次世代の制作環境とワークフローを考える
第3回:フレイム / FLAME
精力的に活動しているスタジオを実際に訪問し、彼らが実践する CG・VFX 制作のワークフローや導入機材を通じて、"日本ならではの制作手法"について考える本連載。今回は東麻布に居を構える、成長著しい CG プロダクション、フレイム/FLAME を紹介しよう。
photo by Yohei Onuma
プリレンダーからリアルタイムまで幅広くカバー
株式会社フレイム は、デジタリハリウッドで同級生だった大林 謙氏(代表取締役、プロデューサー)と北田能士氏(取締役、マネージャー)が中心となって誕生した、今年で設立8年目を迎える CG プロダクションである。テレビ CM や映画 VFX、遊戯機映像などのプリレンダー映像から、ゲームなどのリアルタイム CG 素材制作まで、幅広く手がけている。また、最近では親交の深い Web 制作会社がオフィスをシェアするようになり(後述)、キャンペーンサイトなどの映像制作のみならずサイト構築まで包括的に手掛ける案件も多いとのこと。
「大学は理系でプログラミングなどを学んでいたこともあり、デジハリ卒業後は IT 系の会社で営業兼システム担当として働いていたのですが、やっぱりコンテンツ制作がしたいなと思って、入社半年ぐらいで退社したのです。その時に、同期の中でも学生時代から目立っていた大林に仕事をもらおうと思って連絡取ってみたら、彼の方が先に会社を辞めていたんですよ(笑)」と語るのは、フレイム取締役・マネージャーの北田能士氏。そこで、まずはお互いの近況を報告し合おうと2人で会ったところ、トントン拍子で新会社設立に至ったとか。
設立当初は目黒のマンション1室を借りて活動していたが、その1年後ぐらいから徐々にスタッフが増え始めたのを機に、飯田橋へ移転。その後さらにスタッフ増えたことで江戸川橋を経て、現在の東麻布に落ち着いたという。現在入居するビルは、元々、印刷会社があったことから、建物も堅牢な造りで電源にも余裕があるというが、特に今年3月に拡張した4階は、大林氏の友人のインテリア・デザイナーがリノベーションを手掛けており、ひときわ快適そうであった。
photo by Yohei Onuma
フレイム内観
(左上)メインエントランス前
(右上)エントランス脇のミーティングスペース
(左下)入居するビル4Fの制作ルーム(主にプリレンダー映像を手掛けている、大林チーム)。今春に拡張したばかりで、主にプリレンダー系の制作が行われている
(右下)5Fの制作ルーム(主にリアルタイム CG を手掛けている、北田チーム)。こちらでは主にゲームタイトル向けリアルタイムパート用の制作を行なっている
個性の違いを活かした2輪体制
フレイムの主な参加作品は、プリレンダーでは 『禅 ZEN』(2009)、『感染列島』(2009)、Web『PUMA TRIBES』(2009) の CG アニメーション制作、リアルタイム CG では 『ガンダム無双3』(2010/PS3、Xbox 360) のキャラクターモーションなどを手掛けている。
フレイムの代表作
(上段)『PUMA TRIBES』(CG制作・2009)© PUMA JAPAN K.K.
(下段・左)『PITHECAN BROTHERS』(CG制作)© TBS
(下段・右)『ポストペット モモ便』(CG制作・2004)© 角川映画/キャラクター © So-net Entertainment Corporation
「創業当初はゲーム案件は少なく、TV 番組や CM、VP 向けの映像制作が大半でしたね。その頃から映画 VFX も手掛けたいと思っていたのですが、敢えて手を出さないでいました。その理由は映画の場合、自ずと制作期間が長くなるため、体力的に持たないと感じていたからです。お陰様である程度の規模にまで成長できたので、最近ではいつくか参加させて頂く機会に観恵まれました。ゲームに関しても同様に創業当初は、スタッフの数が少なかったこともあり、ゲーム企画のプレゼン用イメージとかを作っていたぐらいした。ですが、こちらも北田が上手く育ててくれたので、リアルタイムパートの CG 制作を実機への組み込み(オーサリング)まで手掛けることができるようになりました」(フレイム代表取締役・プロデューサー/大林 謙氏)。
デジタル・コンテンツ制作に限った話ではないが、会社設立当初はとかく実績と利益を上げたいがために「何でもやります!」と、勢い込んでしまいがちなもの。しかしフレイムでは、自分たちの会社規模を冷静に捉え、やっていきたい仕事と当座受ける仕事を戦略的に取捨選択していたわけだ。創業当初は両氏を含めてわずか数名だったフレイムを約8年で約5倍(2011年8月末の時点で38名が在籍)の規模にまで成長させたわけだが、夢の実現に向けて焦らず着実に進んでいく姿勢からは、経営者としての卓越したセンスを感じる。
またフレイムの特徴的な経営手法として、大林氏と北田氏がお互いに独立した2つのチームに分かれてプロダクション事業を展開させていることが挙げられる。大林氏が主に CM やテレビ、映画、Web 等のプリレンダー主体の CG 映像制作を手掛ける一方で、北田氏が学生時代から培ったプログラミングのスキル活かして、ゲーム向けのリアルタイム向けの CG 制作を担当している。そのため、2人で1つの案件を共同で担当することは殆どないそうだ。
「もちろん2人ともフレイムとして活動しているわけですから、例えば北田がゲームデベロッパーさんからプリレンダーの案件を受注するといったこともあります。そうした場合は、最初のつなぎは北田に取り持ってもらいますが、実制作は僕がリードするプリレンダーのチームで進めていきます。その逆の場合もありますね。決して仲が悪いわけではなく(笑)、お互いにこのスタイルが一番力を発揮できるので自然と今の形に落ち着きました」(大林氏)。
一般的にひとつの組織に個性の強いリーダーが複数いると、分社化したりするケースが多いが、大林氏と北田氏の場合は、お互いの個性の違いを尊重して、巧く受注する案件の広さに転嫁しており、絶妙なバランスでひとつの制作会社にまとまることに成功しているわけだ。
shot by Yohei Onuma
今年3月に拡張された4階フロアのウォークスルー(メインエントランスから大林チームの制作スペース、そしてフロアをシェアしているグループ会社「クローカ」まで)