かせきさいだぁが帰ってきた! それも素敵なアルバムを引っ提げて! ── という出来事は、良質でやんちゃなポップスに目がないというリスナーにとって2011年の大きなトピックであったことは間違いないでしょう(間違いないはず!)。昨年のアルバム『SOUND BURGER PLANET』は、98年の『SKYNUTS』発表以降、ワタナベイビーとのBaby&CIDER、木暮晋也とのトーテムロック、いとうせいこうらとのThe Dub Flowerなどで活動し、2009年にバック・バンド=ハグトーンズを従えてホームの活動を再開させたかせきさいだぁだが、実に13年ぶりに届けてくれたものでしたが、それに続くニュー・アルバムが思いがけない早さで登場! 『ミスターシティポップ』と銘打たれたそのアルバムには、EPOをコーラスに迎えた「さよならマジックガール」「ソーダフロートシャドウ」をはじめ、盟友・キリンジの堀込高樹が参加した「夏の月面歩行」、セルフ・カヴァー曲「冬へと走りだそう」「フリーダム フリーダム!」、80'sアニソン・カヴァー「恋の呪文はスキトキメキトキス」、でんぱ組.incに提供した「くちづけキボンヌ」などなど、より“シティ”でより“ポップ”でより“かせきさいだぁ”なナンバーのオンパレードになっているんです!
-- 13年ぶりとなった『SOUND BURGER PLANET』から1年ちょっとでニュー・アルバムが聴けるとは思いませんでした(笑)。かせきさいだぁの歩みからするとかなり早いタイミングのリリースですよね。やはり前作でかなりの手応えが?
そうです、ありましたね。『SOUND BURGER PLANET』は、僕としては前とだいぶ変わって来ちゃったかなって思ってて不安な部分もあったんですけど、Twitter上とかで“ぜんぜん変わってない!”って言われたんで、だったらまあいいかっていう(笑)。“ぜんぜん変わってねえじゃん!”っていう文句はなかったんですよね。ホントは変わってるんだけど、変わってないように聞こえるんだったらそれはそれでいいかって。
-- かせきさいだぁの活動はさりげなくSNSの恩恵を受けてるんですね。
そのおかげで再活動できてるって言ってもいいんじゃないかって思いますけどね。セカンド(98年の『SKYNUTS』)の時は売上も悪くてボロクソ言われてたんですけど(笑)、SNSが普及すればするほど“あれイイじゃん!”って話が聞こえてくるようになってきて。あの当時はね、情報源が雑誌だけだったし、世の中的にもヒップホップがハードコアな方向が美とされてた時代だったんで、『SKYNUTS』は“これナニ!?”みたいな感じで、ホントね、まったく評価されずだったんですよ。そうじゃない人もいっぱいいるだろうって思ってたんですけど、そういう人たちの声が聞こえにくかったっていう。メディアがそうだと、リスナーは“まあ聴かなくてもいいだろう”ってことになるじゃないですか。でも、ネットが発達すればするほど『SKYNUTS』は名盤だみたいに言われたりとか、そういうリスナーの発言のおかげで“かせきさいだぁってイイんだ”って少しずつ広まってるんだなって思いますけどね、最近。ブログとかホームページでの宣伝も有効になってきて、昔みたいにでっかいところに出て行ってやらなくてもいいっていう、そういうやり方も今はありですもんね。
-- ニュー・アルバムのタイトルが『ミスターシティポップ』。昔からかせきさいだぁの音楽を知っているクチとしては、ついにこのフレーズが!って感じです。
もともと、ヒップホップを通してポップス的なことをやりたいなあと。1枚目(96年の『かせきさいだぁ≡』)ではまだ手探りで、次の『SKYNUTS』では南佳孝さんといっしょにやったりして、こういうふうにやったらいいのかなっていうのが掴めてきたんですけど、世の中にそっぽ向かれ(笑)。で、そのうちにRIP SLYMEが出てきて、オレがやんなくてもいいかって思ったんですけど(笑)、でもなんとなく、〈シティポップ〉みたいな切り口だったら自分らしくできるなって思ったんですね。山下達郎さんまではいけるかどうかはアレとして(笑)、ティン・パン・アレーのああいう感じな雰囲気のものだったらできるんじゃないか?7……って思ってたところに、ハグトーンズのコたちがバックをやりたいって来てくれて。シュガー・ベイブとかティン・パン・アレーとか聴かせて、ここはこういうふうに演奏してよって頼んで、『SOUND BURGER PLANET』はそれを試しながら作った感じですね。でまあ、ある程度の手応えを掴めたので、よりシティポップな感じの曲を多めに作れるんじゃないかって目処が立って。
-- 前作でも数曲作曲していましたが、今回はご自身で作曲された曲が増えましたよね。
そうなんです。僕、作曲ができなかったので、いままでは全部他に頼んでたんですよね。ヒックスヴィルの木暮(晋也)さんだったり、ワタナベイビーだったり、SHINCOだったり川辺(ヒロシ)くんだったり。で、他人に頼むと自分の思ったのとは違うおもしろいものができるけど、逆に自分の思った通りのものはできないっていうジレンマもあるんです。でまあ、今回は自分が思ったようなシティポップ的なものだけをやってみようかなって思ったんですよね。それもあって『ミスターシティポップ』ってタイトルにしてもありだなって思ったんですね。
-- “ヒップホップを通してポップス的なことをやりたい”っていうところからの話なんですけど、かせきさいだぁの音楽にはそもそも“シティ”感であるとか松本隆さんがかつて描いていた“風街”感がありましたよね。“街”が放つムードを音楽に融け込ませようと思ったきっかけはどんなところにあるんでしょう?
自分でもよくわからないんですけど、ちょっとだけ俯瞰して見て状況を歌うみたいな……なんかね、あんまり自分の気持ちみたいなものを入れ込むと、聴いてる人はそう思ってないだろとか、曲に入り込めなくなると昔から思ってたので、景色を歌ったようなものであれば聴いた人が各々いろんなことを思ってくれる──記憶のなかで生きていくようなものを作りたいなって思ってました。自分は“世界観”を作るのが好きみたいなんですよね。もともと画を描くのが好きだったので、言葉を絵の具に見立てた感じというか。で、画は画で優れているんですけど、音楽や歌詞が優れているのは、聴く人ひとりひとりのイメージでストーリーが動いていくところ。それは松本隆先生から、作品を通じて教えていただいたことなんですけどね。小学生の頃は音楽の歌詞に大した意味なんてないだろって思って聴いてたんですけど、それは間違いで、松本先生の歌詞は口で説明してるんじゃなくて画を浮かばせる。そこにすごく共感して、いまも師事してる感じなんです。
-- そういえば最近のJ-POPの歌詞には、画を浮かばせるようなものがあまりないような気がします。
よくこの言葉出てくるなあっていうのありますよね。“やさしい場所”とか(笑)。とにかくやさしい場所に行きたがるんですよ、何処とは言わないんですけど(笑)。あと、“やさしい風が吹いて”とかね。で、必ず“恋に焦がれる”(笑)。恋に焦がれるって何だろう?って。ウケそうな言葉をシャッフルして作ってるようなものというか、歌詞に興味ないんでしょうね。僕は歌詞が好きなんで、そこにギラッとした言葉を入れたいと思ってずっとやってますけど。
-- 『ミスターシティポップ』には、ミスシティポップ……と当時は言われてないでしょうが(笑)、時代の証人であるEPOさんも参加されてますが。
今回もレコーディング・エンジニアを(イリシット)ツボイくんにやってもらったんですけど、途中の段階を聴かせたら、これは80年代までイキきらないシティポップだねって。僕は、「オレたちひょうきん族」の終わりに流れてそうな、黒人音楽の影響を引きずってる感じの80年代初期のシティポップを目指してたんですけどね。で、どうしようかってことになって、EPOさんにコーラスを頼んでみようよと。EPOさんに加わってもらえば80年代のシティポップになるだろうって、そういうのもちょっとありましたね。EPOさんの声が入ればOKだろうって。
-- しかし、最終的にはまんま80'sムードのシティポップにはならない。かせきあいだぁというアーティストのアクの強さが良い意味で出ている作品だと思います。それはジャケットからも感じることなんですが(笑)。
たしかに内容もジャケに合った感じですね(笑)。ジャンク フジヤマさんの映像とかYou Tubeで観てて、そっちじゃない方向を目指そうって。決して仮想敵っていうわけじゃなくてね。ヒップホップ畑の人間なので、ポップスをずっと作って来た人には作れないアルバムを作れるんじゃないか!と。例えばベニー・シングスとかメイヤー・ホーソーンとか、オタクっぽさも感じますけど、ポップス・オタクが作ったものとは違うヒップホップ的な乱暴さがあったりするじゃないですか。そういうところは僕も強みとしてありますね。“ソーダフロートシャドウ”って曲で〈シャ・シャドウ♪〉ってEPOさんのコーラスを入れてますけど、感覚的にはコーラスじゃなくてラップ的な合いの手、イントロはヤマタツで、歌前のフィルはマイケル・ジャクソンでっていう、いちいちヒップホップ的な手法で、音楽好きがニヤッと笑ったりズッコケたり、なんだコレ!?って言われるようなものにしたいなって思いましたね。なんでこういとこを目指してるのか自分でもわからないですけど、そういうのが音楽のおもしろさっていうか……ねっ。
<インタビュー・文 / 久保田泰平>