いやー、中島氏の本は個人的にドンピシャです。これも刺さりまくりました。名著ですね。
嫌うのは自然な感情
・世の中には不思議な考え方をする人が大勢いて、彼らは地上のすべての人を好きにならなければならないと思い込んでいる。あるいは、そこまで行かなくとも、誰をも嫌ってはならないと信じ込んでいる。ですから、そういう人は、自分がある人を嫌っていることを自覚すると、たいそう悩むのです。
・私の経験によりますと、こうした「嫌うこと=嫌われること」ないし「憎むこと=憎まれること」を自然に自分のうちに容認する訓練を怠ってきた人々が、大人になっても大層窮屈かつ欺瞞的な人間関係を築き上げ、それによって自分を苦しめかつ他人も苦しめるという暴力を振るうことになります。
・この国では、社会的に上位の者が下位の者を嫌うなどとは考えられない暴力であり、断じて許しておけない。下位の者は上位の者を思う存分嫌っていいが、上位の者は下位の者をけっして嫌ってはならない……。一応、表面的にはこうした逆差別がまかり通っている。しかし、というよりだからこそ、上位の者は慎重の上にも慎重な態度で嫌いを発射するのです。
・嫌いな相手をあなたは長い時間をかけて観察してきました。そこから、たいへんな分量の人間のおもしろさ、味わいをあなたは吸収できるのです。せっかく、これほどのエネルギーで嫌い抜いてきたのですから、いわば手塩にかけて「嫌い」を育ててきたのですから、それを打ち捨てておくのはもったいない。ゆっくりと時間をかけて、その発行を待ち、そこから「俺(私)はこういうふうにとらえられているんだなあ」とか「こういうふうに人って誤解するんだなあ」とか「こうしても、ひとってやはりわかってもらえないんだよなあ」とか様々な勉強をする。少し冷静になりますと、自分に対しても多少批判的に「俺(私)ってこういうふうにひとを裁いてしまうんだなあ」とか「こういうとき、俺(私)って聞く耳をもたなくなるんだなあ、意固地になるんだなあ」とか、様々なことが見えてきます。
・私が相手に悪さを下から嫌われるという合理的な「嫌い」はつまりません。私はああそうかと思うだけで、悩むことがなく、胃が痛くなるほど考えることがなく、何の人間的修行にもならない。しかし、私が何も悪さをしないのに相手から嫌われることは、私をもだえ苦しませ、たえまなく思索させ、私を人間的に高めてくれる。
・ラ・ロシュフコーの言葉。「ほとんどすべての人が小さな恩義に喜んで恩返しをする。多くの人が中くらいな恩義を恩に着る。しかし大きな恩義に対して恩知らずでない人はほとんど一人もいない」「他人に恩恵を施すことができる立場にあるかぎり、ひとはめったに恩知らずに会わない」
・Zがもし石原氏の没落を願っているとしたら、嫉妬である可能性が高い。軽蔑は相手の没落をかならずしも願わないからです。相手が自分の目の届かないところで(自分を不快にしない距離のところで)それなりに幸せであってもまったくかまわない。私が嫉妬している人とは、その成功や没落が気にかかる人であり、私が軽蔑している人とは、それが気にかからない人です。
・ここに「自分に落ち度がなければ嫌われるはずはない」という単純な論理を求めますと、相当おかしくなっていく。あなたが嫌われるのは、自分に落ち度が無い場合がほとんどだからです。そこで、相手が自分を嫌っていると直観したときは、まず「そういうこともあるな」とでんと構えるしかありません。こういう場合の相手は十分親しくないことが普通ですから、まずは考えるだけのゲンン院を考えて、それでも不可解なら必要以上に詮索しないで、仕事上はあたかも嫌われていないかのようにしっかり振る舞うこと。そして、離れられることならなるべく離れてしまうことです。
・「成功は人々を虚栄、自我主義、自己満足に陥れて台なしにしてしまう、という一般の考えは誤っている。あべこべに、それはだいたいにおいて人を謙譲、寛容、親切にするものである。失敗こそ、人を苛烈冷酷にする(サマセット・モーム)」
・つまり、ある人が生理的に嫌いであればあるほど、さしあたり努力してその原因をつきとめることです。その底には一般的に言って恐れや自己防衛があるのですから、難しいかもしれないけれど、努力してみる。すると、「嫌い」は減じないかもしれないけれど、原因がわかった分だけ楽になります。
・(略)じつは「嫌い」の原因を探ることには絶大なプラスの効果があるからです。自分の勝手さ、自分の理不尽さ、自分の盲目さが見えるようになる。そのために、ひとを嫌うことをやめることはできませんが、自己批判的に人生を見られるようになる。他人から嫌われても、冷静にその原因を考えれば、たいていの場合許すことができるようになる。こうして、本当の意味で他人に寛大になれる。
という感じで、「嫌い」を徹底的に解剖し、かつ肯定した素晴らしい主張です。目から鱗というか、かなり僕は生きやすくなりました。どちらかというと、人から嫌われるのを恐れている人間なので…。
誰か嫌いな人がいる、なぜか嫌われている気がする、なんて方には強くおすすめです。これはもっと若い頃に読んでおきたかった…。