大滝秀治さん
劇団民芸の中心俳優として活躍し、映画やテレビでも人生の哀歓にじむ老人などの名脇役を演じた俳優で文化功労者の大滝秀治(おおたき・ひでじ)さんが2日午後3時17分、肺扁平(へんぺい)上皮がんで死去した。87歳だった。葬儀は近親者で行った。お別れの会は22日午後2時から東京都港区南青山2の33の20の青山葬儀所で。喪主は妻純子さん。
東京都出身。復員後の48年、劇団民芸の前身、民衆芸術劇場に奈良岡朋子さんらと同期入団。当初は演出部に配属され、効果などを担当。休演した俳優の代役を務めたことがきっかけで、55年ごろから舞台に立つようになり、映画、テレビへ活躍の場を広げた。
奈良岡さんと共に代表を務めた民芸ではブレヒトの「第二次大戦のシュベイク」や木下順二の「巨匠」、古典落語を題材にした「らくだ」などが代表作。映画ではブルーリボン賞受賞の「あにいもうと」(76年)や金田一耕助シリーズなど、名脇役として多くの作品に出演。テレビ作品「特捜最前線」「うちのホンカン」「北の国から」シリーズなどで名演をみせた。ミネラルウオーターや殺虫剤、健康食品のCMで人気を博した。2011年に文化功労者。
「ぼくは声が悪い、顔が悪いで、若いころから『老け役』だった」と本人が語るように、20代にして老人役を演じることが多かった。独特の甲高い声で、ユーモラスな老人を演じる一方、静と動の対比で悲しみや怒りを巧みに表現する演技に定評があった。
常に演技には全力投球で、80歳を超えても精力的に活動を続けた。「仕事で手を抜くやつは許さない」という熱血漢でも知られた。今年6月に予定していた舞台「うしろ姿のしぐれてゆくか」を体調不良のため降板していた。公開中の「あなたへ」が最後の映画出演となった。
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《映画「あなたへ」など多くの作品で共演した俳優・高倉健さんの談話》 大滝さんが今年に入り体調を崩され、入院なさっている間、お手紙の遣(や)り取りを続けておりました。大滝さんの最後のお仕事の相手を務めさせて戴(いただ)き、感謝しております。今までにご一緒させて頂いたいろいろな場面が思い浮かびます。本当に素晴らしい先輩でした。静かなお別れができました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
《タレント・関根勤さんの談話》 突然の訃報(ふほう)に大変驚いております。大滝さんの物真似(ものまね)は、20年前からさせていただいておりました。生前、2人で伊豆を旅する番組でご一緒させていただいた際には、仕事や人生に関するお話をたくさんしていただき、本当の父親と時間を過ごしているようでした。お話の一つ一つから伝わるプロ意識に驚かされたことは、今も忘れられない思い出です。
昨年の日本アカデミー賞授賞式でお会いした時に、固い握手をさせていただきました。その力強い握手は忘れることができず、とても嬉(うれ)しかったです。それが、お会いする最後の機会になるとは思いませんでした。残念で仕方ありません。謹んで、ご冥福をお祈りいたします。