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【芸能・社会】

名脇役、大滝秀治さん死去 87歳、肺扁平上皮がん

2012年10月6日 紙面から

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 ひょうひょうとした独特の存在感を持ち味にテレビドラマ、映画、舞台で活躍した俳優で文化功労者、劇団民芸代表の大滝秀治(おおたき・ひでじ)さんが2日午後3時17分、肺扁平(へんぺい)上皮がんのため東京都内の自宅で死去した。87歳。東京都出身。葬儀は近親者のみで行った。「お別れの会」を22日午後2時から東京都港区南青山2の33の20、青山葬儀所で開く。喪主は妻純子(じゅんこ)さん。

 「2月に肺がんが見つかり8カ月。病気に体をむしばまれる恐怖以上に、仕事ができないことが辛そうでした」。大滝さんの家族が「大滝家一同」としてこの日発表したコメントには、最期を穏やかに過ごす大滝さんの様子がつづられていた。

 「こんなに家族とべったり過ごしたことがありませんでしたので、病気になるのも決して悪いことばかりじゃないねと申しておりました」。さらに、「あれこれ難しい本を読みあさっておりましたが、最後に手に取ったのは赤塚不二夫さんの『これでいいのだ』。まさに『これでいいのだ』と笑顔で穏やかに旅立ちました」と、ユーモラスな一面を持つ大滝さんらしいエピソードも披露された。

 大滝さんが代表を務めた劇団民芸によると、亡くなる前夜も家族と一緒に食卓を囲み、好きな酒を酌み交わしていた。2日午後に家族に見守られながら、眠るように息を引き取ったという。

 大滝さんは今年3月末に声が出にくくなり、体がふらつくなどの症状が出たため入院。出演予定だった6月の舞台「うしろ姿のしぐれてゆくか」は事前に降板し、秋以降の仕事復帰を目指していた。

 大滝さんは軍隊生活を経て1948年、民芸の前身劇団の養成所に入り、同期の奈良岡朋子(82)らと50年、民芸創立に参加。徹底した人物造形に、年齢を重ねて渋みが加わり、テレビ、映画では貴重な存在として、主に脇役で多数出演した。

 75年のNHK連続テレビ小説「水色の時」の医師役で注目を集め、北海道の駐在所勤務の警官を描いた「うちのホンカン」シリーズで主演。「特捜最前線」のベテラン刑事役でも人気を集めた。映画の出演は「黒部の太陽」「影武者」「お葬式」など。

 舞台は、所属する民芸公演が中心で、近年は奈良岡と共同で代表を務めていた。「らくだ」で09年度の文化庁芸術祭賞大賞を受賞。88年紫綬褒章受章。公開中の高倉健(81)と共演した映画「あなたへ」が遺作となった。

◆入院中もお互い手紙でやりとり

 大滝さんの遺作となった映画「あなたへ」(公開中、降旗康男監督)で、主演の高倉健(81)を感動させたのが、大滝さんの円熟の演技だった。関係者によると、高倉は撮影を振り返って「一番良かったのは、大滝さんとお芝居させていただいたことです」と話していたという。

 大滝さんは昨年11月、長崎県平戸市の漁港で3日間、ロケに参加した。高倉演じる主人公が亡き妻の骨を船から海にまき、港に帰ってくると、大滝さん演じる老いた漁師が「久しぶりに、きれいな海ば見た」と話す。

 向かい合ってその言葉を受け止めた高倉は、思わず目を潤ませ、「台本を読んだときはつまらないセリフだと思ったが、話す人が話すとこんなに変わるんだなと思った」と大滝さんの深い表現力に感服していたという。

 この日、高倉はファクスでコメントを発表。「大滝さんが今年に入り体調を崩され、入院なさっている間、お手紙のやりとりを続けておりました」と明かし、「大滝さんの最後のお仕事の相手を務めさせていただき、感謝しております」とあらためて感謝した。さらに89年の「あ・うん」など数々の共演を振り返って「今までにご一緒させていただいたいろいろな場面が思い浮かびます。本当に素晴らしい先輩でした。静かなお別れができました。心よりご冥福をお祈り申し上げます」とつづった。

◆食欲旺盛で、最期まで復帰に意欲

 大滝さんの長女・菜穂さんの夫で、演出家の山下悟さん(57)と、「劇団民芸」の劇団員・樫山文枝(71)、日色ともゑ(71)、中地美佐子(44)の4人が5日、東京・新宿の紀伊国屋サザンシアターで会見した。

 山下さんによると、大滝さんは昨年末から体調不良を訴え、今年2月27日に肺扁平(へんぺい)上皮がんが見つかった。本人の意向で切除や放射線治療は行わず、抗がん剤だけで2度の治療を行った。その後の検査で間質性肺炎が見つかり、6月末に入院。9月7日に退院後は自宅療養を続けてきた。

 食欲旺盛で、ステーキやカレー、たこやきなど食べたいものを全部食べたという。亡くなる前日の夜から呼吸が乱れはじめ、2日の午後、大きく3回ほど深く息を吸い込んで、眠るように息を引き取った。親族のみの密葬で5日午前に葬儀を終えた。

 大滝さんは自宅療養中に「芝居をやりたい」などと色紙に10枚ほどメッセージをしたためたり、出演した舞台「巨匠」「審判」の台本を枕元に置くなど、役者魂を感じさせる最期だった。

 大好きな作家・浅田次郎さんの「天切り松闇がたり」(集英社文庫)シリーズの累計100万部突破を記念し、今年8月ごろに文庫本の帯用コメントを寄稿したのが最後の仕事だったという。

 山下さんが演出を手掛けた大滝さん最後の舞台「帰還」で、大滝さんの娘役を演じた中地は「情熱の炎の固まりのような方。台本が出来上がってから何十回も読み合わせしたり、24時間お芝居のことを考えていらっしゃいました。大滝さんが身をもって教えてくださったことを私たちが続けていきたい」と涙を流しながら誓っていた。

 ◆遺作「あなたへ」の降旗康男監督「大滝さんとは『冬の華』で(高倉)健さんのお兄さん役として出ていただいてからのお付き合いでした。健さん主演の映画にはよく出ていただき、アクセントになる演技をしていただきました。今回は漁師役ということで、散骨のシーンで一度だけ船に乗って外海にまで出ていただきました。外海に出ていくお元気な姿が最後になってしまったのが残念です」

 ◆約20年前から大滝さんのものまねをしているタレント関根勤(59)「2人で伊豆を旅する番組でご一緒した際、仕事や人生の話をたくさんしていただき、本当の父親と過ごしているようでした。お話の一つ一つから伝わるプロ意識に驚かされたことは、今も忘れられない思い出です。昨年の日本アカデミー賞授賞式で、固い握手をさせていただきました。とてもうれしかったです。それがお会いする最後の機会になるとは思いませんでした」

 ◆ドラマ「塀の中の中学校」などで共演した渡辺謙(52)「言葉が出てきません。いつも全霊を込めてお芝居される姿に、刺激を受けていました。同じ現場でたくさんの時間を過ごせたことを感謝しております」

 ◆95年のNHKドラマ「藏」で共演した女優松たか子(35)「とても楽しい時間を現場で過ごさせていただいて、わずかな時間でしたが、ありがとうございましたという気持ちです」

 ◆俳優奈良岡朋子(82)「劇団に同期生として入団して以来、64年間、ともに歩み続けてきた、ただ一人の同志といえる存在でした。こよなく演劇を愛し、情熱を燃やし続けたあなたを失った今、大切な翼をもがれたような思いです。もう一度、一緒に舞台をつくりましょうと、話していたばかりなのに。無念です」

 

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