次世代の制作環境とワークフローを考える
第4回:マーザ・アニメーションプラネット / MARZA ANIMATION PLANET
作業効率とコストの最適化を目指したツールの使い分け
ここからは『ハーロック』のプロジェクトを中心に、現在の MARZA 制作体制について、業務推進部の酒井祐介氏、プロダクションエンジニアの堀口直孝氏、システム管理の佐藤勇治氏の 3 氏に話を聞いていく。
まずは制作ツールだが、メインは Autodesk Maya、レンダラには Arnold Render( 参考リンク ) を用いている。この他に、クロス・シミュレーションでは主に Syflex を使い、モデリングでは、Marvelous Designer をいち早く導入。エフェクト系には Autodesk 3ds Max を使い、そのプラグインとして Krakatoa、FumeFX、Rayfire、AfterBurn などが使用されており、部分的に Houdini も使うことがあるそうだ。
MARZA で導入されている主要ソフトウェア並びにプラグインをまとめたもの。Maya を中心に、エフェクト制作では 3ds Max や Houdini など多種多様なツールがラインナップされている
一方、群衆アニメーションの作成には、特にシミュレーションソフトは使わず、キャプチャデータを Autodesk MotionBuilder で編集整理し、Mayaでブラッシュアップしているとのこと。コンポジットには、従来は Fusion を主に使用していたが、『ハーロック』プロジェクトから NUKE を使い始めたそうだ。
また、『ウェアホッグ』ではレンダラに RenderMan を使用していたが、前述した通り、本プロジェクトでは Arnold Render に切り替えられた。その主な理由としては、RenderMan はエンジニアの負担が大きくなることと、中間ファイルが多数できてしまうため、自ずと管理コストが高くなりがちであるからとのこと。
大規模作品を支えるパイプラインとインフラ
制作を行うモデリングチームやアニメーションチームなど、分業体制をとる各チームの作業を効率よく流していくためには、プロダクションエンジニアの堀口氏が中心となって構築したパイプラインが活用されている。しかし『ハーロック』の場合、MARZA にとって長編映画が初挑戦となるため、これまでとは違うコンセプトで長編映画用のパイプラインを構築している最中だ。
Maya をコアツールとして現在構築中だという、そのパイプラインが目指すコンセプトは、大規模プロジェクトにありがちな巨大なシーンファイルをストレスなく扱えるように、極力 Maya を介さずにファイルの読み込みや、アセットの差し替えなど(=煩雑で非クリエイティブな作業)が行えるようにすること。
この新パイプラインでは基本的に各セクションでデータを規格化し、次の工程に流すという。具体的には、上流ではテクスチャ 1 枚から、下流は Arnold で使用するための TX ファイルにコンバートしたり、モデルデータを .ma ファイル化して、シーンを自動構築し、アニメーションを作成する、といったことにまで対応できるようにするそうだ。
このようなパイプラインを構築するには、安定したインフラも必要になってくる。そのため現在、MARZA では『ハーロック』をはじめとする長編作品に備えて、ファイルサーバやレンダーファームを大幅に増強しているところだという。最終的には、ファイルサーバは何と 250TB 近くまで増強し、レンダーファームも約900台規模での構築を予定しているそうだ。
MARZA システム構成図(※2011年10月末時点)。昨年 3 月の東日本大震災での教訓を踏まえ、外部のデータセンターを利用した強固なネットワークが構築された
現在のレンダーファームの構成は 1 ノード 12 コアと 8 コアが混在した構成で、メモリは 24 GB を搭載。ファイルサーバに関しては、まだまだ増強する必要があるのだとか。
「『ハーロック』に関しては、スケジュールがタイトですので、インフラに対する期待が非常に高いんです。なるべく安定したインフラを整えられるように準備しています」と、MARZA システムヘッドの佐藤勇治氏は初の長編作品を支えるインフラ構築に向けての意欲を語ってくれた。