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プロダクション探訪

次世代の制作環境とワークフローを考える

第1回:十十 / jitto

"日本ならではのCG・VFX制作手法を考える"をコンセプトにした新連載がスタート。毎回、CGWORLD.jp が着目したスタジオを訪問し、その制作環境や実践する作業フローについて具体的に紹介していく。記念すべき第1回は、TVCMやMVを中心に日本のVFX表現をリードしてきたクリエイターらが結集し、昨秋、満を持して起ち上げた"新世代のVFX工房"「十十(ジット)」を紹介しよう。

十十内観01

photo by Mitsuru Hirota

VTRを持たないオープンな制作環境

スタジオを訪れて驚いたのは、マンションの一室としては思えないほど開放感に満ち溢れた空間であった(写真・上)。幅 120cm 程度の一般事務用デスクが当たり前である日本の CG 作業環境を考えると実に贅沢だが、それゆえに所属するクリエイターたちは最大限にその実力を発揮できる。そんなオープンな制作環境を実現したのが、今回紹介する 株式会社十十(ジット)。漢字の十を二つ連ねたユニークな社名だが、そこには"+(プラス)"の意味もあり、複数の力を組み合わせることで、より大きなクリエイティビティの源泉にしていくといった思いが込められているという。そんな同社は、20年以上にわたってオンライン・エディターとして活躍してきた定岡雅人氏らが中心となり、昨年9月にオープンしたばかりの新しい VFX スタジオだ。

「実は、VTRを保有していないんですよ。さらに、完パケやMAなどの仕上げ工程については外部のポスプロの設備を利用することにしています。当社は、自分をはじめとしたオンライン・エディターが中心に組織されているので、いわゆるポスプロ的な作業には問題なく対応できますが、限りあるリソースを"自分たちの強み"に極力集中させることで、スタジオ運営に必要な初期コストを最小限に抑えることに成功しました。実写の世界では、ソニーのF35独 ARRI 社のALEXA、すっかり定着した キヤノン EOS 7D に代表されるデジイチ動画など、フィルム同等の豊かなルックを実現できるファイルベースのカメラが多数登場してますよね。そうした、テープレス化への移行は僕たちにとって追い風になっています」と、定岡氏は語る。従来は必須であったVTR機材。業務用にもなると、その価格は数百万円は下らない。既成概念を打破する英断と言えるだろう。

十十内観02A

photo by Mitsuru Hirota
玄関を開けるとまず広がるのが、この打ち合わせ兼休憩用のラウンジスペース。北米の VFX スタジオを彷彿とさせるバーカウンター、その上に掲げられたディスプレイには同社のデモリールを流したりしている

パーテーションで区切らず、固定の席も設けない。スタッフは、その日の気分で好きな場所で作業する。こうした"オープン・マインド"は、物理的な面に止まらない。「以前に所属していたポスプロの頃から、CG 制作とオンライン編集の垣根を取り払いたいと考えていました。例えば、3D ベースのトラッキングや Max で作成した 3D モデルを直接、Flame に読み込んだりと、VFX 表現が高度化するにつれて、CG 制作と編集/合成の区分けが難しくなってきています。そうした中で、最大限のパフォーマンスを発揮するには、タテ割りの組織ではどうしても限界があるんですよね。管理の都合上、大きな組織ではどうしても部署分けする必要があると思うのですが、僕たちは10名弱の小さな所帯。なので、目指す表現に応じて柔軟に作業フローを変えることができる体制を実現することにこだわりました」(定岡氏)。

十十では、オンライン・エディターと CG デザイナーがまさに"背中合わせで作業" をしている。こうすることで、その道の専門家に意見を聞きたいと思ったら、いつでも気軽に声をかけることができる。また、余裕のあるスタッフがいた場合、本来はアサインされていないプロジェクトでも、ワンポイント・リリーフ的に CG やコンポジット作業を手伝うことが可能になった。「僕は 20 年以上、この業界にいます。CG や映像の技術は日進月歩ですが、良い仕事ができるかどうかは、最終的には1人の表現者として、そしてプロとしての人間性がものを言うのだと強く感じています」。そうした、人付き合いを効率的に行うためのオープンな環境というわけだ。

昨年9月に誕生した、十十。今年2月に、ようやく創業から半年を経過したところだが、現在は4名のオンライン・エディターと3名の CG デザイナー、そして2名のプロデューサーという、総勢9名で活動している。在籍するスタッフはいずれもキャリア10年以上を誇り、定岡氏をはじめとするオンライン・エディターであれば、うち3名が VFX スーパーバイザーとして、VFXの全体的な監修が可能。同じく CG デザイナーも、YKK AP『EVOLUTION』(2004)にて「第8回文化庁メディア芸術祭 エンターテイメント部門 優秀賞」を受賞した尹 剛志氏を筆頭に、CG ディレクターとしてはもちろんのこと、映像ディレクターとしてプロジェクトに携わることも多いという。

資生堂 HAKU メラノフォーカスW『自分を救え。』篇

image courtesy of jitto, inc.
十十が参加した近作プロジェクト(その1)。
資生堂 HAKU メラノフォーカスW『自分を救え。』篇(2010)
制作:ビービーメディア、Dir.:関根光才、Online Editor:坂巻亜樹夫(十十)、CGディレクター:尹 剛志(十十)
 

「まだ駆け出しの小さな組織ですが、在籍するスタッフは、相応の実績を持つ優秀なクリエイター揃いだと自負しています。ですので、自社で完結するのではなく、案件の規模や内容に応じて外部のパートナーに協力してもらい、 VFX 制作のプロデュースや全体マネジメントを行なったりもしていますよ」(土屋真治プロデューサー)。スタジオ内の作業スペースにも余裕があり、12名まで席を用意しているので、外部のデジタル・アーティストが十十で作業をすることもあるそうだ。

グリコ ウォータリングキスミントガム『インザウォーター』篇

image courtesy of jitto, inc.
十十が参加した近作プロジェクト(その2)。
グリコ ウォータリングキスミントガム『インザウォーター』篇(2011)
制作:エンジンフィルム、Dir.:児玉裕一、Online Editor:坂巻亜樹夫(十十)、CGディレクター:西沢竜太(十十)
 

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