次世代の制作環境とワークフローを考える
第5回:デジタル・フロンティア / DIGITAL FRONTIER
オパキス〜アジア最大級のパフォーマンスキャプチャ施設
DF がハイクオリティの 3DCG・VFX 制作を実践できる理由のひとつが社内にパフォーマンス・キャプチャスタジオ オパキス を構えていることだ。
「モーションキャプチャを自前で行おうと考えたのも、やはり "必要に迫られて" でしたよ。長編プロジェクトを継続して手掛けていくためには、その都度、外部のキャプチャスタジオにお願いしていたのでは割高になってしまいますから。2003 年 5 月に、キャプチャースタジオを構えたのですが、当初はニールセンビル(※昨年 11 月まで DF 本社が入居してい渋谷区代官山の建物)の近くにあった TYO ビル(目黒)の 1 室でカメラ 18 台からスタートしました」。
2005 年 12 月に、現在のお台場に設備を移し、アジア最大規模のモーションキャプチャスタジオ「オパキス」として再スタート。翌年にはフェイシャルキャプチャにも対応した後、2010 年 11 月には従来比 4 倍の高解像度( 1,600 万画素)を誇る VICON T160 を一挙に 100 台導入し、競合他社とのリード差を広げることに成功した。
photo by Mitsuru Hirota
お台場にあるパフォーマンス・キャプチャスタジオ全景
「モーションキャプチャは完全に機材ビジネスなので、設備の規模とキャプチャ精度についてはできるだけ高いスペックを維持したいと考えています。お台場に設備を移した際には億単位の投資になり、それまでの利益を全て吐き出してしまう勢いでしたが(苦笑)、結果として、自分たちの CG スキルのクオリティアップにも繋げることできています。アジア最大規模を自負していますが、それゆえにうちを利用してくださるクライアントさんは、ゲームであればトリプル A タイトルだったりと、クオリティを求める方が多いのかなと思っています」(豊嶋氏)。
「現在は、メインステージ(モーションキャプチャ用)に VICON T160 を 100 台、別に設けているフェイシャル専用スタジオに VICON MX40 を 20 台という構成で活動しています。メインステージは、理論上最大 20 人まで同時にキャプチャ可能です。以前は、キャプチャエリアが楕円形だったため、どうしてもデッドスペースができていたのですが、昨年から新システムに切り替えたことで縦 15 × 横 10 × 高さ 4.5m のエリアをフルに活用するすることができます」と、説明するのはモーションキャプチャ室の越田弘毅 TD 。
photo by Mitsuru Hirota
(左)パフォーマンスキャプチャ用 VICON T160 光学式カメラ、(右)インタビューに応じてくれた越田弘毅氏(モーションキャプチャ室 テクニカル・ディレクター)
お台場(江東区青海)を選んだ理由は、家賃も大きかったようだが、元々エアコンが完備されており、中柱のない広いスペースだったからだという。昨年 1 月から現行システムで稼働し始めたそうだが、カメラを 100 台に増強したことで、従来は大道具やプロップで隠れたり、複数人で収録した際に別のアクターと重なってしまったような動きでもキャプチャできるようになったとのこと。もちろんヴァーチャルカメラにも既に対応済みだが、まだ日の浅い技術だけに本格的な運用はこれからだという。ちなみに、オパキスの稼働は年平均で約 100 日ほどとのこと。収録がない日は渋谷の本社ビルでキャプチャデータの編集などを行なっているそうだ。
photo by Mitsuru Hirota
隣接されたフェイシャルキャプチャの収録ブース。2 名まで同時にフェイシャルキャプチャが可能で、MA 機材( Avid ProTools )も用意されている
さらに 3D スキャナも導入〜今後の展望
可能な範囲で少しずつ機材も人員も増強しているという DF 。少しずつとは言うものの、今年で 1994 年の事業スタートから 17 年目(法人化してからは 12 年目)というだけあり、少しずつ積み重ねたノウハウと組織力は他の追随を許さないものになっている。
「TD の役割のひとつとして、新しいツールの情報収集とその検証があるのですが、昨年 12 月からベルギー 4DDynamics 社の Mephisto 3D スキャナ を導入しました。一昨年の SIGGRAPH 2010 会場にて僕が見つけたのですが、キヤノン EOS(デジタル一眼)など市販の製品を上手く組み合わせてシステムが構築されているので、高い精度とコストパフォーマンスを両立しているのが最大の強みです。導入を検討する際には、現在の超円高も大きな後押しになりました」(野澤氏)。
photo by Mitsuru Hirota
3D スキャナ「Mephist EX」セッティング例。移動組立式なので、屋内ならどこでも撮影できてしまう。空気式の柵は通常 2.5m 四方で設置するが、5m 四方まで広げることも可能(その分、若干スキャンの精度は落ちてしまうようだが)
3D スキャナ導入を検討するきっかけとなったのは、『バイオハザード ディジェネレーション』制作時に、リアル系のキャラクターモデルを効率良く制作する目的で採り入れてみたところ、確かな効果が得られたことだったという。
「ハイクオリティのリアル系キャラクター制作は常日頃から行なっているので、男女それぞれにベースとなる素体モデルを用意するといった取り組みはしているのですが、モブシーンなど物量が求められる場合は、3D スキャンが非常に有効です。実は当初、解像度 1,024×768/8bit)の CX 版を導入するつもりだったのですが、頭部用にカメラをもう 1 台追加することで、より高解像度(1,920×1,080/8bit)なデータが得られる EX という上位版を試したところ凄く良かったので、こちらに切り替えてしまいました(笑)。その意味でもどんどん実戦投入していこうと思います」(野澤氏)。
photo by Mitsuru Hirota
「Mephist EX」を構成する機材(一部)。CX 版にカメラを 1 台追加することで、任意の部位のデータをより高精細に収集できる。Mephist は、スマートビジョンと呼ばれるモノクロの格子形状を DLP で被写体にプロジェクションした状態でデジイチで撮影したものから 3D 形状を取得。テクスチャはプロジェクション無しの状態で撮影データから取得するという仕組みだ
実演デモ。カメラ 1 台あたりわずか 0.24 秒と、非常に高速なスキャニングが可能。4 方向から収録した形状とテクスチャ情報は、オープンソースの MeshLab によって、1 つの 3D モデルとして統合される(人体モデルで約 500 万ポリゴンとのこと)
昨年、ついに社員数が 200 名を超えた DF 。「創業から少しずつだけど着実な進歩を心掛けてきました。ですが、不思議なことに 150 名に近づくと、スタッフの出入りが同じくらいになってしまい、なかなか 150 名の壁を突破することができませんでした。昨年ようやくその壁を超えることができたので、パイプラインを確立させて、各チーム単位で人材の拡充を実践したいと思っています」(豊嶋氏)。
DF が組織の拡大を急ぐ背景には、既に現在の規模では日本単一のマーケットだけではスタジオ運営が難しくなっていることがあるようだ。言うまでもなく、現在の日本の映像業界規模では VFX ヘビーの実写作品やフル CG アニメーション長編プロジェクトは年に数本しかない。もちろん、これから増えていく可能性もあるが、自ら企画・製作も行える DF としては受け身にならずに、打って出ていこうと考えるのは当然のことだ。
「とにかく海外でも売れる映像コンテンツを作っていくためにも "ファクトリー" としての基盤を固めたいですね。初めて制作したフル CG アニメーション長編である『ぼのぼの〜』の頃から、かけるコストに対する出来上がりのクオリティと回収できる目処については常に強く意識しています。例えば、『ぼのぼの〜』と『バイオハザード(ディジェネレーション)』では、規模も予算もおよそ 10 倍もの差があります。ですが、両作品ともコストを回収できたし、コンテンツとしても成立できていると自信を持って言えますよ」(豊嶋氏)。
2002 年公開の『ぼのぼの〜』では、わずか 13 名のスタッフで半年ほどで制作したという。一方、『バイオハザード〜』や『鉄拳〜』では約 10 倍の規模になったが、制作期間は常に 1〜1.5 年に収めるようにしているとのこと。こうした配慮は、長年の経験則に基づいていることは言うまでもない。またコスト回収面でも DF は確かなノウハウを有している。例えば、『バイオハザード〜』では劇場公開はわずか2週間だったため、興収だけでは採算ラインには達していないが、その後のパッケージ販売ではワールドワイドで 170 万本以上のセールスに繋げることに成功させた。その実績が買われ、現在、続編となる 『バイオハザード ダムネーション』 を鋭意制作中だ。本作をはじめ、DF のさらなる展開に注目したい。
TEXT_沼倉有人(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充
▼ About Company
株式会社デジタル・フロンティア
1994 年から活動する日本を代表する映像プロダクション。設立当初からハイクオリティな 3DCG 制作の実践を掲げ、R&D 部隊やアジア最大級のパフォーマンス・キャプチャスタジオを社内に設ける他、海外展開やコンテンツ制作への出資を積極的に行うなど多角的に活動している。
公式サイト
連動記事を公開中!
今回、紹介したデジタル・フロンティアにて、シニアデザイナーとして活躍中の元生晃司さんへのインタビュー記事を下記サイトにて公開中です。ぜひ、併せてご覧ください!
CG-ARTSリポート「プロダクション探訪~第一線で活躍する先輩からのメッセージ~」第 5 回(前編):DF 元生晃司さん