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生活の場どこに 双葉町役場機能移転へ 避難者なお不安 「災害住宅早く建てて」

役場機能移転について話し合う村上さん(左)ら=いわき市・南台仮設住宅

 「早く生活を安定させてほしい」。双葉町の役場機能本体の移転計画を、いわき市が了承した2日、避難している町民からはいまだ不透明な「仮の町」構想の行方などへの不安が漏れた。現在、役場機能がある埼玉県加須市の避難者からは移転後の支援継続を求める声が上がった。一方、受け入れる側のいわき市は、深刻な住宅難の上に、交通渋滞などの問題が表面化している。市は役場機能の移転などを見据えた国、県の対策の充実を求めている。

■仮の町どうなる
 町役場機能本体移転に関する渡辺敬夫いわき市長の記者会見の一報を聞き、県内にいる町民からは「ようやく解決に向けて一歩進むのではないか」と歓迎する声が上がった。ただ、町民が帰還するまでの生活拠点となる「仮の町」については設置場所や形態を含め、町民や有識者らでつくる町復興まちづくり委員会が議論を進めている最中で、今後の道筋は不透明なままだ。
 双葉町から郡山市に避難している町県中地区借上げ住宅自治会の伊藤吉夫会長(70)は「行く先が分からない列車に乗せられている気持ち」とため息をついた。
 災害公営住宅を一定範囲にまとめて設置する「集中型」か、複数箇所に分ける「分散型」かも今後の課題となる。井戸川克隆町長は学校の運営や商工業者の事業再開などを考慮し、原則として集中型の設置を主張。一方、渡辺市長は分散型での設置を求めている。
 町の主張に対し、郡山市に避難する50代の男性は「町民はそれぞれの避難先で新たな生活を始めつつある。1カ所に仮の町をつくるよりも県内各地に災害公営住宅を設ければいいのではないか」と提案する。
 双葉町民が避難生活を送るいわき市の南台仮設住宅。村上良秋さん(67)は2日、市内への役場機能移転について近所の人と話し合った。「移転して便利になるのはうれしいが、自分の暮らしの安定の方が大切。移転よりも災害公営住宅を一刻も早く建ててほしい」と望んだ。
 一方、白河市の郭内仮設住宅の清水敏英自治会長(64)は県内に役場機能が移転しても行政サービスに大きな変化はないと思っている。「本当に移転する必要があるか検討すべき。仮の町構想など今後の施策を進めるにも町民の声を直接聞く姿勢が不可欠だ」と注文を付けた。

■埼玉の支援継続を
 「町民が避難生活を続ける旧騎西高をどうするのか」。双葉町が役場機能本体を置く埼玉県加須市に住む町民の1人は心配そうな表情で語った。
 旧騎西高には1日現在で186人が生活する。加須市の借り上げ住宅に避難している会社役員吉田俊秀さん(64)は町民の大半が県内にいる状況を踏まえ、「役場機能本体は県内にあるべき」と思う。ただ、「旧騎西高には高齢者が多い。引き続き町の支援は必要だ」と訴える。
 埼玉県には県外の都道府県で最も多い1149人の町民がいる。吉田さんは多くの子どもたちも埼玉県で避難を続けている実情を考え、「旧騎西高にある役場は職員を多少減らしてもぜひ残してほしい」と求めている。

■いわきは飽和状態
 双葉町の役場機能が移転すれば、いわき市が受け入れる避難者の数がさらに増える可能性があると市の関係者はみている。市内にはすでに楢葉、富岡、大熊、浪江各町の役場機能の一部が置かれ、双葉郡などから約2万3000人が避難している。これに伴い、交通渋滞や住宅難、医療機関の不足などの問題が深刻化しているのが現状だ。
 市の担当者は市民から苦情の声が上がっているとし、「町外コミュニティーの協議の場などで、国や県にあらためて支援を要望していく」と話す。
 同市は「仮の町」の設置先としても双葉郡の複数の町に候補地に挙げられている。渡辺市長は2日の記者会見で、先月27日の双葉町の役場機能移転の申し入れに触れ、「町外コミュニティーの話は出ていない」とし、役場機能移転と仮の町設置が別問題であることを強調した。

【背景】
 双葉町によると、1日現在の町民の避難状況は【表】の通り。県内避難者が3645人、県外避難者が3326人の計6971人。県外の人数には所在不明と海外在住者の計21人を含む。県内の避難先は、いわき市が最も多く1374人、次いで郡山市の709人、福島市の472人、白河市の265人の順。県外は埼玉県がトップで1149人、次いで東京都の378人、茨城県の369人、新潟県の238人などとなっている。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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