメなのに、なんと26話分の予算しかなかったのだ!


当時ガイナックスの社長だった岡田斗司夫が慌ててNHKに乗り込むものの、既に契約は成立しており、結局大赤字を承知で引き受けることに。頭を抱える岡田社長。しかも、ストーリーを良く読んでみると『天空の城 ラピュタ』にそっくりじゃん!それもそのはず、『ナディア』の企画は元々、宮崎駿本人が原案作りに協力していたのだ。


時期的には『風の谷のナウシカ』が公開された後(1984年頃)で、上手くいっていれば宮崎監督が作る予定だったが、当時は企画が通らず保留に。その後、『天空の城 ラピュタ』を制作する際、このエッセンスを取り入れたと言われている。そのため、NHKから提示された企画書が『ラピュタ』に酷似していたわけだが、岡田斗司夫は「『ラピュタ』のパクリと言われそうでイヤだなあ…」と困惑したらしい。


おまけに、ガイナックスは『ナディア』に関して何の権利も主張できないのだ。まず、元請けのNHK総合ビジョンが東宝へ下請けに出し、東宝がグループ・タックというアニメ制作会社へ下請けに出し、更にそこからガイナックスへ仕事が回ってきたのである(製作費が安い理由は、それぞれの会社が中間マージンを抜いていたからだった)。


下請けの下請けの下請け、つまり曾孫請けの立場で、権利なんか主張できるわけがない。後年、ディズニーが『ナディア』にそっくりなアニメを制作した時にも、多くの人が「ガイナックスは訴えないのか?」と疑問に思っていたが、ガイナックスとしては「NHKに聞いてくれ」としか言えないのである。


さて、会社に戻った岡田社長は緊急会議を開いた。引き受けてしまったものは仕方がない。どうやってこのピンチを乗り切るか?当初、監督の予定だった貞本義行(キャラクターデザイナー)は「予算もスケジュールも無いし、おまけにこんな内容じゃできないよ!」と激怒。更に、NHK側に脚本の変更を要求したところ、「変更は一切認めない。この脚本の通りに作れ!」と言われたため、「これのどこが面白いんですかッ!」と貞本が反論。NHK側のプロデューサーと大喧嘩になり、とうとう監督を降りてしまう。


代わりの監督も見つからず途方に暮れていると、「僕がやりましょうか?」と庵野秀明が立候補した。本人曰く、「まあ行きがかり上というやつですね。僕は『トップをねらえ!』で会社に借金を作らせちゃったから、申し訳ないっていう気持ちもあったので」とのこと。こうして、庵野秀明を総監督としてどうにかこうにか『ナディア』の制作はスタートしたが、この後ガイナックスのスタッフは想像を絶する困難に直面することになる!以下次号!

「ふしぎの海のナディア 制作秘話」その2