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「安定ヨウ素剤予防服用の考え方と実際」

司会

それでは、基調講演に移ります。「安定ヨウ素剤予防服用の考え方と実際」と題しまして、放射線医学総合研究所の明石真言先生にお願いいたします。座長は、前川和彦先生にお願いいたします。

前川先生は、東京大学医学部医学科を卒業され、現在は公立学校共済組合関東中央病院病院長、財団法人原子力安全研究協会研究参与でいらっしゃいます。また、原子力安全委員会の被ばく医療分科会及び緊急被ばく医療のあり方に関する検討会の主査をされています。それでは前川先生、よろしくお願いします。

●前川

それでは、早速基調講演に入ります。今日の基調講演のテーマは、「安定ヨウ素剤予防服用の考え方と実際」です。この後にありますシンポジウムの前座として、総括的なお話をしていただくことになっています。

慣例によりまして、演者の明石先生の略歴を簡単に紹介させていただきます。先生は山形大学医学部を卒業後自治医科大学でレジデント(研修医)をされ、その後、二度にわたって渡米され、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で研究生活をされました。放射線医学総合研究所に入られたあとは、重粒子治療研究センター障害・臨床研究部、緊急被ばく医療センターを経られて、今年の4月に緊急被ばく医療研究センターのセンター長になられました。今日は、「安定ヨウ素剤予防服用の考え方と実際」のテーマで、包括的なお話をお願いできるかと思います。よろしくお願いします。

●明石

前川先生、ご紹介どうもありがとうございました。

今日、私に与えられましたテーマは「安定ヨウ素剤予防服用の考え方と実際」ということで、お話をさせていただきたいと思います。具体的には、我が国の原子力災害時の安定ヨウ素剤の投与の方法等につきましては、後でシンポジウムの先生がいろいろ述べられますので、私はヨウ素剤がどうして効くのかという基本的なことを話させていただいた後に、我々放医研が、よく地方自治体や住民から聞かれる質問、例えば、安定ヨウ素剤は法的にどういう位置づけになっているのか、他のヨウ素を含む製剤をなぜ飲んではいけないのか、なぜ各家庭に前もって配布をしないのか、そこには何の問題点があるのか、という問題ですが(スライドNo.2)、これについて、時間の許す限りお話をさせていただきたいと考えています。

まず、なぜ安定ヨウ素剤を投与するのか、ということです。これは皆様恐らくご存じだと思いますが、放射性ヨウ素を、住民、もちろん防災関係者も含めまして、我々が体内に摂取をしてしまうと、10〜30%ぐらいが甲状腺に沈着します。急性障害を起こして甲状腺機能低下症を起こさないような場合には将来的に甲状腺の発がんにつながるだろう、ということがまず基本的な考え方です(スライドNo.3)。

では、安定ヨウ素剤をあらかじめ飲んでおいてはどうでしょうか。つまり、体の中に放射性ヨウ素が入ってくる前に安定ヨウ素剤を飲んで、甲状腺に放射性のヨウ素が沈着しないようにしようというのが、安定ヨウ素剤を飲むという考え方です。これが結果的に甲状腺の被ばく線量を低減するという考えです(スライドNo.4)。

これを簡単に漫画で書いたものですが(スライドNo.5)、例えば放射性ヨウ素が体の中に入ってきた場合、先ほど10〜30%が甲状腺に沈着をするという話をしましたが、この放射性ヨウ素が体の中に入ってくる前、もしくは入ってきて非常に早期に安定ヨウ素剤を飲んでおくと、甲状腺に安定ヨウ素剤が充分含まれるので、その後から放射性ヨウ素が体の中に入ってきても、甲状腺の中に沈着しないで尿中に排泄されてしまうという考え方です。ですからここで一番重要なことは、放射線事故があるたびに安定ヨウ素剤が売れたり、臨界事故でも安定ヨウ素剤が売れるという話が出てきますが、もちろん安定ヨウ素剤は万能薬ではありません。放射性ヨウ素を甲状腺に沈着させないために使う、それしか効かないということをまず理解していただくのが重要なことです。もちろん安定ヨウ素剤につきましては、体の中に放射性ヨウ素が入ってきた早期の場合には、まだ完全に放射性ヨウ素が甲状腺に沈着をしない時間においては安定性ヨウ素が全体のヨウ素を希釈するということで、甲状腺が取り込む確率が減るという考えもありますので、非常に早期には恐らく効果があるだろうと考えられてきています。

ここに、1980年に『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』誌に発表された論文があります。これはどういう論文かといいますと、健康人にヨウ化ナトリウム(I−123)を非常に低い濃度、トレーサーレベルで、タイム0の時間に注射で、ワンショットで体の中に入れ、その前に安定ヨウ素剤を飲んだ場合、それから3時間後、6時間後に飲んだ場合、それぞれどれぐらいの割合で甲状腺にI−123が沈着されるのを阻害するのかという、ヒトを使った実験についてのものです(スライドNo.6)。

表でいうところの100というのはほとんど溜まらず、逆に、0はほとんどが溜まってしまうということです。要するに0を安定性ヨウ素を飲まないときの量として、比較をしたものになります。これで見てみますと、放射性ヨウ素が体の中に入ってくる数時間ぐらい前までに安定型のヨウ素剤を飲んでおけば、ほとんど甲状腺には放射性ヨウ素は溜まらないという結果になります。3時間後、6時間後になってくると急速に阻害率が落ちてしまいます。ですから、なるべく早く、またあらかじめ飲むというのは、恐らくこういうことをもとに言われていると考えていいのではないかと思います。

もう1つ同じ論文の中に、実際に安定ヨウ素剤をどれぐらい投与すればいいのかということがあります。同じような実験、これは私どもが論文の中に出ているデータをグラフにしたものですが(スライドNo.7)、例えばヨウ化カリウム(KI)を30mg、50mg、100mg飲んだときに効果に差があるのかというのを見たものです。これについては、実際ここにスタンダードプランは出ていませんが、30mg、50mg、100mgでは統計学的に差は出てきません。つまり、30mg以上飲むことで安定型のヨウ素剤の効果は出てくるということが示されています。原子力安全委員会の『原子力災害時における安定ヨウ素剤予防服用の考え方について』もこういうことを反映して、例えば成人の場合で40歳までの場合は、ヨウ素にして76mgという量が設定されているのは皆さんご存じのことと思います。

それから、今日はこのことを特に取り上げようということではありませんが、現在、原子力災害時における安定ヨウ素剤の投与の基準は各国によって多少ばらつきがあります(スライドNo.8)。例えば、IAEAとWHOでは多少の差があります。我が国では現在、飲み方と飲む量は違いますが、基本的に1歳の小児の甲状腺の等価線量で安定ヨウ素剤を投与することが決められています。

問題は、ヨウ素を含む製剤は時々副作用があるということです。これはチェルノブイリ原子力発電所の事故のときのポーランドでの安定ヨウ素剤の投与量について、またその副作用についてまとめたものです(スライドNo.9)。これで見てみますと、非常に軽いと言われている安定ヨウ素剤の副作用が、成人の場合、大体1万分の6(6×10−4)ぐらいあります。さらに重篤な副作用になってくると、さらにそれよりも1,000倍ぐらい下がりますから、それほど高くないことがわかっていますし、実際に若年層ではほとんど報告がありません。それから、一部の人たちに嘔吐や下痢など、胃腸の症状が見られたという報告がありますが、はっきりと安定ヨウ素剤によるものかどうかは不明であると、この論文では述べられています。このように安定ヨウ素剤については、基本的に放射性ヨウ素にしか効かないということと、それから時々副作用があるということが現在では問題になっていますし、それを十分加味した上で安定ヨウ素剤の投与について決められているということです。

これが安定ヨウ素剤の基本的なことなのですが、それでは安定ヨウ素剤は日本ではどういう法的な位置づけになっているのでしょうか。これは時々自治体から、実は今年になってからも既に3件ぐらいの問い合わせが来ています。多くの問題点がありますが、一つは指定医薬品ということで、薬局や薬剤師による管理を必要とする薬剤であるということが、現在の法律では位置づけられています。それから、医師や歯科医師もしくは獣医師、または病院などの施設の開設者以外は保管することができません(スライドNo.11)。自治体がどういう考え方をしているかというのは後で述べさせていただきますが、基本的にはこういう法的な位置づけがあるということです。よく言われているように基本的には処方箋で投与するものであるという、日本の法律的にはこういう位置づけをされているということです(スライドNo.12)。

もう1点、安定ヨウ素剤は劇薬指定を受けています。これは薬事法第44条で、毒性が強いものとして厚生労働大臣が指定をするということで、販売したり授与の目的で貯蔵したり陳列してはいけないということが書かれていますし、ここにこういうマーク(スライドNo.13右下のマーク)を付けるということもきちんと位置づけられています。インターネットを見てみますと、安定ヨウ素剤が買えるというのは皆さんご存じだと思いますが、東海村の事故のときに日本海側のとある地域でかなり安定ヨウ素剤が売れたというのをテレビが報道しています。安定ヨウ素剤については、もちろん買うことがいけないというばかりではなくて、副作用がありますし、正しい使い方をしなければいけません。なぜ安定ヨウ素剤が売れたのかということ自体ですが、東海村の事故で日本海側の人が安定ヨウ素剤を飲む必要はまったくなかったわけですし、東海村でもなかったわけですが、実は安定ヨウ素剤についてはまだかなり誤解と間違った投与方法、間違った貯蔵方法が蔓延しているのが現状です。

いかにもこういう法律的なことを言うと、安定ヨウ素剤を買ってはいけない、投与してはいけないと思われてしまいますが、今までの原子力安全委員会の報告の中では、基本的に誤った飲み方はいけません、副作用は避けなければいけませんというようなことと、それから各戸配布するのではなくて、周辺住民等が避難した場所において安定ヨウ素剤を服用するということが述べられています(スライドNo.14)。特にこの場合にこういう副作用や投与についてですが、医療スタッフがいるところで、そこで派遣して投与することが望ましいというふうに原子力安全委員会ではきちんと述べています。

これについては、実はいろいろ問題点もあります。例えば、緊急避難的に医薬品を投与するという考え方もできるかもしれませんし、それから、ここでは医薬品として考えるのではなくて、資機材として考えてもいいのではないかというさまざまな考え方もありますが、現在のところ、皆さんもお気づきになっていると思いますが、どれもしっくりとしませんし、放射性ヨウ素が環境中に出た場合こういう位置づけだというようなきちんとした考え方はまだできていません。まだこれから整備が必要かなと私どもは考えています。

もう1点は、医薬品として認められるためには、ヨウ化カリウムをどのようなときに使ったらいいのかという、効能についての問題があります(スライドNo.15)。これは安定ヨウ素剤の使い方として、甲状腺腫に使ったり、第三期梅毒、喀痰が出ないとき・困難なときに使うということも出ていますが、現在ではこういう使い方、特に最後の2つにつきましては、こういう使い方を現実にすることはほとんどありません。これは東海村の事故の近くになりますが、平成11年に「適応外使用に係る医療用医薬品の取り扱いについて」ということで、厚生労働省の2つの課から各自治体の衛生部の担当者に通達を出しています(スライドNo.16)。これを見てみますと、最近医薬品がいろいろ適応外に使われることがあって、これについてはいろいろ研究をしていますが、最近の考え方が少し変わってきて、いろいろな医薬品について適応外で使うことが可能であるとされてきています。つまりどういうことかといいますと、必ず効果がある場合ですとか、科学的根拠がある、それからきちんとした論文に科学的根拠が示されている等の場合には、どういう使い方ができるのかということについてきちんと申請を出します。この薬自体を使うということではなくて別の同種薬を外国から買わなければいけない場合もありますが、そうすることでそれを使えるような方向になってきているという一つの考え方です。

例えば、承認された効能又は効果について関係学会からの要望があって、医療上必要と認められる場合であったり、そういう要請があった場合には、臨床試験等の実施及びその試験成績に基づく必要な効能等の承認事項を一部変更申請を考えるような方向にしてくださいという、そういう考え方も実は出てきています(スライドNo.17)。

もう1つの考え方としては、適応外使用について、医学薬学上公知であると認められる場合には承認の可能性があるということで、外国、特にいわゆる先進国、ここでは「例えばアメリカ」という具体的な名前を出していますが、そういうところですでに効能が認められている場合や、科学的根拠があり当局にそういう申請を出した場合、また国際的にもきちんと信頼できる学術雑誌に掲載されたデータがある場合については、きちんと認可される可能性があるということも実は示されています(スライドNo.18)。

今お話ししたように多くの点に問題はありますが、もう少し法的に、それから学会等の考え方で、まだまだ改善する余地はあるのではないかということが考えられています。

それからもう1つ、どうしてほかのヨウ素を含む製剤を飲んではいけないのかということです。実は、私ども放医研に随分電話の問い合わせがありまして、東海村の事故のときにヨードチンキを飲んだという方もいますし、それからうがい薬を飲んだ人、消毒用の石けんを飲んだ人もいます。それから、コンブをどれぐらい食べればいいのかですとか、自然食品の中に入っているヨウ素をどれぐらい食べればいいのかなど、実はいろいろな問い合わせが来ました。実際、我々の身近にヨウ素を含んでいる薬はどれぐらいあるのかを少し調べてみますと、ヨードチンキがあったり、うがい薬があったり、消毒用石けんがあったり、それから皮膚・粘膜、傷の消毒をする薬があったり、ルゴールや軟膏など、実はたくさんあります(スライドNo.20)。基本的にはここに書かれているものは飲むために作ったものではありませんし、ヨウ素を体の中に摂取するために作ったものではありませんので、飲まないほうがいい、飲むべきではないというのが基本的な考え方ですが、それでも飲んでしまう人がいます。では、なぜ飲んではいけないのかということを、あまりこういう機会に触れることがないので少し触れさせてください。

例えば、ヨードチンキの場合ですが(スライドNo.21)、組成を見ていただきますと、単体のヨウ素が入っていて、それからKIが入っていますが、エタノールが1l中に734mlという、ウォッカ並みの強さのすごいアルコールの量になっています。ウィスキーでもこの半分ぐらいです。ですから、ぜひこういう数字を覚えておいて、飲んだりしないでほしいのです。ヨウ素剤100mgのためには1ccを飲めばヨウ素としては足りる量です。ただ、70%以上がアルコールですから、非常に不快感があります。もちろん好きな人もいるのでしょうが、子供にこういうものを飲ませるわけにはいきません。

それからもう1つ、ここにヨウ素単体(I2)の他にKIが入っているので必ずしも酸化作用はそれほど強くはありませんが、ただヨウ素の単体自体は非常に酸化作用が強く、消化管を荒らしたりいろいろな作用があるので、日本では内服の適用という考え方は持っていないということです。

それから、うがい薬があります(スライドNo.22)。うがい薬に入っているヨウ素はポピドンヨードというもので、ポリビニルピロリドンとヨウ素の製剤で、ポリピニルピロリドンについては食品衛生法や日本薬局方で人体への摂取は認められていないということがあります。ちなみに、うがい薬の場合は飲むものではありませんが、ウィスキー程度の37%のアルコールが入っています。ここに書いてありますように、メントールやハッカ油が入っていますが、これも飲むものではありませんから、当然消化管や粘膜を刺激する可能性も非常に強くあります。ヨウ素製剤として、うがい薬を14.3ccも飲むのは結構大変なことで、とんでもないことだと思いますが、こういうことで飲むべきではありません。

それから、石けんを飲む人はなかなかいないと思いますが、実際に飲んだ方がいます。消毒用石けんについても、内服してはいけない理由は、やはりここにポリビニルピロリドンなど、飲めないような製剤がいっぱい入っていることもありますし(スライドNo.23)、それ以外の成分でも、ほとんどここに入っているものでは、日本薬局方、食品衛生法では、食品として我々が口の中に入れるものではないというものばかりで、これも当然のことながら飲むことはできないということになります。

それからいわゆる消毒用のイソジンです(スライドNo.24)。これについてもポピドンヨードが、つまりポリビニルピロリドンが入っています。それから、ここにマクロゴールというものが入っています。これも薬事法、食品衛生法上も内服することが認められていないので、飲むのに適さないということになります。

くどいようですが、ちなみに軟膏などでも、ポピドンヨードという、やはり飲むものではないものも多く含まれているということで、結論的には安定ヨウ素として100mgにするためには軟膏を10g食べればいいのですが、こういう飲み方も食べ方も適切ではありません(スライドNo.25)。ヨウ素の含有を数えるのもなかなか難しいので、安定ヨウ素剤をきちんと飲むということが基本的な考え方になります。

それからルゴール液についても、ハッカ油ですとか、それからフェノールが入っています(スライドNo.26)。ですから、これも飲むのには適さないですし、日本では食品添加物としても実は許可されていないものです。

以上、1つずつ説明させていただきましたが、正しい安定ヨウ素剤以外を飲むことは非常に不合理で、ほかの健康影響が出るということを説明させていただきました。

最後に、では安定ヨウ素剤を各戸配布すると万が一のときに迅速に投与できると思いますが、どうしてやらないのかということについて、アメリカの経験として、事前配布をしたところが現在はどういう考え方を持っているのかということについて話をさせていただきます。

1981年、アメリカでも多くの原子力施設があるテネシー州で、各家庭への安定ヨウ素剤の事前配布を経験しています。これは幾つかの論文ですとか他にも刊行されて出ているものですが(スライドNo.28)、2004年以降、新しい考え方も出てきたので、これについて簡単に説明させていただきます。

ご存じのように、テネシー州はあまり大きな州ではありませんが(スライドNo.29)、非常に原子力施設が多くて、オークリッジ等を訪ねられた方はわかると思いますが、外国人立入禁止などの地域が随分たくさんあります。私も一回行ったときに夜迷ってしまって、パスポートを見せろとか、ものすごく厳しい警備に遭ったことがありますが、そういう州です。

では、1981年にどんなことをしたのでしょうか。実は、テネシー州にある原子力発電所の防災訓練で、周辺8kmぐらいのところの各家庭に安定ヨウ素剤を配るのにどのぐらいの時間がかかるのか、どうやったら全員に行き渡るのか、これは訓練などで救護所に来た人に与えるのではなくて、実際に事故が起こったときにいかに住民に100%いくだろうかというシミュレーションをしてみました。そうしましたら時間がかかり過ぎて、とても100%の人に配ることができないという結果が出ました(スライドNo.30)。問題は、時間がかかり過ぎるということと、やはり取りにこない人などがいるということです。それからもちろん、安定ヨウ素剤についての理解が足りないということもいろいろあるということですが、とにかくそういうシミュレーションをしてみたら全員に配ることは難しいという結論に達しました。

そこで、あらかじめ各家庭に安定ヨウ素剤を配っておいたらどういうことになるだろうかというパイロットスタディを計画して、原子力発電所から8km以内の全家庭(5,591家庭)に3週間ぐらいかけて、安定ヨウ素剤と調査用紙を配ることを決めました(スライドNo.31)。きちんと住民が対話ができる、つまり「対話の訓練を受けさせた」というふうにその論文には書いてありますが、38名の保健師や環境の専門家、救急医療のコーディネータや養護教員など、訓練を受けた人全員を丸一日教育をして、その人たちがこの期間にわたって各戸に安定ヨウ素剤を配布に回りましたが、実際には5,591の家庭のうち受け取ったのは66%にしかなりませんでした。そのうち直接配布できたのが3,000少し、それから留守等でいない人については保健所に取りにきてくださいということで配ったのが700弱あり、合わせて大体66%に配ることができましたが、これだけ時間をかけて66%しか配ることできなかった、ということです(スライドNo.32)。

ただ、その反省点と同時に、実際に安定ヨウ素剤を配ったときに何が一番いいことであったかというと、住民に対して安定ヨウ素剤と原子力防災の教育がすごくよくできたということで、何といってもマスコミの理解が全然変わってきたということです。安定ヨウ素剤を配ったということよりも、こちらに大きな視点が置かれたという結論が出ています。

それからもう1つ反省点として、2年後の1983年にテネシー州としての結論を出しました。それは、これだけ事前配布しようとしても66%にしか配れなくて、非常にお金がかかった、これだけ時間とお金をかけても66%にしかいきわたらなかったということで、費用の問題からこれからは安定ヨウ素剤の配布をやっても意味がないということです。その後は、安定ヨウ素剤を保健センターに置いておくので、自分で持ち帰りたい人は持ち帰ってほしいという制度に切り替えました。そうすると、1990年代ぐらいまでは20%ぐらいの家庭が保健所に取りにきて持っていきました。ところが、だんだん減ってきてしまい、2003年に何%持っていったかというと、5%しか取りにこなくなってしまったという事態が生じてきています(スライドNo.32)。

それでは、現在テネシー州では安定ヨウ素剤をどう考えているのかということですが、まず1点は、非常に各戸配布が難しいということで、最近アメリカではstockpilesという考え方が定着してきています(スライドNo.33)。これは地域に備蓄するということで、各戸配布はしないということになります。やはり日本と同じように、避難してきた住民に対して保健師が配布をしますし、それから学校には備蓄はしません。それはなぜかというと、適切な指示を出せる人が学校にはいないからです。したがって、子供についてテネシー州の現在の考え方としては、安定ヨウ素剤を配るよりも避難を最優先させています。去年の11月現在ではこういう考え方になっているということです。

非常に雑多なことをいろいろ述べてきました。まず現在の安定ヨウ素剤については、こういう法的整備ですが、まだ不備な点もあり必ずしもしっくりこない点がたくさんあるということもありますので、こういう効能書きの追加ばかりではなく、位置づけをしっかりしたり、安定ヨウ素剤の製剤を考えたり、やはりそういうことをきちんとするべきかなと私どもは考えています。

第2点は、やはり必要なときにヨウ化カリウムを服用するということで、ほかの製剤やヨウ素、またはコンブを食べたりなど、ヨウ素剤が適切に体内に摂取できないようなものを服用するべきではないということについて、やはり教育をもう少しきちんとしておく必要があると思います。

それから各戸配布につきましては、各家庭での保管にはやはりまだまだ法的問題もありますし、法的問題ばかりではなくて、テネシー州の経験からもなかなかうまくいかないということがあります。テネシー州でも、日本でもそうですが、例えば66%の家に配られたものが、実際1年後に防災訓練をやって、安定ヨウ素剤を出しなさいと言われたとき、その66%の家からは多分半分も出てこないのではないでしょうか。そうすると、実際に投与できるのは30〜40%しかいなくなってしまいます。それではあまり意味がないだろうということもテネシー州の経験からは出てきています。

それから、もっと困ったことには、その論文には載っていませんでしたが、安定ヨウ素剤は66%の家庭に配布されたけれども、飲んでしまった人が10%ぐらいいたということです。つまり、いろいろ教育したけれども、すぐに飲んでも悪くないだろうと思われてしまったのです。前もって飲みなさいという教育ですが、いつか事故が起こったときのために、保管せずにすぐに飲んでおけばいいだろうという人も実はいたということなのです。つまり、前もって配っておくことでは、安定ヨウ素剤を適切に飲ませることはなかなか難しいということも彼らの反省点です。

我が国でも、例えば実際に救護所へ安定ヨウ素剤を持っていく訓練はしますが、実際にはその救護所に来た人だけにも安定ヨウ素剤を配っていませんし、実際の住民は、訓練に参加する人の例えば100倍も人口がいるわけです。そういう人たちに実際に安定ヨウ素剤を配るのにどれぐらい時間がかかって、何が問題点で、来ることができない人にはどうするのか、それから時間がどのぐらいかかるのかなど、住民みんなに飴玉を配って、何%の飴玉が口に入るのかということでも恐らくやってみないと、なかなか実効的な安定ヨウ素剤の服用はできないのではないかと私どもは考えています。

今日は少し雑多な問題ですが、3つほど大きく分けて問題を話させていただきました。少し時間は早いですが、これで私の講演を終わらせていただきたいと思います。どうもご清聴ありがとうございました。

●前川

どうもありがとうございました。特に明石先生にこれだけは聞いておきたいという方がいらっしゃれば、せっかくですので、いかがでしょうか。この後もシンポジウムがありますので、フロアの方で疑問のある方はそのときにぶつけていただければよろしいのですが、今のご説明の中でこれだけは聞いておきたいということがあれば、ぜひ今のうちに聞いていただけるとありがたいと思います。何かありませんか。

1点だけよろしいでしょうか。ポーランドの多数の住民に対する投与例の論文で一番懸念されたのは、新生児に対する過剰投与です。TSH(甲状腺刺激ホルモン)を測ってみると、上がっていて、一過性の甲状腺機能低下症が起こります。だから新生児期に、成長、特に知能的な発達の見られる時期に、そういうことがあっていいのかどうかという議論が出ていましたが。

●明石

先生のおっしゃるとおりで、実は今日はそれに触れませんでしたが、新生児もさることながら、長崎大学のスタディでは正常人でも100mg、76mg、もうちょっと少ない量ですが、10日か2週間投与すると甲状腺機能が低下するという論文が出てきています。ですから、日本の場合には1回しか飲みません。それから、もちろん避難を優先させますし、投与量もかなり落としています。ポーランドのときは実はあまり製剤を細かく分けていなかったということもあってそういう問題が出てきていますが、我が国では、どう実効的に飲ませるかというのはまだ問題点があると思いますが、その可能性は大分減っていて、多分反省点かなと思っています。

●前川

ありがとうございます。この時間は後のシンポジウムにお譲りすることにしたいと思います。どうも先生、ありがとうございました。これで基調講演を終わります。

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