2012年9月23日放送
受け身...縦割り組織...たらい回し...、変えられるか?"お役所仕事"
佐賀県の西部、およそ5万人が暮らす武雄市。SNSの一つ、フェイスブックを積極的に取り入れている自治体として知られています。武雄市では去年8月、インターネット上の行政情報を、フェイスブックに移しました。これまでは、市民がホームページにアクセスしなければ情報は得られませんでしたが、フェイスブックでは市が情報を掲載すると、登録している市民に自動的に発信されます。情報が確実にリアルタイムで届くのです。さらに市民からも意見や質問を市に伝えることができ、そのやりとりは、原則、公開されます。武雄市がフェイスブックの導入を決めたのは、役所と市民の間にある"垣根"を取り払おうと考えたためです。
この4月、市役所に設置されたフェイスブックを活用する専門の部署「フェイスブック・シティ課」。この課の主任、浦郷千尋さんは、フェイスブックの情報に関心をもってもらおうと、おもしろそうな話題をいつも探しています。町によってデザインが違うマンホールや、夏休みの宿題のお助け情報、役所の職員募集も、ちょっと刺激的な文句を使っています。 "受け身"と言われているお役所仕事が変わりつつあります。
また、フェイスブックの導入で市民にも変化が。以前から市の情報提供が不十分だと感じていた女性。この日「どこの課がどの階にあるかわかるようにホームページ上に配置図を載せてほしい」と投稿しました。すると...その声を受け取ってから3時間足らずで、役所の案内図がフェイスブック上で見られるようになりました。こうした早い対応が可能になったのも、届いたメッセージはすべて、職員全員が24時間見られる仕組みになっているからです。いち早く気づいた職員が投稿者に返信をして、担当部署に伝えます。武雄市が職員390人全員にフェイスブックへの登録を義務づけることでこうした連携が可能になっているのです。
また、フェイスブックを通して伝えられた防災情報によって、行政と市民が近づいています。今年7月。11日から14日にかけて九州北部を中心に襲った「九州北部豪雨」。当時武雄市では、大雨洪水警報が発令され、土砂災害への警戒が高まっていました。刻一刻と変わる情報を浦郷さんたちはフェイスブックで発信し続けました。深夜0時すぎ、フェイスブックには市民から感謝とねぎらいのメッセージが。「(浦郷さん)行政って『ありがとう』と言われることが少ないんです。やりがいになります。」...しかし、SNSを通した情報提供は必ずしも万能ではなく、9月15~17日の台風16号のときには、武雄市のコンピューターに不具合が生じて、災害情報が市民に十分に伝わらないという事態も発生しました。いざという時に情報が伝わらない...実はそんな課題も浮き彫りになっています。
スタジオでは、自治体のフェイスブックの仕組みをアナログ感満載のボードで説明しました。自治体がフェイスブックを通して情報を発信。すると自動的に市民に伝わっていきます。一方、市民の側からも自治体にメッセージを送信することができ、その内容はほかの市民にも共有されます。その最大の特徴が「いいね」。誰かが発信した情報に「いいね」と共感すると、その内容がその人の友達にも伝わり、その友達もその内容に「いいね」と共感すると、そのまた友達にも広がっていく・・・この波及効果こそフェイスブックの大きな魅力と言えます。
しかし行政サービスとして導入するには慎重な意見もあります。フェイスブックは個人のプロフィールを公開してやり取りする仕組みなので、設定次第では、職業や生年月日、それにメールアドレスなども不特定多数の人に筒抜けになってしまう恐れがあるからです。さらに、当たり前ですがインターネットにつながっていない、使えないという方には情報が共有されず、伝わらないことになります。また、市が導入しているフェイスブックとは別ですが、武雄市の市長が個人的に利用しているネットサービスから市長のプライベートの住所録が漏れていたという出来事もあり、あらためて不安に思った方もいるようです。
宮崎美子さん(女優)
でも、やっぱりね、実名で何か意見を述べると、責任を持つことになると思うんですけど、じゃ、そこに書かれていることが本音なのかどうか?例えばちっちゃな町だったりすると、意見を求められたときに「こうしなきゃいけない」ということが、一種の踏み絵みたいに試されるようなことはないかとか、ちょっとそんなことも考えてしまうんですけど・・・。
岩手県・陸前高田市。9月、津波で唯一流されずに残った「奇跡の一本松」をいったん伐採し、保存することになりました。保存などにかかる費用の見積もりは、およそ1億5000万円。市にとって大きな負担です。そこで、フェイスブックなどを使って、世界中に募金を呼びかけることにしました。陸前高田市の古賀龍一郎さんは、フェイスブックを使って町の出来事を発信し続けています。今、古賀さんは被災地に対する関心が薄れつつあることに強い危機感を持ち、全国の人々に少しでも関心を持ってもらおうと陸前高田市の季節の変化や身近な話題などを発信しています。「ガレキだけが被災地じゃない」。この日、市が運営するフェイスブックに掲載したのは赤く色づき始めたリンゴ。掲載からわずか1日で共感の輪は800人以上に広がりました。
フェイスブックは、地域で頑張っている被災者の支援にもなっています。この日、古賀さんが訪れたのは、今年1月に創業したばかりのせんべいメーカー。社長の菅原泰葉さん(23)は地元の人たちをパートで雇い会社を経営しています。大学卒業間近の去年3月、菅原さんは仙台市内で震災に遭いました。宮城県内の企業に就職が決まっていましたが、地元の力になりたいと生まれ育った陸前高田に戻ることにしました。町の新たな特産品を作ろうとせんべいに注目した菅原さん。職人を招いて基本から教わり、香りをひきたてる地元産のしょう油を使ったせんべいを作りました。
復興への熱い思いがつまったせんべい作り。しかし売り上げは思うようには伸びませんでした。そんな時、声をかけたのが、市役所の古賀さんでした。市のフェイスブックに商品を載せてみないかと持ちかけたのです。市では、フェイスブック上に独自の通販サイトを設けています。ここで商品を紹介すれば、新しい販路が開ける可能性があるからです。掲載から2か月あまり。菅原さんのもとには全国からの注文に加え、応援のメッセージも届くようになりました。「(菅原さん)フェイスブックでなければつながりを持てなかった方々に、おせんべいを知ってもらえた。『買いましたよ』とか『頑張ってください』という声は、一番励みになる。」
陸前高田市が復興支援で始めた通販サイトに、古賀さんは今、確かな手応えを感じています。この日は、津波で本社と施設の半分を失ったキノコの生産会社を訪れました。商品だけでなく、作り手の様子もフェイスブック上に掲載することで地元の人たちを応援していきたいと古賀さんは考えています。「ちょっと・・・暗めにして」「ハイ」「いいんでないかい?」カメラマンに指示する姿はまるでディレクター。「(古賀さん)やってること、どう考えても市役所の仕事じゃないんですけどね(笑)でもねこういうのも楽しい。」情報への共感によって、人と人とを結ぶフェイスブック。そのつながりが、復興に向かう力になっています。
※出演者のプライバシー保護のため、写真・文章の一部を修正しました。
岡田豊さん(みずほ総合研究所主任研究員)
いま、地方の自治体には、人口の減少とか、高齢化が進んでいるとか、または産業がどんどん撤退していくとか、いろんな問題あるんですけど、そういう解決策っていうのは、もう身内だけでは難しい状況ですね。今までやってきたのは主に行政だと思うんですけど、それはもう、住民も企業も、まあ敢えていうなら外部の方もそうですけど、みんなの知恵を使ってでも変えていかなきゃならない。そういう時代にとって、SNSやフェイスブックっていうのは、郷土愛を持っていただいたり外部にファンを作るには、非常に大きな意味合いがあると思うんですね。