※LRSのカップリングが好きな読者の方には辛い話かもしれません、ご注意を。
「レイ、学校生活はどう?」
「特に問題はありません」
これが、少し前までのリツコとレイの会話だった。
しかし、最近はレイの返答が違っている。
「学校に行くのが楽しいです。碇君が居るから」
リツコはこのレイの言葉の変化を素直に喜んだ。
人形のようだったレイにも感情が芽生えた事。
そして、一人の女の子としてシンジに好意を抱いている。
リツコはいつレイがシンジと恋人同士になれた報告をしてくれるのか、心待ちにしていた。
「何よ、シンジのわからずや!」
「アスカが悪いんじゃないか!」
「いい加減、止めてよ2人とも……」
葛城家の食卓で、アスカとシンジは今夜も言い争っていた。
ユニゾンの訓練をした直後は、まるで姉弟のように仲が良かったのに、最近はケンカの度合いが増している。
家族関係が崩れて欲しくないミサトは頭を抱えていた。
「ふんだ、シンジなんか大っ嫌い!」
「僕も、アスカなんか居ない方が楽が出来ていいよ!」
アスカは自分の部屋に籠ってしまい、シンジは不機嫌そうに夕食の片付けをしていた。
ミサトは飲んでいるビールの味がいつもより苦く感じている。
「シンちゃん、アスカにもうちょっと優しくしてあげたらどうなの?」
「アスカが僕に意地悪するからいけないんですよ。天才少女って言うぐらいなんだから本当は掃除とか料理とかできるんでしょう? 僕を家政婦と何かと勘違いして居るんだ」
「アスカは、エヴァの訓練が忙しかったのよ……」
ミサトが少し苦言を呈しても、シンジの苛立った表情は治らなかった。
「うーん、ビールを飲みすぎるとトイレが近くなるのかしら、利尿作用ってやつ?」
夜中にミサトはそう一人言を言って起き上がって、自分の部屋からトイレに行くために廊下に出る。
すると、アスカの部屋から泣き声のようなものが聞こえてくるのが分かった。
「まさか、あのアスカが泣いているわけないわよね〜」
ミサトは気のせいだと思い、アスカの部屋の前を通り過ぎてトイレへと向かった。
しかし、ミサトが用を足して戻って来てもアスカの部屋から泣き声が聞こえ続けていた。
「アスカ、どうしたの!?」
ミサトがアスカの部屋のドアを開けると、ベッドの上でサルのぬいぐるみを抱いて泣きはらしていた。
「アタシ、明日の朝、シンジと顔を合わせるのが怖いの。だってシンジはアタシに怒っていると思うし」
「それなら何で、シンジ君に対して意地悪な事をするの?」
「シンジにかまって欲しかった。アタシはシンジの事が好きになっちゃったみたいなのよ」
「じゃあ、正直にシンジ君に告白すればいいじゃないの。何なら私が伝えてあげようか?」
ミサトがそう言うと、アスカは上目遣いで瞳に涙をためてミサトを見上げながら、首を激しく横に振りミサトのパジャマの袖をギュッとつかんで否定した。
「止めて、それだけはダメ。シンジがアタシの事を本当に嫌いだってわかったら、アタシはこの家に居られなくなる」
「でも、シンジ君に聞かないとわからないじゃないの」
「シンジは学校ではファーストと楽しそうに話すの。もしシンジがファーストの事が好きだなんてわかるなんて、それだけは嫌なのよ!」
もう、ミサトは泣きじゃくるアスカを自分の胸に抱きしめる事しかできなかった。
「そう、アスカはそんな事で悩んでいるのね」
自分専用の研究室で、ミサトから電話でその話を聞いたリツコはそうため息をついた。
電話をしている間に、用事で訪れたレイが部屋に入ってくる。
リツコは電話を切って、レイを迎え入れる。
「レイ、学校ではシンジ君と居れて楽しい?」
「はい、碇君はセカンドの事が好きだって言う事は知っています」
軽い笑顔で答えたレイの言葉に、リツコは顔面蒼白になって固まった。
「私は碇君に振りむいてもらう必要は無いんです。私が碇君を好きでいるだけで良い。だから楽しいんです」
さらにそう言ったレイの言葉に、リツコは心を打たれた。
リツコが高校生だった頃、リツコはただユイの夫であるゲンドウに憧れているだけで幸せな気持ちになれた。
それが今はゲンドウの弱みまで握って、ゲンドウを自分の所に引き寄せようとしている。
とても辛い辛い恋。
「私は碇君の側に居るだけで楽しいんです」
穏やかな微笑みを浮かべてそう言うレイの小さな頭を、リツコは大粒の涙を滝のように流しながら強く抱きしめた。