組織で制作することと、新人を育てることは切り離せない
求めているのは、アニメの方向を向いて、アニメのCGをやりたい人
好き、やりたい、そういった動機から作られた作品を見せて欲しい
アニメ作りの現場を維持するために設立した、ウルトラスーパーピクチャーズ
今回のスペシャルリポートは、株式会社サンジゲンの代表取締役/CGプロデューサーの松浦裕暁さんのインタビューをお届けします。セルアニメ調の3DCG表現を得意とし、最近では「プリキュアオールスターズDX3」(2011)や「TIGER&BUNNY」(2011)の制作で大きな存在感を示したサンジゲン。2012年の秋に公開予定の「009 RE : CYBORG」では、(2012秋公開/プロダクションI.Gとの共同制作)すべてのキャラクターをセルアニメ調の3DCGで表現すると発表。新会社ウルトラスーパーピクチャーズの設立も宣言し、注目を集めています。「組織で制作するからには、新人を育てるべき」と語る松浦さんに、サンジゲンの目指す表現と人材育成について伺いました。
ーー人材育成について伺う前に、まずはサンジゲンの3DCGの特徴を教えてください
ピクサーやポリゴン・ピクチュアズが作っているような3DCGとは、まず見た目が違います。サンジゲンが作るのは、手描きのセルアニメと見分けがつかない、アニメ屋の3DCGです。
日本のセルアニメには約50年の歴史があり、多くの成功例があります。大人から子供まで、幅広い客層に受け入れられている。50年かけて我々のなかに染み込んだ、独自のテイストや動きがあります。まだ10年程度の歴史しかなく、ビジネスとしての成功例があるとは言い難い国産の3DCGアニメとの差は、凄く大きい。ある日突然新しい表現を見せられても、ユーザは付いてこれません。心理的な抵抗があって、感情移入が難しい。新しい表現への挑戦を否定するわけではないですが、ある程度の段階が必要だと思っています。
サンジゲンはおもに3DCGを使いますが、作る絵の見た目は、セルアニメと変わりません。完全に、3DCGをセルアニメになじませる表現をしています。だから、セルアニメと同じ土俵、同じマーケットで勝負できます。そこにビジネスチャンスがあると、僕は思っています。
サンジゲンが作るのは、アニメ屋の3DCG。Autodesk 3ds Maxを使用して制作した3DCGモデル(左)に、セルアニメ調の質感を適用する(右)ことで、手描きのセルアニメに非常に近い見た目を実現している。
ーー従来の手描きではなく、3DCGでセルアニメ調の絵作りをするメリットは何でしょうか?
手描きだけでは作れなくなってきているという、制作現場の事情があります。国内で人材が育っていないんです。日本の手描きアニメータは、最盛期には約5,000人いましたが、今は1,000人ほどにまで減少しています。制作コストが安い海外に大量の仕事を発注してしまった結果、後進の人材を育てることができなくなりました。
この問題を解決するための活路が、3DCGにあると思っています。作品全体の8割を3DCGで表現できるようになれば、大量に良質のアニメを作れるようになります。ただし、3DCGは手描きとは違い設備投資が必要です。技術は日々進化するのでノウハウの共有も欠かせません。手描きのアニメータはフリーランスでも食べていけますが、3DCGは組織で制作しないと持続が難しい。組織なら、若い人の教育もできます。ただし、3DCGの制作コストは手描きに比べるとまだまだ高い。効率化などの工夫によって、下げていく必要がありますね。
ーー8割を3DCGで表現ということは、残り2割は手描きが残ると?
そうですね。手描きのキャラクターには価値があるので、残したいと思っています。手で描いた絵は1枚しか存在しないので、そこにユーザも価値を感じています。現時点では、3DCGはボタンを押せばできるというイメージをもたれているんですよ。実際には1フレームずつ作りあげていくもので、そんなに簡単なものではないんですけどね。
数人の凄くうまいアニメータの作画を活かしつつ、それ以外は全部3DCGといったバランスで作ると良いんじゃないかなと、僕は考えています。さらにその先は、全部3DCGでも構わないと思います。日常的に今時のゲームに親しんで育った子供たちが、3DCGを違和感なく受け入れるようになれば、ユーザのニーズも変わるかもしれない。そうなったら新しい表現を考えていけば良いと思っています。
ーーではいよいよ、サンジゲンの人材育成についてお伺いしたいと思います。新人教育は面倒だとか、コストがかかるとか、負担が大きいといった声を耳にすることが多いんですが、その点について、どのように感じていますか?
ものすっごい面倒ですよ(笑)。コストだってかかります。だけど新人を育てないと、組織の5年後はないと思っています。新人は会社の基礎なので絶対に入れます。創業時から、新人を採用するようにしてきました。組織で制作することと、新人を育てることは切り離せないと思うんです。フリーランスの人間を集めて制作するやり方は、通用しなくなりつつあります。そもそも人が集まらないし、制作コストが高くなる。長く続けていくことは難しいです。
この業界に入った新人は、少なくとも40年間この仕事をやるわけです。40年間続ける力を維持するには、つねに新しいことをやっていく姿勢が必要です。それには教育が必要だし、キャリアパスも考えないといけない。個人の力だけに依存するのではなく、ちゃんとした組織でもってやっていくべきだろう、それしかないだろうと思うんですよ。
ーーアニメ業界の新人アニメータの収入は、コンテンツ産業のなかでもダントツに低くて、生活が難しいという話も聞きます。サンジゲンの新人の実情はどうですか?
新人の仕事を単体で考えれば、5万円も払えないですよ(笑)。でも、最低賃金は必ず守っています。そこは守らないと、続けられないですよね。彼らは生活できないし、将来の才能を潰すことになる。最低限の生活保障は、教育のための必要条件です。新人の足りない分は、中堅やベテランがカバーする。それが組織でやる意味だと僕は思っています。