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ホテルオークラ総料理長の美食帖 [著]根岸規雄

[文]青木るえか  [掲載]2012年10月05日

表紙画像 著者:根岸規雄  出版社:新潮社 価格:¥ 756

■デキるというのはこうであってほしい

 「ホテルオークラのフレンチトーストのつくり方」がネットに出ていて、その通りにつくってみたところ、これがうまい! 卵と牛乳の液に最低十二時間ひたしてフライパンでバター焼きというだけで、安タマゴにスーパーの牛乳にごく一般的な食パンでも、ものすごい美味しさだった。
 そのフレンチトーストを出してたホテルオークラ総料理長が書いた本。帝国ホテルの村上シェフとか志摩観光ホテルの高橋シェフとか、ホテル系の有名シェフは多いが、ホテルオークラって、シェフの名前で売ろうとはしてない気がする。著者の根岸さんも、申し訳ないけれどお名前は存じ上げなかった。だがオークラの、料理人の無名性みたいなものは良い。人は料理人の名声を食べるわけではない。この本で紹介される、スープでスープをとるダブルコンソメや、ローストビーフもそれが名物だとは知らなかった。でもオークラの料理は素晴らしいとされていて、多くの人を満足させている。デキるというのはこうであってほしい。
 私は、ホテルオークラに入ったことすらない。自分でつくったフレンチトーストでは、オークラの料理を食べたとは言えない。他はほんとにうまいのか。なぜそんなことを言うかというと、この本に出てくる料理やレシピが美味しそうには思えないんです。たぶん、文章の問題なんだろう。もちろん著者は料理が本職だから「文がヘタ」と文句つけるつもりはない(文章は上手なぐらいだ)。でもヘタな文章でもヨダレが垂れそうなくらいに表現している文章がある一方、ちゃんとしてるのにどうも美味しさが伝わってこない文章がある。この本にある「熱いご飯にキャビア」なんて、しょっぱいだけみたいに感じるし、皇族方には熱いものは出せないという話では「ぬるそうな料理」という印象ばかりが頭に刻まれる……。
 いや、きっと、文章で美味しさを表現する、なんてことはどうでもいいのだ。要は、料理そのものが美味しければいいんだから。

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