※この作品は「新世紀エヴァンゲリオン」と「英雄伝説空の軌跡」と
犬と猫さんの作品「晴れたり曇ったりシリーズ」との多重クロスです。
「はーっ、ダルいわねえ」
「おいおい。そんなだらしない姿勢でお客さんが来たらどうするんだよ」
「うっさいわね、こんなひどい雨じゃ誰も来ないわよ」
イヴはアイトの小言にふくれた顔をしながら寝ていた体を起こし、カウンターに座りなおした。
この赤い髪をツインテールに束ねたルビー色の瞳を持つ気が強そうな少女はこのレストラン、海猫亭の店長兼コック兼看板娘。
海猫亭は元々宿屋の食堂だったのだが改装して、レストランとして再スタート。まだ始まったばかりで客足もそう多くない。
よって豪雨の中わざわざ食べに来る客も居ないと言うイヴの推理は正しかった。幼馴染のアイトも外仕事ができず暇を持て余してきているのだが……。
「なーんでアイトと二人っきりなのよ。フィル君は来てくれないの?」
「あいつはドブ掃除のバイトがたくさん入って稼ぎ時みたいだな」
イヴは数年前に移民船に乗ってこの街イシュワルドにやってきた少年、フィルに一目ぼれしていた。
面食いなイヴなのだが、女の子のようなかわいい顔の少年に引かれたのだ。本人は男っぽく見られたいと思っているみたいだが。
「あーもう最低、ビショビショ」
「アスカ、早く着替えないと風邪引くよ」
「そうそう、早く脱がないと!」
「いきなりここで脱ぎ出しちゃダメだよ、エステル」
宿屋の方から騒がしい声が聞こえる。この豪雨で濡れ鼠になった旅人の四人組のようだった。
イヴの母親であり宿屋の女将であるイザベラが部屋まで案内しているのだろう。騒がしい声は遠ざかって行った。
「どうやら彼らの夕食をつくることになりそうだな」
「そのようね。面倒くさいわ」
イヴの答えにアイトはため息をつく。料理と言ってもレーベックの問屋で仕入れた料理を温め直して出すだけだろう。
自分でも料理を作れと言いたかったが、言っても無駄だろうと思った。こう言うのは本人が自覚しなければならないし。
「アイト、ぼーっとつっ立っていないで掃除でもしてよ。テーブルにほこりがたまってるじゃない」
「はあ?俺は客だぞ。何で掃除なんか」
イヴに雑巾とモップを押し付けられた。アイトは自分の家に居た方がマシだったなと思った。うるさい姉から逃れるためにここにやって来たのに。
「食事が終わってもダラダラここに居るのは客とは言わないの。時間が無いから急いでね」
「仕方ないな」
宿屋に泊る四人組がそろそろ部屋で荷物の整理などを終えて出て来るころだ。時間が無いのは本当の事だ。
アイトはテキパキと掃除をこなした。騎士団に所属するアイトにとっては掃除は朝飯前だ。掃除を終えると同時にくだんの四人組が店に入って来た。
イヴは入って来た客の中でシンジに目を付けた。
「お、かわいい男発見……でもコブつきか。あんな生意気そうな女のどこが良いんだろう」
イヴはシンジの側に寄り添っているアスカを見ていらだたしくため息をついた。こっちは一人身だって言うのに、畜生。
そんなことをイヴが思っていると、エステルが店の中に立っているアイトに声を掛けた。
「あーお腹空いた。ウェイターさん、席に案内してよ」
「えっ、俺?」
エステルに店員と勘違いされたアイトを見てイヴは吹き出しそうになる。アイトは弁明するのを諦めて四人をテーブル席に案内する。
「ふーん。さえない店ね」
「アスカ、だめだよ本当の事言っちゃ!」
アスカの嫌味とシンジのダメ押しによってイヴの短い堪忍袋の緒は速攻切れた。
「イヴの店をバカにしたわね!」
「だーっ。イヴ落ち着けって」
アイトがいきり立ったイヴの肩を抑え込んでなんとかカウンターの中に座らせようとする。シンジは自分の自爆に気づいてオロオロするだけ。ヨシュアはため息をついてへたり込んでいた。
「お腹空いたー。早く何か食べさせてよ!」
空気を全く読めない『おつにゃん』娘のエステルが大声でその場の緊張感をぶち壊しにした。アイトがメニューを片手にテーブル席に近づく。
イヴはある程度怒気を抜かれてカウンターに座り込んだ。
「わー。何から食べよっかな♪」
「えーっと何を選ぼうかな」
「シンジは全く優柔不断ね。どうせたいしたことないんだろうし、アタシと同じのを頼めばいいじゃない」
アスカの嫌味にイヴはこめかみをひくつかせていたがなんとか自制していた。
「じゃあとりあえず、アルナダそばとイシュワルド御飯、ヤイナそばを3人前ずつね♪」
「ええっ!?」
「何よそれ、シオちゃんより食べるんじゃない」
アイトとイヴはエステルの注文に驚いてしまった。友だちである女冒険者のシオもたくさん食べるが、その3倍ぐらいの量を注文したのだ。
温めるだけの料理ならまだいいが、本格的に料理するなら一人ではとてもさばききれない。
「どうぞ。お待たせしました」
アイトはたくさん料理が乗ったトレーを持ってテーブル席に次々と運搬していく。エステルの側には空の食器が山のように積まれている。
空の食器を回収するのも一苦労だった。とてもイヴ一人ではこなせない仕事だろう。
「アイトが居てくれて助かったわ」
「さすがにあれだけの量をイヴに持たせるわけにはいかないからな」
二人の和やかな雰囲気をぶち壊しにしたのはテーブル席から聞こえるアスカの嫌味だった。
「どの料理もおいしくない。よくこんなのをたくさん食べられるわね」
イヴは我慢しきれなくなって、テーブル席にツカツカと歩いて行った。
「イヴの料理に文句があるっていうの!」
「ありまくりよ!そばだって御飯だってどうせ出す時に温めただけなんでしょう?何よ庭の井戸水って!小麦粉をそのまま客に食べさせるなんてバカじゃないの?」
「イヴはバカじゃないもん!大学だって出てるんだから!」
「アタシだって大学を出ているわよ」
下らない言い争いが始まった。確かに最初にアスカが指摘した事は正しい意見なのだが逆切れしたイヴはそれ以外の点でアスカと争い始めた。
疲れた表情を見せて見守る他のメンバーにヨシュアが助け船を出した。
「何かゲームをやって決着をつければどう?」
「それはいいわね。じゃあ王様ゲーム方式で、ポーカーをやりましょう」
「ちょっと、勝手に決めるんじゃないわよ。イヴは大富豪がやりたいわ」
「ふふーん、逃げるんだ」
「受けて立つわよ!」
イヴはアスカの挑発に乗り、シンジたちを巻き込んでポーカー大会が始まった。
「ちょっと!アンタ、イカサマしたわね!なんでブタばかり続くのよ!」
「ふふーん。そんなこと知らないわ。これでスコアのトップはイヴのものね」
アスカはポーカーは大得意だったのだが、予想以上の札の悪さに悪戦苦闘したまま、健闘したが2位で終わってしまった。
アスカはとても蒼い顔をしていた。シンジが予想通りビリになってしまったら、紙に書かれたあの『王様の命令』が実行されてしまう。
シンジがポーカーにとても弱い事はよく知っている。お願い!シンジをビリにさせないで、とアスカは祈っていた。
「ついてないな。俺がビリか」
アスカの祈りが通じたのか、シンジはブービーでアイトがビリになった。アスカはほっと胸をなでおろす。
イヴが紙を開くと、『一位の人と最下位の人は早朝浜辺でラブラブデート♪』と書かれていた。
アスカが紙を開くと『ブービーの人は二位の人に何かプレゼントする』と書かれていた。
「げげっ!なんてこと書いてるのよ!」
「やったぁシンジにプレゼントしてもらえる♪」
イヴがアスカに抗議をするが、幸せいっぱいになったアスカは全然聞いちゃいない。イヴは罰ゲームのつもりで書いたのだが、喜ぶアスカを見てがっかりとした。
ちなみにヨシュアが開いた紙には『三位の人は四位の人にキスをする』と書かれていた。
翌朝。イヴとアイトは浜辺を二人で歩いていた。それを尾行する四つの影もゆっくりとついて行く。
「なんでアイトと歩かなきゃならないのよ」
「俺もこんなこと言われるなら、お前と付き合わなきゃよかったよ」
「デートをすっぽかすのが悪いんじゃない」
イヴは不機嫌そうに足元にある石を蹴りあげる。
「いきなり平手打ちで別れ話だぜ?あの時は事情があったって何度も言ってるだろうが」
「アイトがみんなに優しいんだもん」
「え?」
「イヴはアイトの優しさを一人占めしたかったの。だから用事なんてすっぽかして来てほしかった」
「ごめんよ、俺、お前がそう言う気持ちだと知らなかったから……」
アイトがイヴの肩を抱いて顔を近づけて行く……
「アイト、ストップ!」
「え?」
「遠くからのぞいている四人、出て来なさい。ご飯作ってあげないからね」
すると浜辺にエステルが姿を現した。諦めてアスカたち三人が続いて出て来る。
「えへへ、見つかっちゃった〜」
「まったく、油断も隙も無いんだから」
「ごめん。今夜も御飯つくってよ、ね?」
「……まあ今日のところは許してあげるわ」
イヴはアイトの方をチラッとみて少しだけ顔を赤くして言った。
「アンタ、これからはもう少しマシな料理を作りなさいよね。温めるだけの料理なんて、レストランの人気が出ないわよ」
「わかってるわよ。イヴにかかれば料理なんてちょろいんだから!」
「今日もウェイターの仕事が必要になりそうだな」
六人は仲良く海猫亭への道を歩いて行った……。