次世代の制作環境とワークフローを考える
第3回:フレイム / FLAME
30人規模に適したパイプラインの構築に着手
2008年に現在の東麻布へ移転し、今年はオフィススペースを拡充してスタッフも約40名にまで増員したフレイム。前述の通り、創業当初は CM やテレビ向けの CG 映像がメインだったが、リアルタイムのチームを率いる北田氏が精力的に活動した結果、最近では HD 解像度のゲーム機向け案件も多くなったほか、近頃ではフレイム側からの企画提案や、仕様作成、絵コンテの作成なども社内で作成できるようなプロジェクトも増えてきたという。これらの仕様制作や絵コンテの作成は、特定のスタッフがいるわけではなく、CG を制作するデザイナーが自身の希望や得意なスキルを活かして対応することが多いという。分業化が進む中、企画案や絵コンテなど、ディレクションに近い業務をデザイナーが兼任することが少なくなってきているが、自分が担当する案件を深い部分から、理解し考えることで、デザイナーたちのモチベーションアップにも繋がっているそうだ。
それでは、同社のスタッフ編成とワークフローを具体的にみていこう。現在フレイムでは大林氏が率いるプリレンダーを主とした映像系のチームと、リアルタイムパート向けの CG 制作を主とする北田氏のチームという、「20人程度のプロダクションが2つある感じ」 と、北田氏が語るように2つのチームに分かれて活動している(下図参照)。
フレイムのスタッフ編成(2011年8月現在)。新たなワークフローやツール開発は、各チームごとに行なっている
現状、制作を外部プロダクションに委託することはあまりなく、人手が足りない場合は、長年の付き合いがあり同社の制作スタイルに精通しているフリーランスのデザイナーに出向してもらって対応しているとのこと。また現在は、北田チームでは分業制を採らずに各デザイナーがゼネラリストとしてモデリングからコンポジットまで包括的に手掛ける場合が多く、一方の大林チームでは案件に応じて様々な作業フローを使い分けているという。実写 VFX からフル CG アニメーションまで幅広く手掛けていることもあり、所属するデザイナーはモーションキャプチャ・データのクリーンナップから、ゲーム機のミドルウェアに、データを渡す際のデータコンバートやデータ整理まで、幅広いスキルを習得しているそうだ。
このような体制を採る理由は、CM やテレビ番組など、比較的タイトなスケジュールの案件への対応がし易いからであるが、実はフレイムでは現在、より効率的にデジタル・コンテンツ制作を行うべく、"30人規模でも成立するパイプラインの構築" に着手したところだという。
「日本の業界規模やビジネス慣習を考慮すると、完全な分業制は有効ではないと考えています。ですが、ゼネラリスト集団では大規模プロジェクトへの対応に限界がありますし、その都度、作業フローが変わってしまうと効率が悪いんですよね。デザイナーの特性を活かす上でも、ある程度は個々人が得意とする分野に特化した方が高いモチベーションを維持できると思うので、今年と来年の2年がかりで、"緩やかな分業制"への移行を目指すことにしました。計画としては、だいたい30人規模の組織に最適化されたパイプラインを構築して、ディレクターがコンポジットを兼務したり、モデラーがアニメーションも兼務するといった具合に、メイン業務の前後までは兼任するけど、スタッフの特性に合わせて"核"となるスキルを明確にしていければと考えています」(大林氏)。
下の図は、大林チームがこれから導入しようとしているワークフローである。
フレイム(大林チーム)が新たに導入を目指すワークフロー図。3DCG 制作を、<1>ディレクション・管理、<2>モデリング(テクスチャリング含む)、<3>モーション(セットアップを含む)、<4>エフェクト、<5>ライティング&コンポジット という5つに大別して、案件の内容や規模に応じてゆるやかにスタッフイングすることを目指している
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この図を見ただけでは、明確な分業制を目指していると思われたかもしれないが、大林氏の構想では、全てのスタッフが2年ぐらいの周期で各工程をローテションしていくイメージだという。
「そして、この計画を実行するのに伴い、今年初めてテクニカル・スタッフと専任のプロダクションマネージャーを採用しました。まずは手始めとして、僕のチーム内で新しいワークフローを試験的に採り入れていく予定です」(大林氏)。
新たに採用したテクニカル・スタッフは、ファイルの命名ルールから、アセットを管理する際のフォルダの階層構造を決めるなど、制作上のルール作りから、デザイナーが作成したデータをどのような形式で、どういうオプションを設定して保存するかなど、制作から納品に至るまでの道筋を効率良く管理する手法の考案・導入を担当するとのこと。今回採用したのはプログラムも書ける人物ということで、ワークフロー管理に関わるツールなどの開発にも着手する予定である。
「スタッフの人数が少ないうちは問題なかったのですが、10人を超えてくると新卒からベテランまで知識の習得度合いがバラバラです。そのため、スタッフ間での連携や進行管理に支障が出てきました。そこで各案件の仕様や進捗、ツールに対する理解度などを共有化するためのシステムを構築したいのです」(大林氏)。
この「2カ年計画」では、今年を 「ソフトウェアとワークフローの整備」 に、来年を 「ハードウェアとネットワークの整備」 に充てたいとのこと。「フレイムは当初から "変わり者" として活動してきたので、独自のパイプラインを確立することでそのペースを加速させたいですね」と北田氏が語るように、日本の中規模 CG プロダクションではこれまであまり見られなかった取り組みではないだろうか。