次世代の制作環境とワークフローを考える
第5回:デジタル・フロンティア / DIGITAL FRONTIER
精力的に活動しているスタジオを実際に訪問し、彼らが実践する制作スタイルと、その意図を通じて、次世代に向けた "日本ならでは" の制作手法 について考えていく本連載。今回は、ハイクオリティな実写 VFX と 3DCG アニメーションに定評ある映像制作会社 デジタル・フロンティア を訪ねた。
photo by Mitsuru Hirota
渋谷にある DF 本社のメインフロア
独立独歩で着実に進化し続ける
フル 3DCG アニメーションから実写 VFX まで、ハイクオリティなヴィジュアルを生み出し続けている 株式会社デジタル・フロンティア(以下、DF) 。同社は、1994 年に 株式会社 TYO(ティー・ワイ・オー) 映像事業室の1セクションとして活動をスタートした。
「当時の TYO は中核事業であった CM 制作からさらなる多角的な展開を進め始めたところで、DFはその中で 3DCG を用いた映像制作を担うことになったわけです。僕はDF設立から 9 ヶ月ほど経ってから参加したのですが、まずは CM や展示会映像などの 3DCG 制作から始め、機会を見つけては実写 VFX やゲームタイトル用プリレンダー映像など新たなジャンルに挑戦しながら少しずつ成長してきた感じですね」。
そうふり返るのは DF 専務取締役プロデューサーの豊嶋勇作氏。その後、2000 年 5 月に TYO の子会社として株式会社デジタル・フロンティアを設立。3DCG 映像制作だけでなく、PlayStation 用ゲームタイトルの開発なども行なっていた時期もあったそうだが、"選択と集中"を重ねた結果、現在は 3DCG を武器とした映像プロダクションとして、実写VFXからフル CG アニメーションまで幅広く手掛けている。
組織としては、CG 制作部、企画制作部、営業部の3つの部署と、バックオフィスである管理部に分かれて活動しており、大きくは実制作を行う CG 制作部と出資案件やオリジナル企画のプロデュース、制作進行の役割を担う企画制作部に分けられるだろう。前者については、R&D 部隊を設けるほか、2003 年にモーション・キャプチャスタジオを開設。後者としては、Web サイトやオリジナル DVD、TV 番組の企画制作でノウハウを蓄積させた後、映画 『APPLESEED』(2004) を機に劇場長編プロジェクトへの出資を行うまでに発展している。
映画 『APPLESEED』(2004)
© 士郎正宗/青心社 ・ アップルシードフィルムパートナーズ
3DCG・VFX 工房としての強みと、プロデュース力の双方を活かした DF 独自の展開と言えるのが、フル 3DCG 長編アニメーションをコンスタントに制作し続けていることだ(上述の通り、一部の作品では資本参加もしている)。
「2000年頃から、日本でもデジタルシネマが盛んに制作されるようになりましたが、そのブームに乗る形でまずは 『ぼのぼの クモモの木のこと』(2002) を皮切りに、昨年の 『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』 まで、おおよそ1〜2年周期でフル CG 長編プロジェクトを手掛けることができています。『ぼのぼの〜』のようなデフォルメキャラクター、『アップルシード』のようなトゥーンシェーディング、そして『鉄拳〜』のようなフォトリアル方向まで幅広く手掛けてきましたが、良い意味であまり肩肘を張らずにその時々の流行に乗りながら、できる範囲で最善を尽くしてきたことが結果的に良かったのかもしれません(笑)」(豊嶋氏)。
もちろんフル CG だけでなく、実写作品のVFX制作並びに出資も継続して行なっているほか、『サマーウォーズ』のような作画ベースの劇場アニメーション長編向け 3DCG 制作の実績も有している。
映画 『アタゴオルは猫の森』(2006)
© 2006ますむらひろし・メディアファクトリー/アタゴオルフィルムパートナーズ 原作:ますむらひろし
会社の規模としては、2000 年に株式会社化した時点では 10 名ほどの小さな組織だったが、制作実績を重ねていくのに応じて少しずつスタッフを増やしてきたとのこと。
「ゲームタイトルの開発を行なっていた時期は 100 名規模にまで拡大したこともありますが、CG 制作部隊としては 30〜40 名規模の時期が数年続きました。その後、『APPLESEED』プロジェクトが始まったのを機に 70 名規模にまで一気に倍増しまして、そこからは年を重ねるごとに徐々に規模が大きくなっています。現在(※2011 年 11 月時点)は、CG 制作部として約 180 名。会社全体では 200 名を超える規模にまで成長することができました」(豊嶋氏)。
2010 年 4 月に、親会社が TYO から フィールズ 株式会社 へ異動したが、DF 自体の活動方針が変わることはないという。フィールズグループとしての新たな動きという意味では、昨年11月にオフィスを長年続いた代官山から、ルーセント・ピクチャーズエンタテインメント 株式会社 や 株式会社 円谷プロダクション など他のフィールズグループ企業が集まる渋谷へ移しており、今後はグループ間での新たな連携を模索していくのであろう。
映画 『サマーウォーズ』(2009)
© 2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS
今日では、日本トップクラスの組織にまで成長した DF 。手掛けるプロジェクトの割合は、おおよそ映画= 45%、ゲーム= 20%、遊技機= 35% とのこと。大型案件が主要 3 分野ごとに 1〜2 本ずつあり、より小規模だったり、短期のその他の案件が合間に入る形で常時 10 プロジェクトぐらいが稼働しているそうだ。
「近年の特徴としては、ゲーム案件はプリレンダーではなくリアルタイム・パート用のモーションキャプチャやキャラクター制作などが増えましたね。つい先日も 『バイナリー ドメイン』(2012) に参加させて頂きましたが、現行機(HD規格)向けの開発ではますますリアルタイムの割合が高まっていくのではないでしょうか。実写 VFX については、ここまで大所帯になると 『GANTZ』 シリーズ や 『デスノート』 シリーズ のようなVFXヘビーの作品でないと我々の組織力を活かせません。これは邦画 VFX 制作全般に言えることだと思いますが、総制作費 1 億円規模の映画案件の VFX は、比較的小規模のプロダクションかフリーランス主体でないと採算が取れなくなっている気がしますね」(豊嶋氏)。
豊嶋氏いわく、プリレンダーの 3DCG アニメーションを制作することを目的に誕生したのが DF ということで、企業活動の根底にあるのは 3DCG 表現並びに技術のレベルアップにあることは間違いない。それゆえに、実写 VFX は今後も積極的に手掛けていくが、実写撮影や特殊効果を自社で手掛けることは当面考えておらず、自社の強みである 3DCG を中心にしたデジタル制作スキルにさらなる磨きをかけていく方針だ。
映画 『鉄拳 』ブラッドベンジェンス』 トレイラー
© 2011 NAMCO BANDAI Games. Inc.
DF は劇場長編を多く手掛けるだけあり、単一のプロダクションとしては、総勢 200 名以上という日本有数の規模を誇る。しかし、同社としてはさらなる拡大が急務だと考えている。
「ハリウッド同等の VFX、フル CG アニメーションをまとまったボリュームでコンスタントに制作していく上では、やはり人材の確保が欠かせません。また、採算割れすることなくハイクオリティかつ大きな物量を制作する上では、即戦力を中途で採用するだけでなく、制作機能のさらなる海外展開、未経験者やキャリアの浅い人材を自前で育成していく予定です」(豊嶋氏)。
そうした方針の下、DF は先日(2012年1月28日)会社説明会 を開催した。
「設立当初から、できるだけ社内で一連の制作を行なっていくようにしてきたこともあり、少し前までは外部に向けた情報発信にそれほど積極的ではありませんでした。ですが、外から見た時に DF がどのような組織で、どのような方針で活動しているのかといったことが分からないと、誤解を招く恐れもありますし、優秀な人材の獲得をする上で非効率になっているのではないかと考え直したのです」。そう語るのは、テクニカル・ディレクターとして活躍する野澤徹也氏。先日の会社説明会のアイデアも野澤氏の発案だったとか。今後もイベントや所属スタッフによる ブログ 「DF TALK」 を通じて積極的に様々な情報を発信していくとのこと。また求人については、公式サイトの求人ページ を参照してもらいたい。